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二廻目 初恋の香り
第26話 古森信治郎
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「はいこれ」
「ありがとう」
蛍からお茶の入ったペットボトルを受け取る。気を利かせたのか、どこかで買ってきたようだった。そうして、二人で高級感溢れる横長のソファに腰掛けながら一息つく。
――勧められるままにやってきた一二階は美術館だった。今居る場所は絵画の展示をメインにしているようだが、画家や絵画にそこまで詳しくない俺でも聞いたことのある名前がいくつかあり、世界中から有名な作品が集められていることが分かる。
だが、それらはただ飾られているだけで、PLOW特有の目を惹くような仕掛けは何も無い。
代わりといってはなんだが、どこからか聞こえるクラシックの音楽と、金と黒を主調とした厳かで煌びやかな装飾やステンドグラスなどが施された場が広がり、落ち着いた神聖な雰囲気を増長させていた。
展示品をメインに据えているからだろうか、確かにこれまでの常識が通じる落ち着いた場所ではあったが、少々物足りないと思ってしまうのは求めすぎだろうか。
「……しかし、こうしてると……」
「……眠くなってくるわね……」
高窓から差し込む陽射しが気持ちよく、少し眠くなってくる。暖かさを感じることから、この陽射しは本物なのだろう。隣に座る蛍も同じ気持ちなのか、二人してうつらうつらし始めていた。
「…………ん?」
ふと視線を動かした時、誰かがこちらを見ているのに気付く。若く、どこかの高校の制服を着た大人しそうな、それでいて爽やかさも感じる黒髪の青年。目が合うと、青年ははっとした様子で近付いてきた。
「……あの、なにか?」
俺の声に反応して蛍も青年の存在に気付いたようだ。黙ってはいるが警戒している。昨日の件を思い出しているのだろう。
「じろじろ見てしまってすみません! お二人の姿が絵になっていたので、つい……!」
「絵……?」
蛍だけなら分かるが、二人ということはおそらく俺も含まれているのだろう。……どうにも素直に受け止められない。
蛍も怪訝そうな表情のまま、どう答えたらいいものかと思案している様子。
「あの、お二人は恋人同士なのでしょうか?」
「いえ、俺たちはただの――」
……ただの……なんだろう? 友人というのも少し違うような気がする。かといって他人と言うのも寂しいところがある。やはり知り合いだろうか?
「友人です」
考えている間に蛍がサラリと答える。どうやら俺たちの関係は友人でいいらしい。尤も、この場を乗り切るため出た咄嗟の言葉でないとも言い切れないが。
「えっ、そうなんですか? すみません……てっきり恋人同士だと思っていました」
「それは別にいいけど、あなたは誰? どうして私たちのことを見てたの?」
「自己紹介が遅れてしまってすみません。僕は今回のコンテストに参加している古森信治郎という者です」
「……コンテスト?」
そんなものがあったのかと視線を蛍に投げかけるも、蛍も知らなかったのか、首を傾げて返してくる。
「あー……、他の階のインパクトが強いので、あまり知られてないのかもしれませんね」
はは、と困ったように古森は苦笑いを浮かべる。どうやら戒田のような悪い人間ではないようだ。警戒する必要はないだろう。
「俺は柊志樹」
「……星菜蛍よ」
俺が名乗ったからか、蛍も渋々といった様子で後に続く。
「柊さんと星菜さんですね。……気を悪くさせたなら謝ります。さっきも言った通り、お二人の姿が神秘的でとても絵になっていたので、見惚れてしまって」
「……えっと、その二人にはやっぱり俺も入ってるのか……?」
「え? はい」
古森は平然と答えるが、やはり素直に喜べない。どころか、俺のどこに神秘性を感じたのか問い詰めたいほどだった。
「よかったじゃない。神秘的らしいわよ?」
そんな俺の心情を察してか、隣で小馬鹿にしたように蛍は笑う。
