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4章 渡界人の慧眼
4-2 形見の錬金釜⑥ 占い師
しおりを挟む「陶器の欠片の分析がどうして持ち主の特定に繋がるか、と君は思っているだろう」
渡は私の考えている事を完全に当ててきた。
「つまりこういう事だ。シシンの死後、財産は大きく3つの勢力もしくは家系に分割されることになった。1つは彼の兄弟姉妹。もう2つが事態をややこしくしているのだが彼の興した例の陶器製造会社と異世界に行った自分の娘夫婦の家系なんだ。君も察しているだろうがマルウォットの法律では本来ならば彼の兄弟姉妹と娘夫婦にしか財産はいかないはずだった。ところがマルウォット来た法律を齧ったよそ者、異世界人が、つまり我々の世界の人間の事なのだがそいつがシシンの制作した作品の一部は彼の興した会社の所有物だと嘴を挟んできたから、こじれにこじれているのだ」
正直な所相続の話などは異常に難しく、家族や親類縁者とも折り合いの悪い私には興味も関心も無かったので、この後の渡の熱心なシシンの遺産たる会社と2つの家族のその各々の分業の解説は最初と最後の部分しか覚えていない。
「よって、この錬金釜とこの破片の土の成分がどこの物か判れば、彼ら3つの担当範囲が明確に分けられていた事から誰のそれの所有物と判明するのさ」
「しかしそんな鑑定をしてくれる場所が都内のど真ん中にあるとは知らなかった」
「ま、副業みたいな物だからね。彼らの本業は全く別さ」
私達は駅前の大通りにある恐ろしく古い雑居ビルの4階の占い師の前に来ていた。
「空は赤水は黒」
恐らく秘密の合言葉を早口に渡が囁くと占い師も早口で次の言葉を返した
「大地は光天は闇」
商売道具の水晶玉から顔を上げないそいつの前に渡は無遠慮に錬金釜と2つの破片を置いた。
「コイツに使われている土の成分をそれぞれ調べてもらいたい。連絡先と謝礼はいつものでいいな?」
「・・・・いいとも。3日くれ」
「では3日後に」
10分後私達は駅構内にいて電車を待っていた。
「本当に信用できるのか?あの占い師」
「腕は確かさ。本業も、僕の頼んだ副業の方もね。ただ本業は少々高圧的かつビシビシ耳に痛い事を言うものだからあまり人気が無い。だもんで副業に手を出しているんだがそいつに関してもプロ顔負けの調査能力だ。その気になれば1級のスパイや調査員になれる素質を持っているんだよ。社会の大きな損失だね」
最後の言葉を言いながら彼は到着した電車のドアをくぐって席に座る。その顔には先程の占い師に対する揺るぎない信頼が見て取れるのだった。
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