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4章 渡界人の慧眼
4-2 形見の錬金釜② オークションにかけられた名品
しおりを挟む「ほう、これは・・・・奥様、これをどこのサイトで購入されたのです?」
渡界人は土鍋を見ると先ほどの気乗りしなそうな様子は一変し、目に深い興味の光を輝かせて言った。
「それは・・・そうでした、まだ名乗っていませんでしたわね。私は馬島昭子と申します。夫はあの馬島剛蔵です」
私には『あの』などと言われても全く心当たりがなかったが、渡は違ったようだ。
「2年前まで最高裁の裁判長をされていた方ですね?骨董品の収集趣味とその目利きは確かだと評判の」
「そうでございますの。でも今回は、今回の事で夫の評判も地に落ちましてよ!まだ世間に知られていないからいいものの、こんな物を買ったなんて事がもし何かの拍子に広まったら私は二度と外を出歩けません」
馬島夫人は顔におかめと鬼神の表情を忙しく切り替えながら、自分勝手な事を喚きだした。
「失礼ですが、順を追って説明して頂けますか?こちらはメールで頂いた以外の事実をまだ知らないのです」
渡の言葉に我に返った夫人は我々に事の経緯をようやく話しだした。
「ええと、どこまで話したかしら?そうそう、どこで落札したかでしたわね。もちろんあのHと名の付く有数のネットオークションサイトですわ。価格は1万5千円でした」
「話の腰を折って申し訳ないのですが、その日時は?」
「10月〇日です」
「・・・・1か月ほど前ですね。失礼ですがこの手のサービスに奥様もご主人もクーリングオフ制度が適用外だと知っていましたか?」
「今はね。最初その事を知った時は唖然としましたよ。入れた野菜も肉も魚も訳の分からない物体になって出てくる気味の悪い鍋を売りつける悪質な出品者を裁く法律が無いなんて」
婦人は憮然として言った。その表情は今でも納得していない事を明確に物語っていた。
「問題はここからなんですの。返品と返金の連絡をしても相手から一向に連絡が無いんです。密かに探偵を雇って調べさせたら何と!その住所は空き地だったんですのよ!!」
「引っ越したんですかね?」
不用意に出てしまった私の言葉に夫人はブルドックの様に噛みついた。
「詐欺に決まっています!!それも新手の!!」
そして渡に向き直り
「いいですか渡さん今日本は新しい犯罪の波に呑まれようとしているのです!!あなたは最初にそれを止めるという、重大な使命があなたの方にかかっているという事を決してお忘れなきようお願いしますわ」
嵐の様に捲し立てて馬島婦人は報酬の相談もせず、土鍋を置いてドスドスと帰っていった。
「報酬はいいのか?」
「何、いつもと変わらんさ。つまり成功報酬という事だ。それより、こいつを忘れていってくれて助かった。調査がしやすくなるからね。それに見たまえ、名陶工と呼ばれたシシンの錬金釜の美しさを。しかもこれは未発表の作品でとても値なぞつけられない代物だ」
私は仕事以外で渡がこれ程までに興奮するのを見たことがなかった。
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