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第62話 最後の高き壁 合成UMAコンリット 登場
しおりを挟むアトランティス大陸
首都ポセイドニアの宮殿跡を改築した行政府の一室でティブロンは部下のハスカール達に指示を飛ばしていた。
「コンリットをアトランティス近海に呼び戻せ。レジリエンス共は必ず来る」
「それでは各国への侵攻が遅れるのでは?」
親衛隊ハスカールⅡの1人が恐る恐る尋ねる。彼らもまた思考低減装置を装備されているが一般兵程融通が利かないものではなかった。
「今最も危険なのは奴らだ。後はどうとでもなる。君は自分が現生人類に劣っていると思うかね?」
「いいえ」
「では優れている我々を脅かしかねんモノがレジリエンス一派のみだと判るだろう?判ったら指示通り動きたまえ」
ティブロンは内心ハスカールの思考低減装置を強くし過ぎたのではないかと後悔する。
(部下に物事の対する疑いを持たせない為の装置だったがこうも鈍いのではこの先の業務に支障が出るな。ダガ、支配ニハ都合ガイイ)
(非効率がいいわけがあるか)
心の内に湧き上がって来たその思いをティブロンは打ち消す。
魔甲闘神メサイヤの鎧を着込んでから自分の中に生まれつつある『人格』はティブロンの野心を利用して別の陰謀を企んでいる。
そう感じるから最近は鎧を装着どころか近づかない様にしていた。
(だがそうは言っていられん。ここがアトランティス繁栄の正念場だからな)
アトランティス突入の準備から一夜明けてグリュロスの案内で芹沢達人、黒川ケイ、エリクシリオの3名は人々に見送られながら門を出るところだった。
「しかしそもそも乗れますかね?移民船の数は限られている上にあの声明で人々は殺到している。いくらエリクシリオさんの魔法で僕ら2人の血液と3人の顔を偽装するといっても待っている間に船が行ってしまったら元も子もありませんよ」
「私が連れてきた志願兵という形ですから最優先で乗れますよ。ハスカールⅡはエリート部隊の証ですから」
グリュロスの後を受けてエリクシリオも
「なるほど。ケイ、彼らは何よりも支配階級としてのアトランティス人を一人でも欲しているでしょうから、かなりいい場所に案内されるでしょう。それよりは問題は船内です。中がどうなっているのか、行動の自由がどの程度かという事がまるで秘匿されているのでかなり慎重に動く必要があるでしょう」
「お恥ずかしながらエリクシリオさんの言う通りで船内の様子は私もおぼろげなんです。戦闘に関わらない事だから・・・」
「それに最悪俺達の正体を見破られる可能性もある。その方法として船を撃沈する事もありうるしな。最悪個々に上陸する羽目になるかも知れないからな。ケイ、お前地図を頭に入れてあるか?」
「もちろん」
港に近づくと4人は会話を中断し、エリクシリオが偽装の魔法を2人とその搬入物に掛ける。
「!?タツトあなたまさか」
「血液を偽装する必要が無いのか?」
「そのようですね」
エリクシリオの表情は人によっては悲しみとも、またある人によっては胸中の嬉しさを無理やり押し隠しているともとれる物だった。
「じゃあ、負担は少し軽くなるわけだ。まあ幸先が良いんじゃないですか」
ケイが無理に明るく言った。
「そう、ですね。そう考えましょう」
エリクシリオもそれが分かっているから無理に笑顔で応じる。
移民に際しては先の破滅的な混乱もあり、血液検査を除けば全てが自己申告だった。
これはアトランティスが移民の大半はUMA化する事が前提でパスポートなど何の役にも立たない代物であるという事の表れでもあった。
移民船は特殊合金製で側面に2門づつ海賊除けという名目でのエレメンタルエナジー式大砲を備え、更に船1隻につきハスカールⅠが15名が駐留していた。そして乗船する際積み荷は生活に必要なものではないと判断された物はその場で破棄されてしまうのだった。
この移民船は地球のどこからでもアトランティス大陸へ3日以内で到着するほどの性能で、その間血液検査で『現生人類』と判定された人々は近世の奴隷船さながら船底の大部屋にすし詰め状態で過ごさねばならないのだった。
血液検査をパスした人間はその上の階層に男女別に2~4名が共同で過ごす部屋を割り当てられた。
この部屋には風呂・トイレが共用ではあるが備え付けられていて、食事も規定時間にここへ厨房から運ばれてくるのだった。
