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1章 無色透明な習作
15 勇者の伝記4 スキル覚醒
しおりを挟む店を出てすぐガースは案内の為私の前を歩いていたが、遂に空腹と疲労の為倒れてしまった。
「しっかりしろガース」
「もうダメだ勇者様。この先の森の賢者を呼んできてください」
「何、賢者?」
私はガースを助け起こし、肩を貸して歩きながら
「そんな人ならなぜ今回の事件の解決に一役買ってくれないのだね?」
「そりゃ、賢者なんて呼び出したのはこれが起きてからでね。それ以前ァ皆して変わり者と呼んでましたからね」
「遅かりし手のひら返しという訳か」
(ダメそう)
という感想を辛うじて押し殺して私は言った。
「だが、その賢者は何か手助けをしてくれるんだね」
「そりゃあ、もう。一粒で1日生きてられる種だが実だかを鉢の中に植えて栽培してましてね。それを分けてくれるんで」
「それでよく敵に狙われないな」
「さあね。それは魔物じゃないんで自分からは何とも」
ガースの言う事も尤もだと思い、人ひとり担ぎながらようやく森の入り口とその側のあばら家にたどり着いた。
「ここです、ここです」
「見ればわかる」
扉をノックすると茶髪の元気そうなガースと同い年くらいの少女が出てきた。
「ごめんなさい、リライブの実はもうないの」
「そんなあ~」
へなへなと崩れ落ちるガース。
「見ない顔ね。貴方は?」
「王が召喚した勇者殿、であろう」
奥から60歳くらいの厳めしい男性が出てきて言った。
「この方が」
「しかし勇者殿、ここにはもうあなた様を助ける物はありません。ワシは年老いておるし孫も半人前では」
「いえ、自分一人で行くつもりでしたから。その四天王とやらはどこにいるのですか」
「それは」
賢者が何か言いかけた時、どこかから声がした。
『イイイイイ、聞いたぞ。ついにこの時を待っていたぞ』
辺りを見回すと私達の後ろの地面が盛り上がり、地中から人間大のクワガタ虫とカブトムシを合体させたような怪物が現れた。
後ろの羽から紫色のガスを放っていて、それが草木を枯れさせていた。
「お前がイーワンか?」
「そうだ。お前達の絶望を深める為賢者の実が尽きるのを待っていたのだ。イイイイ、貴様が勇者とやらか。まさか本当に異世界から呼び出すとは。だがそんな貧相な装備で俺様には勝てん」
そう言うとイーワンは頭の三本の角からビームを放った。
「危ない!」
賢者がバリヤーを張ったおかげで私達は瞬殺されずに済んだ。
だがバリヤーは徐々にヒビが入り始めていた。
(俺は勇者らしいことは何もできていない。スキルとやらも発動する気配もない。だけど!)
バババッ
バリヤーが破られると同時に私は前に飛び出していた。
「ここに来たのは命を、人生を掛けるに値すると思ったからだ!なら今ここで全部くれてやる!」
『スキル鋼の意思が発動しました』
脳内に響く声に私は勝利を確信する。
「やはりこいつも・・・馬鹿だ?」
イーワンは自分のビームを受けて平然と歩いてくる私に驚愕の声を上げる。
「イイイイ、何故だ?」
「俺の国にこんな言葉がある。『心頭滅却すれば火もまた涼し』ってな!食らえライトイングブロウ!!」
私は渾身のアッパーカットを怪物の顎にぶち込む。
「イイイイッギャアアアア!!」
イーワンはそのまま天高く吹き飛ばされ、星となった。
私の圧倒的な力に賢者以外の全員がぽかんと口を開けていた。
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