魔甲闘士レジリエンス

紀之

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第23話 復讐姫涼宮玲 象型UMAモケーレ・ムベンベ 類人猿型上級UMAイエティ 登場

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 K県m市。

f市の隣にある観光名所としても知られる。

登山用の自分と同じくらいの高さのある、大型のリュックサックを担いだ学生が家路を目指していた。

登山部の月末の活動の帰りである。

m市は幸いにもUMAの出現が今までになかった。

その点から市内であればこういった学校の野外活動も許可されていた。

もちろん反対意見もあった。

しかし人間というのは自身か周りに実害で出ない限りは安全である、そう考える生き物だ。

『普通の暮らしを守る』といったもっともらしい理由で反論は封殺された。


学生はふと道の真ん中に奇妙なものがあるのに気づく。

それはやけに頭の長い西洋甲冑の様な見た目だった。

そいつが動いてこちらを見た。

「うわ。なんだよあれ。関わりたくねえ」

そう呟く間にどんどんそいつはこちらに近づいてくる。

街灯でこの変な奴の姿形が照らされて浮かび上がる。

長い頭だがこれは垂れ下がった象の鼻を上に持ち上げてその根元に面頬を埋めこまれた兜だった。

更に両腕に象の耳形の盾を持っていた。

ただし本物と違いその耳の先端にはフック状のスパイクが生えていたが。

「でかい荷物を持ってるな」

甲冑の言葉は目の前の人間に話しかけるというよりも何かを確認している口調だった。

「お前がレジリエンスだな」

「は?何言って」

「お前を殺しに来た」

「おい、話聞けよ」

返答代わりに甲冑は盾のスパイクを学生の側頭部に叩き込む。

即死だった。

「皆そう言うんだよ」

甲冑は学生の持っていた荷物を調べるが目当ての鎧は出てこない。

「野郎、また空振りだ」

甲冑の叫びが住宅街に木霊した。



事の始まりは事件の数日前に遡る。

「フライング・ヒューマノイド、イエティちょっといいか」

異世界の荒野でナウエリトが仲間二人に話しかける。

後ろにはあの殺人甲冑がいた。

「どうしました?」

「実はレジリエンス抹殺の刺客を連れてきた」

「モケーレ・ムベンベを?お前正気か」

イエティが眉をひそめる。

象型UMAモケーレ・ムベンベ

目撃情報も多く、人間にもそれなりに名の知れたUMAだ。

それは個体の数が多いという事でもある。

数が多いと個体間の強さもピンキリでこの種族は往々にして戦闘能力と知能は低い傾向にある。

何よりのんびり屋が多く、およそこの手の闘争や戦争には無視を決め込んでいる。

ナウエリトはそれをイエティに指摘されたが

「心配ない。こいつは俺の友人で強さは保証する」

「一族の中でも俺は気性が荒くてな。群れを追放されて武者修行中にナウエリトと知り合ってな。以来事あるごとにつるんでいるのさ」

フン、と頭頂部の正面を向いた二つの鼻を鳴らしてモケーレ・ムベンベがふんぞり返る。

「その経歴は逆に心配しかないのですがね。進化体のようですが具体的に何ができるのですか?」

フライング・ヒューマノイドが象の問題児に尋ねる。

「聞いて驚け。実はな」



「ではモケーレ・ムベンベ、あなたに任せます。ナウエリトに敵の事や作戦を聞くと良いでしょう」

ナウエリトからその友人の技能を聞いたフライング・ヒューマノイドは即決した。

「え?俺か」

「友人でしかもレジリエンスと交戦経験がある。何か考えがあるのですよね?何事も経験ですよ」

「まあな。モケーレ、敵は鎧を着こんでいるんだ。そしてそれを運ぶでかい箱を常日頃持ち歩いているはずだ。そういう奴を狙え」

そう言って2体は今後の話し合いの為別の場所へ移動する。

「フライング・ヒューマノイド、私はまだ奴と戦っていない。先に私を行かせてくれ」

フライング・ヒューマノイドは手を上げてイエティを制する。

「何故止める!」

イエティの抗議にフライング・ヒューマノイドは笑みを浮かべて

「あれを聞いたでしょう、恐ろしく稚拙な作戦と呼べない思いつきを。きっと遠からず泣きついてくるでしょうからその時にあなたの出番があるように私から連中に策を与えますよ」



