SAVE_YOU

星逢もみじ

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二廻目 初恋の香り

第27話 コンテストがあるらしい

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 なんの冗談かと思うことを、古森は真剣な眼差しで、いたって真面目にそう聞いてきた。

「は……? 描く? 俺たちを?」
「……実は、コンテストに出す予定の作品があまり出来のいいものじゃなくて……」
「それで新しく描こうと?」
「はい」

 ……コンテストがいつ開催されるのかは分からないが、PLOWに居る人たちが滞在できるのは一週間だけ。当然、その間に開催されるだろうから、そこまで長い時間が残されているわけではないだろう。にもかかわらず、コンテストに出す作品をこのタイミングで最初から描き始めるというのは……完成度を考えた場合、かなり無理のある――いや、相当ハードなスケジュールになるのではないか?

「……とはいってもな……」

 自分だけならまだしも、蛍も関係するなら俺の一存では決められない。それに、モデルになるというのならどれだけの時間を取られることになるか――。

「お願いしますっ‼」

 どうしたものかと考えていると、古森が深く頭を下げてきた。

「そんな頭を下げられても……」
「お願いします! やっと見つかったかもしれないんです!」
「見つかったって……」

 必死に懇願する古森に、俺は助け船を求めるように蛍へ目を向ける。だが蛍は古森の熱意を確かめるように、黙ってその様子を見つめていた。

「ほた――」
「待って!」

 意見を聞こうと蛍の名前を口にしようとした瞬間、蛍が古森を見ながら、ぴしゃりと強く制止の言葉を放つ。何が起きたのかと古森に視線を戻すと、今まさに土下座しようとしていたのか、床に片膝を突けて止まっていた。

「どうしてそこまで……」
「……理由を教えてもらってもいい?」

 俺の口から漏れ出た言葉へ追随ついずいするように蛍も尋ねる。古森は少しだけ躊躇ちゅうちょしてから、意を決したように口を開いた。

「……一目見ただけで、どんな人の心も動かすことができる、そんな絵を描きたいんです」
「それは、入賞したいから?」

 続けて、蛍が問いかける。

「いえ。僕はただ純粋に……誰かの心を突き動かすことのできる、そんな作品が描きたいだけです。お願いします……!」

 古森はいよいよ両膝を突いて、呟くように懇願こんがんする。

「…………はぁ…………分かったから顔を上げなさい」

 古森の強い意思を感じ取ったのか、蛍は折れたと言わんばかりに深く溜め息をついて了承した。
 その言葉にパアっと笑みを浮かべて古森が顔を上げる。

「ほ、本当ですか⁉」
「志樹がいいなら、だけど」
「俺は別に構わないが。……本当にいいのか?」
「良いも悪いも、しょうがないでしょ……。それに、どうせ彼、私たちが折れるまで諦めなかったでしょうし」
「……確かにな。まぁだけど、俺は蛍単体の方が良い絵が出来ると思うけど」
「そうかしら?」

 しかし、そこまで深くPLOWに興味を持っていない、ここにいる人たちの中では珍しい部類の二人だったから可能な頼み事だったのだろうと改めて思う。他の人だったらPLOWを回る時間に割きたいと思い、考えるまでもなく断られていただろう。

「あ、ありがとうございます!」

 会話を聞いていた古森は俺たちの手をばっと握り、大袈裟とも取れるほどに強く感謝の気持ちを伝えてくる。

「それじゃあ、さっそく自室にこもって描かせてもらいますね! 完成は最終日の一六日になると思うので、コンテスト当日にはぜひ見に来てください!」
「え? モデルにならなくていいのか?」
「モデル、ですか? はい、もう先ほどの光景は頭の中に焼き付いているので、特にそういったものは必要ないです」
「そ、そうなのか」

 ……ということは、ただ絵の対象に許可を得ようとしただけだったのか。微動だにせず同じポーズをするマネキンのようなものを想像していたが、それなら早く言ってほしかった。そうすれば蛍もここまで難色を示すことも――。

「そ、そんなの当たり前でしょ?」

 隣を見ると、蛍はふふんと得意げに口を開く。
 ……おそらく俺と同じことを想像していただろうに、まるで最初から知っていたかのような態度を取るのは如何なものなのか。

「これが関係者席のチケットです」
「ああ、ありがとう」

 古森からチケットを受け取る。蛍は何か思案するように、差し出されたチケットを見ていた。

「あ……っと、何か予定がありましたか?」
「……いえ、なんでもないわ」

 そうして、少しの間を置いた後チケットを受け取った。

「じゃあ僕はこれで、お邪魔してすみませんでした!」
「ああ」
「お邪魔っていうのはちょっと分からないけど、頑張ってね」

 古森は最後にもう一度深くお辞儀をして早足で去って行く。
 コンテストまで一週間も無い。どこまで描き上げることができるかは分からなかったが、あそこまでの熱意があるのだ、頑張ってもらいたい。

 と、それはそれとして――。

「……よかったのか?」
「何が?」
「チケットを渡された時、なにか考えてるようだったけど、予定があったんじゃないのか?」
「別に何も無いわよ。ただ……」
「ただ?」
「……なんでもない。それよりご飯に行かない? お腹空いちゃった」
「……そうだな、もうそんな時間か」

 ――まだこの階に来てそれほど時間は立っておらず、点々と等間隔で飾られた絵画にもほとんど目を通していない。これが話を逸らす為の会話だということはすぐに分かった。蛍が何を言おうとしたのか気にはなる。けど、そこまで親しくない今の関係で深く入り込んでいいものか。深く入り込んだとして、俺の問いに答えてくれるのか。それは分からない。

「じゃあ行きましょ」
「……ああ」

 そんな事を考えている間に話を聞く機会を逃してしまった俺は、一拍遅れて蛍の後を追って行った。
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