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1章 無色透明な習作
16勇者の伝記5 決意
しおりを挟むイーワンが倒されたことで毒に侵された土が再生した。
同時に草花がみるみる元気を取り戻したように咲き誇り、作物が豊かに実りだした。
覚醒した私のスキル『鋼の意思』とは脳内に聞こえた説明曰く
『強く念じた事象を具現化させることができる。ただし、使用者の生命力を削る』らしい。
確かに脱力感が凄い。
(後どれくらい使えるのか?そうだ)
この世界に来て失望しきりだったため完全に忘れていたが、私はある事を思いつく。
「ステイタスオープン」
自分や相手の能力を数値化してみる事が出来る能力
これなくして異世界転生といえまい。
私のステイタスの技能欄にある『鋼の意思』は3/4となっていた。
(まさか後3回使ったら死ぬのか?)
そんな恐れを抱きながら従者のガースの能力を無断で見てみる。
デメリットがあるとなると仲間の助力はどうしても必要だからだ。
(全能力が俺の8分の1か)
これでは当てにならない。
「おじい様、おじい様しっかりしてください!」
孫娘が倒れた森の賢者の傍にいるのに目をやると勝手に2人のステイタスが表示され
(死にかけているだと!)
私は両目にステイタスを表示させたまま賢者に駆け寄った。
「賢者殿どうしてこんな無茶を」
「いいのです、勇者殿。リューネ、そして勇者の従僕よ。私は自分のやれること、為すべきことを愚直にやって来た。その結果私は救世主をお守りする事が出来、そしてこの方は儂らを救って下さった。それがこの世界から与えられた私の使命だったと今ようやく分かったのだ。リューネよ、儂の代わりにお前が勇者殿をお守りせよ。この方はきっとこの世界を救って下さる。勇者殿どうかこの世界を頼みましたぞ」
その言葉を最後に賢者のステイタスの状態表示が『瀕死』から『死亡』へと変わる。
(これはゲームじゃない。本当の死のある、現実なんだ)
リューネとガースの慟哭を聞きながら今更ながら私はそんな当たり前のことを現実の事として受け止めていた。
それまではどこかこのガムシャラットと呼ばれる異世界の全てが非現実的で住民である彼らを心の奥底で見下していた。
だが今はこの世界と彼らの運命は俺の双肩にかかっており、その使命を自分も果たしたいと思えるようになっていた。
「リューネといったね。君はおじいさんから、この偉大な賢者から残りの四天王について何か聞いていないか?」
「ダクリュ―、このそばを流れる川の名前なんですけど四天王の1体ドゥトゥ―が水源をせき止めて毒まで流しています。その先の霊山シャイロンの地下にもう一体、ドライトリーが鉱物をダメにしていると聞きました」
「最後の1体は?」
「その姿を見た物は誰もいないんです。もしかしたら悪神がいる島を守っているのかも。何しろ島周辺はそこだけ大嵐で近づく事さえできませんから」
「わかった。なら食料の次は水の確保だ。リューネ、協力して欲しい」
「はい、勇者様」
こうしてリューネの案内で私達は森の中へ川の上流を目指して進んでいった。
ちなみにリューネのステイタスは全てがガースの3倍で、いくつかの魔法も使えるらしい。
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