フライング・ヒューマノイドの予感は的中した。

ナウエリトの助言で大きな荷物を持った人間を片っ端から襲っていたモケーレ・ムベンベは一向に成果の出ない事に
苛立ちフライング・ヒューマノイドに知恵を借りに来た。

彼の友人ナウエリトはお手上げ状態で自身が軍師と恃むフライング・ヒューマノイドの許へ彼を寄こしたのだった。

「実は私もレジリエンスが普段どこで何をしているのか、という事を考えていましてね。正体は若い男の様ですからそういう人間が集まる場所を狙うのがいいでしょう。昼なら学校、夕方以降は町の繁華街等が考えられますね」

「なるほどなあ。だが学校ったっていくつもあるぜ。どこが狙い目だ?」

「それなんですが敵はK県f市周辺によく出ていますからそこの高校か大学から始めてはいかがですか?」

「ナウエリトの言った通り知恵者だな、あんた。早速始めるか」

そう言ってモケーレ・ムベンベは次元の穴を作って去って行く。

「私の出番はなさそうだが?」

後ろで話を聞いていたイエティは不満の声を上げる。

「大丈夫。99%出番はありますよ。その為には戦闘が始まったらレジリエンスのエナジーをモニターしていて下さい。そうすれば必ず」

フライング・ヒューマノイドの声は確信に満ちていた。




「じゃあ、達人君お願いね。あの子ったら遅刻寸前で慌ててお弁当忘れていくなんて。ごめんなさいね」

「梓さんが謝る事じゃないですよ。では行ってきます」

「気を付けてね。最近通り魔に行方不明事件に河川敷の身元不明の焼死体の事もあるから」

「まあ何とかなりますよ」


袋に入れた杖と弁当箱の入った手提げを持って芹沢達人は家を出た。

八重島紗良の通う高校は駅を挟んで家と反対方向にある。

途中駅前に架かる橋の下で警察が川の中を探っている。

(ここか、身元不明の焼死体があったのは)

焼死体が見つかったのはパノプリアを追ってEスリーやモスマンと戦っていた時期だから3週間ほど前になる。

(フライング・ヒューマノイド。奴が大人しいのが気になる)

そう考えながら歩いていると駅前の交番から警察官と長い何か括り付けた黒い箱を背負った短いポニーテールの女子高生らしい少女の言い争う声が聞こえてくる。

達人はその箱を見て直感的に嫌なものを感じた。

「だから部外者に殺人事件の資料を見せられるわけがないだろう」

「私の家族を殺した奴かもしれないんです」

「それは気の毒だが、ダメなものはダメだ」

もう話しは終わりだと警官は交番の扉をピシャリと閉めてしまう。

その横を通り過ぎようとした達人にいきなり少女はこう話しかけてきた。

「あなた、話を聞いてましたよね。事情を何も聞かないんですか」

「さっきの警官と同じだ。気の毒だとは思うが俺にできることは何もない」

達人はそう言って少女に背を向けて歩き出す。

「・・あなたレジリエンスではないですか?声や雰囲気が似ています」

「そうだと言ったらどうするつもりだ」

その傍若無人な言動から達人は少女の正体に確信があった。

黒武者プロトマルス。

文明存続委員会が開発した魔法の鎧ソーサリィメイルの模造品というべきものだ。

「あなたのいる所UMAあり。なら暫く行動を共にさせてもらいます」

「そんなにうまくいくとは思えないがな」

その図々しさに感心した達人は少し話を聞いてみてもいいか、と思い並んで歩き出した。



「この近辺を騒がせている通り魔があんたの追っているUMAなのか」

「判りません。ただ頭部にのみ損傷があるという点では一致します。奴を見つけだし必ず裁きを下す、その為に旅をしています」

「そうか」

(こいつは俺と同じか。一つの事しか考えられないのとその達成のためには命すら捨てる事も厭わない)