それは裏を返せば無暗に出歩くな、という無言の圧力であり、事実各廊下には完全武装のハスカールが2名づつ配されていた。
なまじアトランティス人の習慣等を知らぬケイはぼろを出さない為にも相部屋の男達の会話に入らず退屈して外へ出た。
だが1歩外に出ただけですっ飛んできたハスカールに事情を聴かれる羽目になった。
「いやどうもすみません。ずっと陸地暮らしで船旅ってのに慣れてなくて。船酔いしたかで気分が悪くって。ほらこんな情勢だから薬も満足に買えないでしょう?」
「分かった。B368、ここで待っていろ。直ぐに薬を届けてやる」
ハスカールはケイに割り当てられた番号を確認すると扉に彼を押し込み、医務室へと向かっていった。
(船内はスマホ含めあらゆる電波は届かない。そうまでして何を見られたくないんだ?それとも単に人間を信用していないだけか)
同時にケイはいつ何時自分と積み荷の魔法が解けるのではという不安が頭をもたげてくるのだった。
問題なのは乗船時に目隠しまでされ、積み荷の場所も分からないのだ。一応の整理番号を渡されているがこの場合何の役にも立たない。
とは言えこれら内心の不安を顔に出さないくらいには訓練を積んでいる男である。
(心を読まれなければ、だけど)
船内に読心の魔法の使い手がいない事をケイはひたすらに祈っていた。
達人が通された部屋には出自の異なるアトランティス人3人との相部屋だった。
4人全員が初対面なのはやはり徒党を組んでの反乱や密談を防ぐ目的だった。
「しかし、アトランティス人は数が少ないって言っても結構いるものだな」
「全くだ。これで誰にも怪しまれずに各地を転々とすることも無くなる」
「そしてこれからは俺達の時代だ。下等生物共の主人になれるんだ。俺を気味悪がってた奴らにどうしてくれようか、なあ兄弟」
30代くらいの外見をした男が達人に嬉しそうに話しかける。
「いや、俺は今回の災害で孤児になって検査したらたまたまってだけで」
「良いじゃないか、人生逆転!まだまだ人生は長いんだ。俺達の暮らしやすい世の中を作っていこうぜ」
「支配する事には興味が無い」
「支配?んな大げさな。いやそうだな。これからは俺達の時代ってのはそういうことだな」
「そうだろう?生粋のアトランティス人だけは体は改造されない。この下にいる人達は間違いなく肉体をUMAへと改造されるだろう。少数の支配階級が多数の被支配階級を統治した末路はどれも悲惨だ。ならもっと融和的な方法を考えるべきだと思うが?」
「お前はそれなりにいい暮らしをしてきたかもしれんがな、俺達は連中にそれだけのことをされてきたんだ。今度は奴らがそうなるだけだ。因果応報という奴だよ。そしてそれがティブロンさんの下で永遠に続く。きっとな」
議論は平行線だった。
(ティブロンを倒してもその後の方が問題か。だが今のままではアトランティス人も現生人類も悲惨な事になる。その事を彼らに言っても信じないだろう)
達人は会話を打ち切り窓の外を見た。外の景色はかつて見た海と空よりもきれいな青だった。
エリクシリオのいる部屋も達人同様だった。
相部屋の女性達は社会の上流階級になれるという事に夢中で、それ以外の事を考えていないのだった。
(育った場所の違いか、これが?誰かを支える、思いやる事が無ければ社会は成り立たないのに精神構造そのものがアトランティス人も現生人類も変わらないのであれば結局の所また異世界にアトランティス人が追放されるだけだ)
(エリクシリオは)
(タツトなら)
どう考えるか。どうするのか
やがて来る破滅的な衝突を回避する方法を互いに考えながら2日が経った。
3日目の早朝
レジリエンスらの思念を拾う為メサイヤの鎧を纏ったティブロンは入港予定の船の中にそれを読み取った。
「移民船β3564を停止させ、乗客を甲板に集めろ。その中に反乱軍がいる。そしてそれを手引きした裏切り者がいる。見つけ次第殺せ」
この場合の客とは血液検査をパスした者の事である。
「乗客が抵抗した場合は?」
「構わん、撃て。それは反乱軍の証明の様な物だ。近隣ノ船ノハスカールニ砲撃許可。コンリットヲ向カワセよ」
「沈めるので?」
驚き、聞き返すハスカールだが当の命令を発した上司が心の内で別の何かと猛烈な争いをしている事に気が付かない。
(そんな事をすれば罪のないアトランティス人も巻き添えだ!)
