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1章 無色透明な習作
23 勇者の伝記12 いざ決戦の地へ
しおりを挟むアルバフィーラと名乗った四天王は鎖状の赤黒い羽を四方に伸ばす。
羽は国王・リューネ・ガースといった私を除く謁見の間の人々全員の首に巻き付く。
「動くなよ、勇者。この羽はお前の持つなまくらよりも切れ味は上だ。少しでも動かせばたちまち首が落ちる。黙ってこちらの攻撃を受けて貴様が死ねばこいつらの命は助けてやる」
「…いいだろう。だがその代わり必ずその人達を解放すると約束しろ」
「よかろう。貴様さえいなくなれば後は簡単だからな。同胞を殺した貴様だけは我が地獄の炎で焼き払わねば気が済まん。肉体だけでなく魂もな!燃え尽きろゲヘナブラスト!!」
アルバフィーラの広げた極彩色の羽から無数の高熱火炎が渦を巻き私を包む。
だが
「アルバフィーラ、お前が地獄の炎なら俺は女神シールトより授かった天の聖炎を見せてやる!!」
「馬鹿な!?俺の闇の炎が汚らわしい光の炎へ変わっていくだと?貴様は一体?」
「俺は勇者惟賀正義だ。受けろ、ライトニングフェニックス・クラッシュ!!!」
私は奴の炎を逆用して取り込み炎を纏った光の不死鳥へと変化させ、そのまま突撃した。
攻撃が当たる瞬間、アルバフィーラの目が光った気がした。
「そうか!クククッ、勝った!この戦い我らの勝利です、バーンゾック様今おそばn」
しかし特に何も変化はなくアルバフィーラは負け惜しみを言って私の攻撃を受けて消滅した。
「やったぜ、さすが勇者様!最強だろうが何だろうが一撃・・・だ」
地面に降り立った私に駆け寄ったガースはギョッとして目を見張っている。
ガースだけでなく、その場にいる全員である。
私自身今度こそ変化があった。全ての関節が痛い。体も重く、異常な疲労感が全身を支配している。背筋を伸ばしていられないのだ。
「勇者殿?その・・めっきりお年を取られたようだが?」
「嘘・・勇者様がおじいさんになっちゃった」
国王とリューネの言葉から私が相当な年寄りになったのが分かる。
今日ほどこの場に鏡の無い事を嬉しく思った事はなかった。
目は霞むが幸い耳は遠くなっていない。
「陛下。これが私自身の命を使い発動する力の代償なのです。後一度それも魔王を倒す事に使えばこの命は尽きるでしょう。ですが私はそれで本望です。元の世界では有象無象にすぎぬ私に命の使い道と人生の意義を与えてくれた女神とこの世界の為ならば喜んでこの命捧げましょう」
『よかろう。その決意に免じて我が許へ来るがよい』
城内に突然何者かの声が響いたかと思うといきなり空間が歪み黒い門が現れる。門の先はどこかの祭壇の様な物があった。
「あれはバーンゾックの生贄の祭壇!悪神はこの機に決戦を挑む気なんだわ。なんて卑怯な」
「だがせっかく道を開けてくれたんだ。行かない手はないだろう」
剣を杖に私は痛む体を引きずるように進む。
その体をリューネが支えてくれる。
「私も最後までお供します」
「ありがとう」
「んなバカな。そんな体でどう戦う気なんですか?リューネ、お前もあのアルバフィーラに手も足も出なかったのにその親玉に勝てる訳ないだろ!」
「でもこの方の杖替わりくらいにはなれるわ」
リューネが後ろを振り返りそう言うと再び私を支えて歩き出す。
「ああもう、これまでもどうにかなったんだ。今度だってきっとどうにかなるともさ」
ガースはそう言うと駆け寄って来てリューネの反対側から私を支える。
こうして私達は最終決戦の場へと赴くのだった。
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