達人は適当なところで振り切るつもりだったが少女に意外な接点を見出し、話を続ける気になった。

「もし違っていたらどうする」

「その時はまた別の土地へ行くだけです」

「いい家族だったんだな」

「世間一般にはいい家族とは言えませんでしたが、それでも私の自慢の家族でしたよ。そういうものでしょう。家族というのは」

「世間的にも、個人的にも悪い家族もいるさ」

「あなたは相当な外れを引いたというわけですか」

「そういえば名乗ってなかったな。俺は芹沢達人」

「鈴宮玲です。そういえば」

そう言って玲と達人は目の前を睨む。

妙な声が聞こえてきたからだ。

2人の視線の先には学校の校門前に倒れている警備員の姿とその奥の校庭で大音声でレジリエンスに挑戦を喚いている怪物の姿があった。

「ご指名ですよ」

「そのようだな。これを頼む」

「お弁当?腹ごしらえしなくても?」

「俺のじゃない。あの学校の生徒の物だ」

「私も行きます。あれが犯人か確かめなければ」

結局校門近くに手提げかばん


「レジリエンス、出てこい。この中にいるんだろう。俺と勝負しろ」

モケーレ・ムベンベはもう10分も同じことを繰り返していた。

短気な彼としてはかなり我慢した方だった。

だからその反動も酷い。

「出てこないなら仕方ない。こちらから行くぞ」

「そこにはいないぞ」

達人の声に怪物が振り向く。

「なんだお前は。俺は箱を持っていない奴に用はない」

「そうか。そんな基準で襲っていたのか。だが目当ての物はここにある」

達人が杖を取り出し、念じるとその後ろに金属製の箱が現れた。

「どこから出てきた?チッ、そんなカラクリだったとはな」

達人は杖を箱にセットし装着準備に入る。

巨大化した箱に入る直前達人は鈴宮玲が彼の左斜め後ろに黒い箱を置き、箱の前面の何かの装置を操作するのが見えた。

(あいつ俺を盾にするつもりか)

いい性格をしている、と思う。

逆の立場なら自分もそうするだろう。

鈴宮玲が装置の電源を入れると黒い箱の上面の取っ手部分が反転しフルフェイス型の南蛮兜が現れる。

同時に底面が割れ剣道の垂れのような形になると箱の内部から脚部が出てくる。

続いて側面が変形し肩甲とその内側から腕甲が展開する。

箱の前後面が変形し胸甲と背甲となる。

背甲が上に開き、その鎧内部に玲が入る。

背部が閉じて各部のエアロックがかかり、鈴宮玲はプロトマルスへの装着が完了する。

鎧を入れる具足櫃と鎧そのものを一体化させたこのシステムは実験的要素と持ち運びの両方をクリアするべく考案されたものだった。

動力は大気中から集めたエレメンタル・エナジーを発電させて賄う。その関係上内部のエナジーが枯渇すれば動かなくなるのはオリジナルのソーサリィメイルと同じだが、こちらは外部からエナジーを吸収する機構は再現出来ていない。

