魔甲闘士レジリエンス

紀之

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第25話 戦士の絆(後編)象型UMAモケーレ・ムベンベ 海蛇型上級UMAナウエリト 登場

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レジリエンスとプロトマルスが炎の剣と刀でモケーレ・ムベンベに切りかかる。

レジリエンスとしては単純に威力だけなら土の鉄槌なのだが今回は連携の為使い勝手の良い剣を選んだのだった。

怪物が盾で攻撃を防ぐ。

レジリエンスの肩を蹴ってプロトマルスが飛び上がる。

怪物が頭頂部からの重力弾を発射する。

それをプロトマルスはふくらはぎのブースターを吹かしさらに上昇して躱した。

「ハアッ!」

空中で体を横回転させプロトマルスが側頭部に蹴りを、レジリエンスが反対側に剣を打ち込む。

プロトマルス側は以前のようなゴムに弾かれた感触があったがレジリエンスはしっかりとダメージを与えている感触を得る。

「チッ」

モケーレは舌打ちしつつ両腕を振るうがその攻撃を2人は左右に分かれ距離をその剛腕を躱す。

そしてがら空きになった胴にプロトマルスの蹴りとレジリエンスの至近距離からの火球が直撃する。

今度はプロトマルスの方が手ごたえを感じていた。

「攻撃が効いていますね」

「やはりな。奴は皮膚と筋肉の性質を対物理と対魔法用に自在に切り替えられるんだ。恐らく体の各部位ごとにそれぞれ変更できる。だが変えられるのはどちらか一方だけのようだな」

レジリエンスは後退したモケーレを見て言った。

「それを知った所でそんな攻撃じゃ俺を倒すのに日が暮れちまうぜ」

(奴の言う通りではある。本来ならば被害を最小限にするために異世界で戦いたかったが、もうエナジーに余裕がない。早めに決着をつけなければ)

「カラクリが判れば対処は可能。行きますよ」

プロトマルスがそのまま突っ込む。

頭に刀が当たる直前、彼女の右側頭部から小さな光弾が立て続けに発射され怪物の顔面に直撃した。

エナジー・バルカンである。

「うおっ、味な真似を」

だがモケーレ・ムベンベはのけ反りながらも両腕の内側で2人の本命というべき攻撃を止める。

そのまま腕を返す力で両腕の盾を打ち付け間に挟まれた2人をまるでプレス機で潰すように叩きつける。

「ウッグ・・」

2人の魔甲闘士は互いの体がぶつかった衝撃で息が詰まる。

そこに怪物の蹴りが入り、2人して吹き飛ばされる。

「まだ動けるか?」

「これしきの事、なんてことは無いです」

再びモケーレ・ムベンベに向かって行く。

怪物としては黒武者の光弾は厄介だった。

小さいため隙間を縫うように発射されるそれは本命の攻撃をも防ぐ必要性から盾を大きく構えなくてはならない。

そうなると必然もう一人の動きの対応に遅れがちになっていく。

藍色の鎧の方はパンチ・キックに加え杖の石突から出力した細い炎の剣を突き出してくる。

打撃の軌跡が三角形を描きその図形を通過したレジリエンスの右足が燃え、炎の蹴りとプロトマルスの刀がモケーレ・ムベンベの右足に直撃する。


怪物の巨体がバランスを崩して倒れる。

プロトマルスは腰のUSBメモリ状のパワーユニットを1つ刀の鍔に装填すると刀を構える。

刀が光り輝いているので判りにくいのだが斬撃能力を極限まで高めるこの攻撃はあくまでも物理攻撃の範疇に入っているのだった。

レジリエンスも炎の剣を出す。

2人が怪物の左右から互いの攻撃を繰り出す。

しかしその攻撃は届かなかった。

ギキイィ―ンという耳障りな音と共に2人の攻撃が弾かれたのだ。

「高周波ランサー?ナウエリトか」

「いつかの借りを返しに来たぜ、レジリエンス」

「俺1人でもなんとかなる物を」

「俺は手伝いに来ただけだ。これで数の上では互角だしな。止めは譲るぜモケーレ」

そう言って海蛇型上級UMAナウエリトがモケーレの隣に立つ。

「奴の左腕に気をつけろ。あれに触れると俺達の鎧も粉々になる」

レジリエンスが振り返るとプロトマルスはおかしな格好で止まっていた。

「おい、まさか」

「残念ながらあの高周波で不具合を起こしたようですね」

「ハハッ、形勢逆転だな。悪く思うなよ、今度はこっちが2対1だ」

ナウエリトの単眼から高出力のビームが放たれる。

それを横っ飛びに回避した先にモケーレの重力弾が炸裂する。

強引に突っ込むが左手足の装甲の一部がひしゃげていた。

(かすった程度でこれか)

