異世界転生請負人・渡界人~知られざる異世界転生の裏側公開します

紀之

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1章 無色透明な習作

8転移と転生

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その後清掃業者を呼んで部屋の荷物を引き取ってもらい、その代金を払うと渡は大家に鍵を返して、私達は帰宅の途についた。

その途中私はある疑問を抱いた

「今回は異世界転移だったが、転生の場合はどうなるんだ?あれも色々なパターンがあるけど」

「そうだな。転移と転生の違いはその異世界のひっ迫度、言い換えれば世界滅亡の危険性の度合いによる。転移系はもはや一刻の猶予もない場合だ。転生などして赤子の状態で一から成長を見守るなんて悠長なことをしていられないくらいのね。転生型はその危険度がそこまではないという事でもある。一番メジャーな奴は赤子としてどこかの貴族連中の所に生まれたり拾われるのが多い。
非常に特殊な場合を除いて戦士だの魔法使いだのの訓練を積む暇は農民や商人の生まれではなかなか無い。その辺は我々の世界と変わらない。この世界の英雄と呼ばれる偉人の大半に農作業をしながら偉業を成し遂げたという話を殆ど聞かないのと同じさ」

その話に同意しながら

「だがあれも前世、つまりこの世界の知識なり記憶を持っている事が大半だけど」

「君の言いたいことはわかるよ。僕もそういう物は向こうで生きていくには邪魔だからというんだけど大抵聞き入れない。知識があるという事と知識を使えるという事は実際には違うという事を彼らは知らないんだよ。転移にしろ転生にしろ異世界に行く現代日本人の大半は都市生活をただ享受しているだけの大衆で、一例として水道・電気の仕組みやその発展の歴史などに興味のある奴なんかほぼいない、と言っていい。向こうの世界の住民に必要としているのはまさにそういう知識なんだけどね。向こうの世界の神様連中もこの点は大して気にしてはいないからそのままにしているがね」

「だが活躍しているぜ。その知識なりを使って」

「悪用の間違いだろ。本来転生の主たる理由は自然な形で異世界に馴染んでもらうためにあるんだ。貴族の家に生まれるのも義務という物が自然な形で身に着く環境下だからであって勝手気ままに生きる為ではない。成長の過程で横道に逸れ過ぎて本来の使命を果たす前に死んだりして世界そのものが滅ぶというケースはままあるんだ。そういう事もあって転生系は転移よりも気を付けねばならない。異世界を救う者が異世界を滅ぼす者になってはならないからね。このような事情で僕らの業界では転生系の仕事を達成できたかどうかで信用の差が生まれるのだ。ただ最近の現代人側は転生系が多くてこちらと異世界側は転移系が欲しいというニーズのミスマッチが多いんで少し困っているんだよ。その矢先に今回の惟賀正義の一件はまさに喉から手が出るほどの案件だったという訳だ」

「その事なんだが、現実の人間とどう接触しているんだ?君の言い方じゃ異世界転移や転生を本気で信じている人間はいないという事だが」

「方法はいくらもあるさ。その一人は君も見ている。ほら、昨日レストランでの我々の隣の大食漢を覚えているかい?あれもその一つだよ」

「彼も依頼人なのか?だからって会計までしてやるのはやりすぎだと思うけど」

「彼とは今日この後会う事になっている。転生したいんだとさ」

渡は全く気にしている様子は無かった。
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