魔甲闘士レジリエンス

紀之

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第24話 戦士の絆(前編) 象型UMAモケーレ・ムベンベ 登場

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異世界

その赤紫に染まった空をサンダーナイトは飛んでいた

「イエティを倒さなくて良いのか」

「奴の背後にはフライング・ヒューマノイドがいる。これも織り込み済みかもしれない」

「それだけか?」

「個人的にはモケーレ・ムベンベやイエティ本人は悪い奴じゃないかもしれないと思ってな。あなたやガッシングラムのようなUMAもいると知って尚更そう思う」

「だが連中は自分の意思であれ他人の思惑であれお前に挑戦してきている」

「ああ。3度目の襲撃があるはずだ。適当な所で分離しよう」

「それなのだが我が現世に出るには今しばらくかかる」

「そうか」

「そこでガッシングラムに協力を頼むとしよう。あいつなら力を貸してくれるはずだ」

「合身するというのか?」

「そうだ。我は別の人間と契約している関係上お前との融合合身はその人物の許可、この場合は儀式にて融合できるのだ。しかしガッシングラムはまだ誰とも契約していない。お前が契約すれば融合可能だ」

「分かった。ガッシングラムを探してみよう」


前の戦いで記憶した反応を頼りに探す。

ガッシングラムはこげ茶色の草原にいた。

「確かに力を貸すとは言った。しかしそれは肩を並べて戦うという意味だ。戦士としてな」

サンダーナイトから分離したレジリエンスの提案を彼は一蹴した。

「現世ではお前や我は周りの生物にUMA化の影響を及ぼしかねん」

「そうだとしても俺にメリットがあるとは思えん」

「お前は本来地球の意思で選ばれた個体が数百・数千年かけて行う進化を僅かな日数で遂げている。その体は今のままでは遠くない内に朽ち果てるぞ」

「それがどうした?俺は戦士だ。その時は敵と潔く戦って死ぬさ」

サンダーバードの警告にガッシングラムは半ば意固地になっていた。

「レジリエンスとの融合によりお前の中の過剰なエナジーが中和される。お前は守護者として同胞を守る義務がある。そう簡単に死なれてはその姿になった意味が無かろう」

「ガッシングラム、俺はずっと自分だけの為に戦ってきた。だが今、それが正しいのか迷っている。俺が否定してきた理不尽を俺自身がしているという矛盾から。だがお前は違う。真っ当な理由をお前は持っているはずだ。その理由の為に生きるという戦いをすべきだと俺は思う。俺も必ず答えを見つける。その時に返事を聞かせてほしい」

「・・・いいだろう」

1人と1羽の説得にガッシングラムも思う所があるのか少しだけ態度を軟化させた。

「俺は現世に戻る。敵の攻撃がすぐ来るだろうからな」

「ああ」


「俺は自分の信念が分からなくなっている。理不尽をもたらす者でなく、他の誰かによってそうせざるを得ない者を倒す事に疑問を感じているんだ。それは結局俺自身が誰かの理不尽になっているとそう思う」