そう思う間に高周波ランサーが迫る。

焦る事無くレジリエンスは右に大きく移動しそれを躱す。

ランサーは伸縮自在で恐るべき攻撃力を持つものの、その軌道が単純なのが弱点だった。

炎の剣でナウエリトのランサーの引き戻しが間に合わない左腕を切り落とそうとするレジリエンスにモケーレ・ムベンベの盾のスパイクが横から襲い掛かる。

「もらった!」

後ろに飛んだレジリエンスにナウエリトの熱線が直撃する。

火花と煙を上げて転がるレジリエンス。



「どうする。このままではあいつは負けるぞ」

「あいつなら何とかなるさ。自暴自棄ではなさそうだしな」

異世界のある場所でサンダーバードとガッシングラムがその戦いの一部始終を見守っていた。

当初こそ優勢だったもののナウエリトの登場で今や敗北必至だった。

「認めているのならば尚更助けに行けば良い。何をためらっているのだ?」

「戦士としてはな。あんたは何で人間に肩入れする?それも特定の個人を」

「そういう訳ではない。あの鎧の本来の目的は環境の再生、つまり地球全体の為に作られたものだ。芹沢達人本人は自覚していない様だが奴の思想そのものはこれに近い。それに協力するのは契約を抜きにしても精霊として当然だ」

「見ようによっちゃ狂犬だがな。そうか。だから俺達を助けたのか」

変わり者だ、と思う。あの男はあらゆる理不尽と戦うと言っていた。それは裏を返せば人間に大した愛情や思い入れ
を持っていないとも言える。

だからこそ今達人は自身の心に芽生えつつある感情に苦しみ、悩んでいるのだが。

「面白い。いつか俺達と人間を天秤にかける時がきたらあいつがどうするか。その時に契約破棄しても遅くはないな」

「そんな事を迷っていたのか」

「俺はガッシングラムだ。ライオンの事を第一に考えなくちゃなんねえ。契約でそれが縛られるのが嫌だったのよ。それじゃあ、行ってくる」

そう言ってガッシングラムは空に消える。



ガッシングラムがレジリエンスの隣に現れたことにナウエリトとモケーレ・ムベンベは驚いた。

「何のつもりだ」

「戦友を助けに来た、と言えばいいか」

「友人?お前と人間が?」ガッシングラムにモケーレが尋ねる。

「そっちだって象とヘビ、種族違いだろうがよ。達人、お前を戦士としても人間としても認める。死ぬも生きるも一連托生。契約と行こうぜ」

「ああ。ガッシングラム行くぞ」

『我は汝。汝は我。意思と力と命を結び共に歩まん』

その言葉が終わるとレジリエンスから光が放たれる。

その光はガッシングラムの体を金属状に変化させ各部が分離する。

口が開き頭部がそのまま兜に被さる。

後足が肩に装着される。爪が横に90度回転し盾状になる。

胸部はそのままボディの追加装甲となる。

前腕が杖の先端を上下に挟み込み爪重ね合わさって斧に変化する。さらに石突部分に尻尾が装着される。


「姿が変わろうがこれは防ぎようがあるまい」

ナウエリトが高周波ランサーを新たな姿となったレジリエンスに伸ばす。

レジリエンスは斧を構えた。

得物同士がかち合い、あの耳障りな音が周囲に木霊すと互いが後退した。

「何ッ、奴の斧も高周波だと」

(俺の格がサンダーバードより下のせいか高速移動はできないな)

(十分だ。むしろこっちの方が助かる)

心の中で達人とガッシングラムはそんな会話をしながらゆっくりと敵に向かう。

「おい、俺の最期を群れの皆に伝えてくれよな。追放されたが立派だったってな」

「よせ。早まるな」

「戦士としてのけじめと誇りを遂げさせてくれよ、ナウエリト」

「分かった」ナウエリトは地面に消えていく。

「行くぞ」モケーレが盾のスパイクを打ち付ける。

レジリエンスの新たな胸部はそれを弾き返した。

レジリエンスの高周波アックスがモケーレの頑強な盾を裂く。

高周波振動する刃は物体の分子結合そのものを絶つ。

その為モケーレ・ムベンベの特性も意味をなさない。

レジリエンスはモケーレ・ムベンベの体を十文字に切り裂いた。

その体は石と化し次いで灰色の粒子となって空へ散っていった。

これが大地裂く戦士グランドウォリア―の初陣だった。




「何でお前がいるんだ」

「ここしか寝泊まりできそうな所が無いので」

戦いが終わり八重島家に帰ってきた達人を出迎えた面々に鈴宮玲がしれっと混じっていた。

「実は補給の条件としてEスリー壊滅作戦に参加するよう言われたので」

「そうか。連中を野放しにするのは危険だからな」

(連中の居所をどうやって知ったのだ?だが奴らが危険なのは間違いのない事実だ)

そんな疑問を感じながらも達人はEスリーとの決戦に臨むのだった。
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