「それで、不躾なお願いだとは分かっているんですが、是非お二人の絵を描かせてもらえないでしょうか?」
「ありがとう」
蛍からお茶の入ったペットボトルを受け取る。気を利かせたのか、どこかで買ってきたようだった。そうして、二人で高級感溢れる横長のソファに腰掛けながら一息つく。
――勧められるままにやってきた一二階は美術館だった。今居る場所は絵画の展示をメインにしているようだが、画家や絵画にそこまで詳しくない俺でも聞いたことのある名前がいくつかあり、世界中から有名な作品が集められていることが分かる。
だが、それらはただ飾られているだけで、PLOW特有の目を惹くような仕掛けは何も無い。
代わりといってはなんだが、どこからか聞こえるクラシックの音楽と、金と黒を主調とした厳かで煌びやかな装飾やステンドグラスなどが施された場が広がり、落ち着いた神聖な雰囲気を増長させていた。
展示品をメインに据えているからだろうか、確かにこれまでの常識が通じる落ち着いた場所ではあったが、少々物足りないと思ってしまうのは求めすぎだろうか。
「……しかし、こうしてると……」
「……眠くなってくるわね……」
高窓から差し込む陽射しが気持ちよく、少し眠くなってくる。暖かさを感じることから、この陽射しは本物なのだろう。隣に座る蛍も同じ気持ちなのか、二人してうつらうつらし始めていた。
「…………ん?」
ふと視線を動かした時、誰かがこちらを見ているのに気付く。若く、どこかの高校の制服を着た大人しそうな、それでいて爽やかさも感じる黒髪の青年。目が合うと、青年ははっとした様子で近付いてきた。
「……あの、なにか?」
俺の声に反応して蛍も青年の存在に気付いたようだ。黙ってはいるが警戒している。昨日の件を思い出しているのだろう。
「じろじろ見てしまってすみません! お二人の姿が絵になっていたので、つい……!」
「絵……?」
蛍だけなら分かるが、二人ということはおそらく俺も含まれているのだろう。……どうにも素直に受け止められない。
蛍も怪訝そうな表情のまま、どう答えたらいいものかと思案している様子。
「あの、お二人は恋人同士なのでしょうか?」
「いえ、俺たちはただの――」
……ただの……なんだろう? 友人というのも少し違うような気がする。かといって他人と言うのも寂しいところがある。やはり知り合いだろうか?
「友人です」
考えている間に蛍がサラリと答える。どうやら俺たちの関係は友人でいいらしい。尤も、この場を乗り切るため出た咄嗟の言葉でないとも言い切れないが。
「えっ、そうなんですか? すみません……てっきり恋人同士だと思っていました」
「それは別にいいけど、あなたは誰? どうして私たちのことを見てたの?」
「自己紹介が遅れてしまってすみません。僕は今回のコンテストに参加している古森信治郎という者です」
「……コンテスト?」
そんなものがあったのかと視線を蛍に投げかけるも、蛍も知らなかったのか、首を傾げて返してくる。
「あー……、他の階のインパクトが強いので、あまり知られてないのかもしれませんね」
はは、と困ったように古森は苦笑いを浮かべる。どうやら戒田のような悪い人間ではないようだ。警戒する必要はないだろう。
「俺は柊志樹」
「……星菜蛍よ」
俺が名乗ったからか、蛍も渋々といった様子で後に続く。
「柊さんと星菜さんですね。……気を悪くさせたなら謝ります。さっきも言った通り、お二人の姿が神秘的でとても絵になっていたので、見惚れてしまって」
「……えっと、その二人にはやっぱり俺も入ってるのか……?」
「え? はい」
古森は平然と答えるが、やはり素直に喜べない。どころか、俺のどこに神秘性を感じたのか問い詰めたいほどだった。
「よかったじゃない。神秘的らしいわよ?」
そんな俺の心情を察してか、隣で小馬鹿にしたように蛍は笑う。
「それで、不躾なお願いだとは分かっているんですが、是非お二人の絵を描かせてもらえないでしょうか?」
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