更に言えばその構造上耐久性に問題があり、出力面の問題からしばしば機能停止さえする欠陥品でもある。


「俺を狙う理由はなんだ?」

「友の頼みでな」

「こちらも聞きたいことがあります」

プロトマルスがモケーレ・ムベンベに問う。

「1年前の5月4日鈴宮家の人間を殺したのはあなたですか?」

「さあね。一々殺した奴を覚えていないんでな」

「貴様ァァー!!」

激昂したプロトマルスが装備された日本刀・マルスブレードを抜き放ち切りかかる。

「うかつだぞ」

プロトマルスと同時に装着を完了したレジリエンスの静止も彼女の耳には入らない。

プロトマルスの斬撃を受けてもモケーレ・ムベンベはビクともしなかった。

「ツッ硬い」

「この程度か」

そう言って剛腕を振り盾の先端にあるスパイクでプロトマルスの頭部へ打ちかかる。

プロトマルスは首をすくめ肩甲に押し出す形でそれの一撃を防ごうとするが火花を散らして吹き飛ばされる。

飛ばされたプロトマルスと入れ替わるようにレジリエンスは杖を土のエレメンタル・エナジーで作った鉄槌グランドキャリバーに変化させ怪物に打ちかかった。

プロトマルスの刀が打ったのと同じく胸部を殴打する。

「バカな?直撃のはずだ」

「俺には効かん」

先程同様微動だにしないモケーレ・ムベンベは反撃のスパイクを振るう。

その盾に足をかけレジリエンスは怪物の背後に飛ぶ。

三角形を描き『フロギストン』(ギリシア語で燃素という意味)を唱える。

発射された火球が怪物の背を焼くがやはり怪物にダメージが入った様子は無い。

(属性の違う魔法も物理攻撃も無力化するだと?何かカラクリがあるはずだ)

「プロトマルス、何かおかしい。闇雲に仕掛けるな」

プロトマルスにその言葉はやはり聞こえていない。

「これならば」

腰のバックル部分両側からUSBメモリ状の物体を2つ取り出すと刀の鍔の上下に取り付ける。

これはマルスの動力ユニットであり、必殺技の発動キーでもある。

動力の大部分を技に注力した為プロトマルスのモニターに残りの稼働時間が1分しかない事を警告音が告げる。

青白いエナジーのスパークする刀を振り上げて突撃したプロトマルスは渾身の一撃を叩き込む。

だがそれを真っ向から受けた怪物は先程の位置から微動だにしていなかった。

「効かないといったろう」

「そんな・・・切り札も通用しない!?」

同時にプロトマルスが機能停止し玲が濃い灰色の煙と共にパワードスーツから弾き出される。

「貴様からあの世に送ってやる」

モケーレ・ムベンベは頭頂部の鼻に重力球を形成し始める。

(ここまでか。父様、母様、啓太郎ごめんなさい)

「待て。お前の相手は俺のはずだ。俺を狙え」

「達人!?」その言葉に怪物が振り向き、玲が驚く。

「何のつもりか知らんが、お望みとあらば先に逝かせてやる」

モケーレ・ムベンベは重力球をレジリエンスに向けて放つ。

轟音と土煙が上がり、土煙の晴れた後には陥没した球の直撃した周囲の地面があるだけでそこにレジリエンスの姿は無い。

「やったぞ。ハハハハハ、帰って報告と行くか」

勝利の笑いを轟かせて怪物は地面に消え去った。





「何とか助かったな」

レジリエンスは異世界の廃墟にいた。

重力球が直撃する寸前に右腰のスイッチを操作して異世界に逃げ込んだのである。

「?この冷気は」

レジリエンスは急速に周囲の気温が下がるのと同時に目の前に人影がのに現れる。

「なるほど。フライング・ヒューマノイドの言ったとおりになったな。私はイエティ。レジリエンス、勝負」

吹雪を纏う鬼面の女の怪物が大剣を振りかざし、レジリエンスに迫る。

レジリエンスは土のエナジーで作った戦鎚で大剣を防ぎ両者は鍔迫り合いとなる。

(こいつもモケーレもフライング・ヒューマノイドに踊らされているだけなのか?)

「う・・む?」

イエティの周囲に渦巻く極低温の嵐がレジリエンスの鎧を凍らせる。

(エナジーの転換ができない。この低温で鎧の各機能が鈍っている?)

レジリエンスは後退し、土の鉄槌を炎の剣に変える。

「私の冷気を受けて直ぐに氷結しないとはやるな。だがいつまで持つかな?」

その言葉通り氷の嵐が強まる。

同時にイエティは大剣にエナジーを集め氷の斬撃を飛ばす。

既に冷気でレジリエンスの関節部が凍り始めていた。

「来てくれ、サンダーバード」

達人の声に霊鳥が空に現れる。

サンダーバードの周囲にはじける電光と高熱が下がった空気を温める。

直ぐにサンダーナイトへと合身し、飛翔する。

「レジリエンスめ。新たな力を得たというのか」

敵を取り逃したイエティも撤退していくのだった。
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