ガッシングラムと別れた後サンダーバードにレジリエンスは思い切ってその悩みを打ち明ける。

だが返ってきた答えは解決策ではなかった。

「達人お前は人間だ。人間の中にお前の探す答えはある」

「そうだといいが」

悩みは解決しないまま達人は現世へと戻っていった。




「レジリエンスを倒してきたぞ」

異世界

サンダーナイト達とは別の地点の空き地でモケーレ・ムベンベは仲間に報告する。

「さすが俺の友だ」

「まあな」

「死体の確認はしましたか?」

ナウエリトの称賛に悦に入るモケーレにフライング・ヒューマノイドはそんな質問をする。

「いや。しかしあれで生きてるって事は無いだろ」

「だといいのですがね」

「そういえばイエティがいないな」

「彼女には別の用事を頼んでいるのでね」

モケーレの疑問にフライング・ヒューマノイドが答える。

暫くしてイエティも現れる。

「レジリエンスは生きているぞ。しかも厄介な力を手に入れている」

「ご苦労様でした、イエティ。早速ですがその能力とは?」

「UMAとの合体能力だ」

「合体だと!しかし奴め生きていたとは」

モケーレが歯噛みする。

「もう一度攻撃をかけるべきですね。それもなるべく早く」

「分かっている。今度こそ確実にあの世に送ってやる」

モケーレは仲間にそう宣言する。




「それでここへ逃げ帰って来たと・・・・ま、これじゃプロトマルス単体では絶対に勝てないがね」

都内某所にある文明存続委員会本部の1室ではプロトマルスの修復とつい先ほど対峙したモケーレ・ムベンベのデータ分析が行われている。

その分析用PCのキーボードを叩きながら古川努はコンピューターが弾き出した答えを見て思わず画面に顔を近づけながら傍らにいる鈴宮玲にそう言った。

「どうにかなりませんか?」

「理論上はね。だが1人でそれをやる前に確実に倒されるだろうな。現実的じゃない。幸い修復はすぐ終わる。後はレジリエンスがな」

「彼は生きていますよ。必ず」

玲の声は確信に満ちていた。

「それよりアレ地味過ぎませんか?」

「何が?」

古川は目の前の少女が何を言いたいかサッパリ分からなかった。

「今時の変身なりアクションって音声が鳴るものでしょう?もしくは派手なBGMとか。プロトマルスにはそういうのが一切ないのはなんか寂しいというか拍子抜けというか」

「ああ、あれね。うちの所長はロマンを解さない人だから」

「ロマン?」

あんなヒロイックな見た目の鎧だか装甲服を作る時点で相当なロマンチストだろうに、と玲は思う。

「『古川君、君はこれから変身します、攻撃しますと言ってその通りに行動してくる敵を馬鹿だとは思わないかね』とこうきたもんだ。相手は化け物だから人間の可聴範囲外の音を拾ってくるだろう事は容易に予測されるからそういうのは一切付けない方針になったんだ。実際そんな余裕があるなら安定性を上げる方が優先だしね。だがなァ、やっぱり地味だよなあ」

