異世界転生請負人・渡界人~知られざる異世界転生の裏側公開します

紀之

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4章 渡界人の慧眼

4-2 形見の錬金釜① 持ち込まれた土鍋

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 私は私の隣人である渡界人が関わった不思議な事件をあるSNS上にて公開している。

だが時折『こんな愚にもつかない絵空事をさも現実に起こった様に記すのは怪しからん』というお叱りを受けることもある。

この悩みを一度渡本人に打ち明けたが、本人は笑って相手にしないのが一番良い、と慰めとも諦めともつかぬ形で私を励ましてくれたものだ。

だが私自身、次の事件を公開する事で異世界と現実世界の接点が意外な所で繋がっているのだという事を示しておきたいと思う。


事件の始まりは202X年の秋の終わりだった。私は珍しく渡からある依頼を受けるかについて相談を受けていた。

「君にしちゃ珍しく弱気じゃないか」

「うむ。この文面だけだとどうも先方は僕の事を異世界総合コンサルタントではなく、鑑定士だと思い込んでいるようだ」

そう言って渡は自分のホームページ上に寄せられたある依頼文を指し示した。

『先日ネットオークションで購入した土鍋について相談したい事あり。11月〇日の11時に訪問したいのでご在宅願う』

「依頼というよりは強制だな。しかも今日じゃないか!?それも後3時間ほどしかない」

「そうなんだ。こんな書き方をするのは年配の、それも結構ハイソな人間であることが多い。つまり、人生で自分が断られるなんて思ってもみない人生を送って来た人間だよ」

「心のどこかで受けたいと思っているのか?」

「さっきの推理の延長上だがこのメールの主は自分の考えは世界共通の常識だと思っているフシがあるからね。だからこんな言葉足らずになる。よって僕の専門的な問題であるかもしれないのだ。もしくは身内の恥を極度に恐れているというだけという事も考えられるがね」

そんなとりとめの無い話を2人でああだこうだと話しているとインターホンが鳴った。スマホを見るといつの間にか11時近くになっていた。

「僕が出よう」

そう言って渡は玄関へ出ると数秒後に驚愕の目をキョロキョロさせて他人の部屋のあら捜しをする、50代半ばのでっぷり太った趣味の悪いブランド物に全身を固めた女性が入って来た。

「ではこちらにおかけください」

女性はテーブルの3脚の椅子の中で最もマシな物がそれだと気が付くと渋々そこに座った。

「実のところ、ここに来たことを後悔しております。だってこんな、貧民窟ひんみんくつみたいなところで仕事をされているとは思わなかったもので・・・・主人がここに相談しよう、などというから来たんですのよ」

「申し訳ございません。私は仕事以外の物品は極力置かぬ主義なのです」

渡は慇懃いんぎんに返した。

「早速ですが、見てもらいたい品があるとか」

「ええ。こんな不良品を掴まされたなんてしれたら近所や夫の親族中の笑い者になってしまいます。ぜひ持ち主に返して頂きたいのです」

未だ名のらぬ婦人はおもむろに両手で抱えていた包みを開けた。

中には黒光りする、底の深い土鍋があった。
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