異世界転生請負人・渡界人~知られざる異世界転生の裏側公開します

紀之

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2章 渡界人の日報

2-5悪人転生⑥異世界更生プログラム1

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 「最初に私がなぜこんなプロジェクトを始めたのか、という事から説明した方が良いでしょうね」

真龍警部は机に両肘を乗せてパン、と手を合わせて私の方へグッと体を乗り出してきた。

「ここだけの話、貴方も我々の正気を疑ったでしょう?」

彼は小声で後ろの記録係であろう、同僚の方をちらりと見ながら続ける。

「それは・・・まあ。まさか警察の様なお堅い組織がとは思いました」

「正直ですね。実は私は異世界帰りなのですよ」

「もしかして勇者召喚とか?」

彼の口から出た言葉に私は思わず声が昂ってしまった。だが私は一瞬で冷静になった。それが何の関係があるのだろうか?そもそも目的は果たしたのだからその異世界の神なり賢者なりが真龍警部やこの世界にこれ以上何を望むのだろうという疑問が湧き上がって来た。

「そうですとも。やはり渡さんの関係者という事で理解が早くて助かりますね。貴方の疑問は分かりますとも。使命を果たした勇者に何の用があるのか、とね」

私は異世界帰りのこの男には読心術でも備わっているのかと思うとゾッとした。異世界仕込みのチート能力を持って帰ってきたとすればこんな突拍子もない事を始められるのも、そしてその事を少なくとも警察の人間が疑問に思ってなさそうなのも合点がいく。

「ハハハハハ。何、簡単ですよ。皆同じ疑問をぶつけますからね。まあ現実の戦争や紛争と同じく異世界での戦いが終われば各地の復興を考えねばなりません。そして人手は多いに越したことはない。その手伝いを囚人共にさせるのが我が異世界更生プログラムなのです」

真龍警部は口をパクパクさせている私に微笑みながら説明する。

「でも、その囚人っていうのはその・・・荒くれ者もいるでしょう?つまり殺人犯とか強盗をやったような連中が・・・彼らに監視もつけないとか」

「ほう、よくご存じで。ですが彼らには彼らに相応しい役割があります。ひとえに犯罪者といっても色々な罪を犯しているのですからね。ま、適材適所という奴ですよ」

「それであの男、次更を異世界へ送るのですか?それで彼はどんな仕事をさせられるのです?」

明らかに犯罪者を人間と思っていない様な態度を取る真龍警部に嫌悪感を抱きながらも私は先日自分達の命を脅かした次更の辿るであろう運命には純粋に興味を覚えずにはいられなかった。

「まあ、そう思うのが自然でしょうね。しかしこれには事前審査というのがありましてね。適性が無いと判断されれば送られませんし、この調査で本人にも思いもよらぬ才能が判明する場合もありますから。現時点ではまだ何とも」

その時ベルが鳴り、真龍警部は腕時計を確認する。

「時間のようですね。本日はご足労頂きありがとうございました」

さっきまでの熱っぽい口調はどこへやら、言葉とは裏腹に真龍警部の私を見る目つきはまるで路傍の石コロを見るような目だった。つまり彼にとって私とはその程度の価値しかない人間なのだった。

私と入れ替わりに渡が部屋へと入る。

「少し時間がかかるだろうから先に帰ってもいいよ。慣れない事をして疲れただろうからね」

彼の滅多に見せない思いやりが今の私にはありがたかった。
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