「確かに。いきなり機能停止するのは勘弁願いたいですね」

「こればかりは今の所どうにもならないんだよな。すまん」

その言葉に嘘はない。ただ技術的な問題を意図的に放置しているという点は伝えていないし、その必要はないと上から厳命されていた。 

(選民思想じゃないのか、それは?)
そう感じながらも技術者たる自分に出来るのはより安全性を高めた『兵器』を作る事だけだとも思う。

「まあ、私としては敵討ちが出来るなら何でもいいんですけどね」

玲はそう言うとプロトマルスの修復作業をジッと見つめていた。




学校の校庭での戦いが怪物側の優勢になるにつれて生徒達の声援は失望と罵声がその大半を占めるようになってきた。

紗良のクラスは古文の授業中だった。

古文の大川先生は学年主任でもあった。

彼は生徒達に窓から離れるように再三注意したが聞き入れる生徒は少数だった。

彼らとしては部外者であるレジリエンスのおかげで関わりのない自分達が命の危険にさらされていることが納得できなかったのだから当然である。

「だらしねーな。2人掛かりでこの様かよ」

「チームプレイもあったもんじゃない。バラバラに仕掛けてるだけだ」

「てかもう負けるんじゃね?」

「ちょっと、あの2人は懸命に戦っているんだよ?」

クラスメイトの無責任な批評に八重島紗良は抗議する。

「じゃあどうしろって言うんだ」

「そりゃあ何か弱点とか、癖とか」

「素人の俺達に分かるわけねぇべ」

「それは・・・」

男子生徒の1人の反論に紗良は言い返せない。

彼の言い分は正しい。

それを認めると目の前の光景が途端に遠い世界の事のように感じられる。

「命の恩人が一方的にやられるのを見るのはつらいけどさ、あの時と同じで私達にできることは何にもないよ」

竹山さゆみが紗良を慰める。

「おい、なんじゃありゃあ」

紗良はクラスメイトの1人の上げた声に現実に引き戻される。

紫の球がレジリエンスの立つ地面に当たったと思うと周囲が陥没していた。

「嘘、でしょ」

その後の事を紗良はほとんど覚えていない。駅近くのコンビニエンスストアで人質になるまでは。

臨時休校になり、下校途中竹山さゆみや松川かおりが何か話しかけているのを聞いたが耳に入ってこなかった。

友人たちと別れて依然上の空だった紗良は背後から近づいて来た男にいきなり口を塞がれさらに近くのコンビニに連れ込まれた。

「おい、食べ物と車を用意しろ」

犯人は先日S計画に参加し、唯一の逮捕を免れたEスリーの隊員だった。

「無駄な抵抗はやめて出てこい」

コンビニはすぐに警官隊に包囲される。

その騒ぎを現世に帰還した達人も聞きつけた。

建物内部の様子は野次馬と警察関係者で判らない


彼は鎧を装着し別の場所からプサクフで内部を探査する。

(何ッ、中に紗良がいる?)

それも拳銃を持った男と何か話している様だった。

(何を話しているんだ?)

探知魔法の感度を上げ中の声を聞く。

するとこんな会話が聞こえてきた。


「どうしてこんな事をするんですか?」

「俺達はなあ、崇高な使命を果たそうとしてるんだよ。いいかお前らのような何もしない、できないクズ共は俺達に黙って支配されるか死ぬかのどちらかしかないんだよ」

「そ、そんな」

コンビニの店員の悲痛な叫びが聞こえる。

以前の紗良もこんな暴論など聞く気にはなれなかっただろう。

だが今日自分は何もできなかった。やらなかった。

「私にも力があれば」

そんな呟きが口から洩れる。

「その必要はない」

建物内に次元移動を駆使して侵入したレジリエンスの声がコンビニ内に響く。

「なんだ!?どこから入ってきやがった?」

ここが他の人間に影響を及ぼさず、犯人との最短距離を取れるのがここだった。

「本当に崇高なら誰もが賛同しかつ他人に危険な事や悲しい決断をさせなくて済むはずだ。お前達の掲げる目標は他人を支配する為の隠れ蓑にすぎん」

そう言いながらレジリエンスは犯人に迫る。

「来るな、くるなあああ」

犯人は拳銃を発砲する。

レジリエンスは『トイコス』人質の周りに張る。透明な灰色の壁が現れ銃弾を跳ね返す。

発砲を続けようとする犯人はレジリエンスに店外に殴り飛ばされていた。

「確保」警官隊が群がる。

犯人はパトカーに押し込められる時警官は彼に何か2言3言耳打ちした。

途端犯人の顔は恐怖の表情を浮かべ、喚きながらパトカーはその場を去って行った。



「無事か、紗良」

「生きてたんだ。私、私」

レジリエンスは泣きじゃくる紗良に近づくと

「!早く帰れ。話は後だ。奴が来た」

レジリエンスの視線の先にモケーレ・ムベンベが立っていた。

突然の怪物の出現に人々は逃げ惑う。

「今度は逃げない。他の人々の避難が終わるまで待て」

「連中をどうこうする気はない。今度は確実に息の根を止めてやる」

(この世で最大の理不尽。それは普通に暮らしている人達に戦いを強制したり決断させることだ。俺が迷っている間に誰かが傷つき倒れれば、その人や周りの人間は悲しみや怒りを感じるだろう。それはこの戦いに参加させるのと同じだ。さっきの紗良のように。そうはさせない。この力はその為にあるはずだ)

「俺もお前に最大限の礼をさせてもらう。皮肉でなくな」

「そうですね。私も礼を返さなければいけませんね」

プロトマルスを着込んだ鈴宮玲がバンから降りてレジリエンスの隣に並ぶ。

「ポンコツ風情が。口だけは達者だな」

「達人、あれの攻略法がありますか?」

モケーレの挑発などどこ吹く風といった具合に玲が達人に尋ねる。

「同時に物理攻撃と魔法で同じ部位を狙う」

「承知」

2つの影がモケーレ・ムベンベへ向けて奔る。
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