上 下
50 / 63
2章 渡界人の日報

2-4 地上最強の男② 手掛かりを追って

しおりを挟む

 東京に向かう電車のボックス席で渡は窓の外の街並みを眺めながら

「君、もし君がいわゆるチート能力を持って元居た世界に帰ってきたらまず何をする?」

「そうだなあ。考えた事もないな。そもそもこの世界に未練が無くて異世界に行ったのに帰ってくるとなったら却って途方にくれると思うよ。下手すりゃ生活基盤事態が無くなっている可能性もあるからね」

「なるほど」

それきり渡は一言も話さずジッと考え込んでいた。

例のログの事務所はスカイツリーが見えるある住宅街の一角にあった。

内装と外見のギャップに私は最初面食らい、間違いではないかと思ったが渡の記憶力と話術は簡単に管理会社の人間を信用させ、私達は事務所へと2度目の訪問を果たしたのだった。

部屋の中は管理会社が彼の死を知らなかった事もあり(秘密裡にダイレクシオン側で処理されていたのである)生前のままだった。

渡は部屋の仕事用のデスクを探っていたがその中は全て空っぽだった。

流石に顧客情報をそのままにはしていない辺りはプロだった。

その状況でも渡は落ち着いた様子で鞄から黄色の薬液を少量取り出すと机に振りかけた。

たちまち机の両側に大きな炎が揺らめいたと思うと2人の人の形をとった。

「これは?」

「当時の再現映像といったところかな」

渡の言葉通り机には老人とメガネをかけた昔ながらのガリ勉タイプといったお世辞にも風采の上がらない男が向かい合っていた。

『黒野幻夜さん。住所不定ですか。これは都合がいい。お互いにとってもね』 

『本当にそんな事が出来るんですか。残りの人生思うままに生きるなんてことが』

『もちろんですよ。罪悪感に潰されない限りは、ですが』

『そんな事があるもんですか。僕は今まで何をやっても報われず、ひどい貧乏暮らしでした。おかげで何も手に入れる事が出来なかったのです。苦あれば楽ありというのならこんな悲惨な人生を送って来た反動というか見返りにこの世の全てを手に入れてもいいくらいですよ』

『よろしい。では具体的な計画ですが』

そこで炎は完全に消えてしまった。

「まずいな。これで黒野の足跡を追えなくなってしまった。ネットカフェなんて都内には相当数あるだろうし…いや待てよ。君、ちょっとニュースサイトを見てくれないか。手分けしてこの近辺に強盗が入ってないか見てくれ」

「強盗?」

「さっき奴が言っていただろう。貧乏暮らし脱出ならまず金を手に入れるだろう。それも非合法かつ安全に手に入れる方法を奴はもう持っていて、それを使う事にもはやためらわないとなればこの方法が最も手っ取り早い」

彼の言う通りだと思った私が起動させたニュースアプリにはとんでもない事件が流れていた。

「・・・・渡、速報だ。大変だぜ。見えない銀行強盗だ」

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:45

釣った魚と釣りたい魚【なずみのホラー便 第141弾】

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

薬師のニケと精霊の王

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:13

天使は笑ってる

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,542pt お気に入り:4,634

魂色物語

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:207pt お気に入り:9

俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

BL / 連載中 24h.ポイント:6,582pt お気に入り:1,667

非緊急時等死亡時延命相談員(死神)

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

あやかしが家族になりました

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:34

処理中です...