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4章 渡界人の慧眼
4-2 形見の錬金釜⑦ 異世界ゴンタール
しおりを挟む調査から戻って来た私達は例の占い師からの報告を待つ間この事件について何もする事が無かった。その間私はバイト三昧だったが、渡の方はどうも部屋から1歩も外へ出ていない様子で私の部屋からも物音1つしないのだった。この仕事に関して私の出来る事も考える事も無かったが、さすがに心配になって3日目の朝彼の様子を見に行った。
彼の部屋のドアに鍵が掛けられておらず何と不用心な、と内心思いつつ居間へ行ってみると大量のファイルか資料が1つしかないデスクにうず高く積み上げられており、その本の塔の合間から渡の頭が忙しなく動いていた。
「おい、この山はなんだ?」
「君か。これは例の占い師の調査してくれた土の成分から特定した異世界におけるシシンの関係者達と商会の商品の名簿だよ」
「あったのか?」
「あった。そして非常に興味深い事実が判ったんだ。件の錬金釜はね、150年前にこの世界に戻って来た『勇者』殿に譲渡された物だったんだ」
「待てよ!?だったら何でそれがシシンの工房に置いてあったんだ?」
「俄然君も興味が出てきたようだな。そうとも、僕もこの点に絞って調査をしているのだ。しかしこの量なのでね。少し手伝ってくれるとありがたい」
「どうすれば良い?」
「勇者の家系図を調べてくれ」
「何で?そんな事が出来るのか?それが何になるっていうんだ?」
「ゴンタール、これが勇者の行ってきた異世界の名前なんだがここではあらゆる行動の許可に権威がいるのだ。つまり権威がないものは乞食同然の暮らしをしなくてはならない。ただし有例え異世界出身でも元の世界で名が売れていれば即座に王侯貴族のような暮らしが出来る。シシンの家はこれがあったから1種の独占市場をゴンタールに築く事が出来た。そして勇者も数年で使命を果たして『帰郷』しているがどうもちょくちょくゴンタールへ戻っていたようなのだ。死亡場所もゴンタールのようだ」
「まさか、子孫も同じことをしていてあの家自体が秘密の貯蔵庫だったと考えているのか?」
まさかの資産隠しという勇者とは思えないこすっからさに私は眩暈を覚える。
「その本は恐ろしいものでね、ゴンタールでの活動内容と期間が逐一記録される監視魔法が掛けられている。つまりゴンタールでの活動がないのは異世界へ行っていたか死亡したかのどちらかという証拠になるのさ」
渡の説明を聞きながら私は分厚いファイルのページを繰っていった。私達は一心不乱に資料を読み進めた。沈黙が部屋を支配し、ページを繰る音が時折聞こえるだけ。そこで私は奇妙な人物についての記録を遂に見つけたのだった。
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