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1章 無色透明な習作
9ありふれた依頼
しおりを挟む「彼とは今日この後会う事になっている。転生したいんだとさ」
渡は全く気にしている様子は無い。
「僕もいてもいいかい?」
「すまないが遠慮してくれないか。まだ99%君を信用しきった訳じゃないのでね。少々デリケートな問題も挟む事もあるんだ。会見の様子は明日説明しよう」
「そうか」
実の所彼の手がける異常な仕事に興味を持ち始めていた私はこの言葉にがっかりした。
翌日はバイトだった。
就業時間が終わるとすぐにアパートへ戻りまず渡の部屋の扉をノックした。
「何だ、残業か説教でも食らっているかと思ったらやけに早いな。今日君の所で昼食を買ったが心ここにあらずといった具合でミスを頻発していたね。僕の生野菜サラダを自分でも触れないくらいに熱してダメにしたのにクレームを入れなかったのを感謝したまえよ」
扉を開けるなりそう言った彼は私を部屋に招き入れた。
「それはすまなかったよ。しかしあの客が君だとは気がつかなかった」
「そんなに気になるかね?他人の転生なり転移なりが?」
「そりゃあ自分が行くとしたらどんな手続きをするのかとか気になるじゃないか。君にとってはありふれた依頼かもしれないが」
「だが、君はHP上の異世界には食いつかなかったみたいだが」
「ああいうのは駄目駄目。あれじゃあ行く奴は現れないだろう」
「そこがミスマッチといっただろう?どうして死にやすい職業や冒険に出たがるのか、そちらの方が僕には理解できないがね」
「あの男がどうなったか、早く説明してくれ」
「まあよかろう」
そう言うと彼はこう話を切り出した。
「彼の名は竜田浩平。まあ君とそんなに齢も境遇も変わらない、つまりフリーターという訳だ。違う所があるとすれば彼はある夢があってそれに向かって何年も努力しているが諸々の理由で挫折している、という点だ」
「彼の事をどうやって知ったんだ?僕の時と同じようにああいう現場を見られたのか」
「いや、街の図書館で見かけた。それから彼の周囲の事を探ってね。それで先日のファミレスの一件という訳さ」
話の腰を折られても嫌な顔をせず渡は続けた。
「『本当に異世界転生できるんですか?』という彼に僕は転生というからには死ななければならないが、方法はどうしますか?と尋ねたんだ。転生の依頼の厄介な所はまずここなんだ」
「それ、承知したのか?」
「無論かなり迷っていたよ。僕はあの試験管を見せてトラックに轢かれる特殊液か心臓麻痺を誘発させる液を見せた。すぐに用意できるのはこの2つだけだったのでね。どちらの液も死後送り込む先の異世界の神に発見できるよう、魂に特殊なマーキングを施す細工が仕込んであるので確実に異世界に行ける事を保証したよ」
「『本当に魔法が使える異世界に行けるんですよね』そう依頼人が不安がるので僕はもう一度説明しなければならなかった」
「どんな世界なんだ?」
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