(コレガ人間ノ支配ニ最モ効率的ナ方法ダ)
(支配者はアトランティス人だ)
(貴様達デハ地球ノ支配ハデキナイ。所詮人ダ)
(何様のつもりだ!!)
(神だヨ)
せせら笑うソレを意思の力で心の隅にソレを押しやるが既に命令は実行された後だった。
こうなるともはや撤回は出来ない。
この手の朝令暮改は支配の揺らぎに繋がるからである。
(まあいい。ヤツも連中がこれを乗り越えてくるのを見れば考えを改めるざるを得まい)
達人達は船が全く移動しなくなったのと廊下の慌ただしい足音に気が付くと何が起こっているのかを確かめる為に外へ出た。
「勝手に外へ出てはいかん。反乱軍が紛れ込んでいるのだ」
「どこにいるんですか?」
「まずは1人。コイツだ」
ハスカールⅡのヘルメットを脱がされたグリュロスが左右をハスカールに拘束された状態で連れて来られる。その足は震えていた。
グリュロス自分を助けるために動こうとする達人を目で制した後目を瞑った。
「こいつは北部連合同盟のテロリストだ。他に潜伏しているこいつの同志に告ぐ。我々はこのような事に容赦なく対応する」
グリュロスの右にいたハスカールの1人が監視カメラに向かって宣告すると同時に左側のハスカールがグリュロスを撃ち殺す。
「乗客全員看板に出ろ。例外は無い」
ハスカールに内心の動揺を何とか隠しながら達人はその指示に従った。
その時突然船内が揺れ、全員横倒しになる。
「何だ?」
「馬鹿な!早すぎる!あれは我々ごと船を沈める気か?」
ハスカールは愕然としながら揺れる廊下を走りだす。
「あいつら自分達だけ助かる気か!」
「おい、うかつに動くのは危険だ」
相部屋の男達が後を追う。だが巨大な何かが海中から浮上する、再度の衝撃で船の窓ガラスが割れ男達は船外へと投げ出されていった。
後に残された達人は部屋に戻ると家系図の入った筒だと偽装して持ち込んだ杖を取ってレジリエンスの鎧の入った金属箱を呼ぶとその中に入り、鎧を装着した。
同じくアイディオンの鎧を装着したエリクシリオの姿が見えると同時に船の壁が轟音と共に吹き飛んだ。隣の移民船からの砲撃だった。
「完全に囲まれている!?潜入がバレたか」
壁を吹き飛ばした船の大砲を火球で破壊しながら外を見たレジリエンスは壁の穴から様子を窺う。
3方を距離を詰めながら迫る同型船からハスカールの熱線銃が大砲と同時に火を噴く。
「君はマルスと合流してくれ」
「タツトはどうするのです?」
「狙いは俺達のはずだ。なら俺が船外へ出て連中を引き付ける。その間に脱出してくれ」
そう言うとレジリエンスは両肩のエレメンタル・アンプリファイアを両足に装着すると梅へ飛び下りる。落下するス秒の間に両腕からの火球で大砲とハスカールを始末する。
そして
「プレーオ」(ギリシア語で浮かぶという意味)
レジリエンスは海上に浮かび海面を滑るように動き、砲台をそしてハスカール隊を火球で破壊していった。
アイディオンも自分達が脱出する事が他の人々の安全に繋がるのだと思い、船倉へと急ぐ。
そこに丁度マルスも居合わせ、船倉からガンウルフを偽装した箱から運び出す。
ガンウルフの後部にはパワードペッカーが左側面にはカノンボアが接続されている。
「行きますよ。掴まって下さい」
マルスがエンジンを掛け、薄暗い船倉がガンウルフのライトに照らされる。
「どこから出るのですか?」
「そりゃあ」
その時周囲が急に明るくなった。
「何ッ!?」
周囲の壁がドロドロに溶解し、陽光と共に巨大合成UMAコンリットが彼らの頭上に姿を現した。
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