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三廻目 雀の千声、鶴の一声
第55話 長針と短針と秒針
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「拳銃を使ったところで当てるのは案外難しいんで、よほど腕が良くなければ当たらないでしょう。ですが、背後から油断してるところをやっちまえばそれで終わりだ。ああ、銃の調達はしてあげますし、後始末も私がします。どうします?」
……この人――いや、こいつは一体何を言っている? 銃を調達するだの、後始末だの。ふざけている様子はないが、もし冗談で言っているのなら天職は役者だろう。
「……そいつは盲点だったが、まさか本気で言ってるのか?」
「柊さんは本気じゃないんですか?」
「本気だ。けど、これは殺し合いじゃない」
「ですが、アナタ一人だけの問題でもないでしょう?」
「そうだ。だからこそそんなことはできない。蛍に合わせる顔がないからな」
「――そうですか。ま、銃云々は冗談ですが、それぐらいの覚悟が無ければ勝つことは不可能だと思いますよ。なんにせよ、後で彼についてよく調べてみることをオススメします」
確かに、烏野が言っていることが真実かどうか確認するためにも自分で調べてみるのがいいだろう。まさか花柳の情報がインターネット上に載っているとは思ってもみなかったが、そこまでの経歴があるのならいくつも参考になる話が出てくるだろう。
「……ちなみに、アナタの星菜さんに対する気持ちはなんなんですかね?」
「お前には関係ないだろ」
「あの二人と同じように、愛ですか?」
「だから――……あの二人?」
「黒石さんと木流さんですよ。あの二人も一人の女性を奪い合った仲らしいじゃないですか」
……この男、どこまで知っているんだ? 二人とも軽々に己の過去を話そうとする人物とも思えない。……本当にただ噂好きな人間なのか?
「……まったく、愛だの恋だの、そんな一時の気の迷いに人生を懸けちまってるんだから、人間ってのは本当に愚かな生き物です。そうは思いませんか。ねえ?」
「……俺は思わないな」
「はぁ~そうですか。――こういう話を知ってますか? 男女を時計の針に例えた話です。どちらかが短針で、もう片方は長針。時間が経てば経つほど、互いの想いは少しずつズレていくっていう話です」
「いや、知らないな」
「でしょうね。今私が考えた話ですから」
……なんなんだこいつは。当初抱いていた烏野のイメージが徐々に、それでいて確かに変わっていくのを感じる。
「その針はいずれまた重なる時が来るんでしょうが、それもやはり一時の話。この針が重なっている間の時間を〝愛〟と言うんですが、まぁ要するに愛なんてものは割に合わないってことです」
長針の動きに短針は付いていくことはできない。いくら相手を想い続けても、その相手の心が変わってしまえば愛は失われる――ということか。
「それは、自分と相手のどっちが長針でどっちが短針だと?」
「おや、分かりませんか? 長針と短針。他にも呼び方があるでしょう?」
短針と長針の別の呼び方? ……短針は別の言い方で時針ともいうが……。
「……まさか、時針――自身。つまり短針……ってことか?」
……つまり、ダジャレ……?
「くっくっ、そうです。尤も、これは冗談のようでただの真実でしかない。たとえ自分の気持ちが先に遠ざかって行ってしまったとしても、その理由を相手のせいにする。相手の心が離れたから自分の心が離れた、と。要するに、全員が全員自身を短針だと思い込んでいるから長針なんてものは存在しない――実に人間の本質を突いていると思いませんか?」
「捻くれた話だな。じゃあ秒針はなんだと?」
「秒針は何かって? 秒針は秒針でしょう。時間以外に何かありますかね?」
俺の問いに、烏野は得意げに笑みを浮かべながら言う。
「ま、それでも人を想い続けることのできる人間がいるからこそ、愛は崇高なものだと神聖視されてるんでしょうがね。……ま、私のお節介はここまでです。精々、化け物退治頑張ってくださいよ」
言いたいことを言って満足したのか、烏野は踵を返す。
――その背に声を掛けた。
「でも、その話だと俺の知ってる時計とはちょっと違うな」
「……はい?」
身体を半分向き直して烏野は俺を見る。
「俺の時計には、昔から〝短針〟と〝秒針〟しかない」
「…………くくっ、なるほどね。言われてみれば、ワタシもそうだったかもしれません」
そうして、嗤いながら烏野は去って行く。
はたして、あいつは本当にただのお節介で俺の前に姿を現したのだろうか?
……いや、今は烏野のことより花柳をどう倒すかに頭を働かさなくてはならない。武術の天才だの最強だのと持て囃されていても何か付け入る隙があるはずだ。烏野も言っていたが、これは俺だけの戦いではない。敗北は許されないのだ。
……この人――いや、こいつは一体何を言っている? 銃を調達するだの、後始末だの。ふざけている様子はないが、もし冗談で言っているのなら天職は役者だろう。
「……そいつは盲点だったが、まさか本気で言ってるのか?」
「柊さんは本気じゃないんですか?」
「本気だ。けど、これは殺し合いじゃない」
「ですが、アナタ一人だけの問題でもないでしょう?」
「そうだ。だからこそそんなことはできない。蛍に合わせる顔がないからな」
「――そうですか。ま、銃云々は冗談ですが、それぐらいの覚悟が無ければ勝つことは不可能だと思いますよ。なんにせよ、後で彼についてよく調べてみることをオススメします」
確かに、烏野が言っていることが真実かどうか確認するためにも自分で調べてみるのがいいだろう。まさか花柳の情報がインターネット上に載っているとは思ってもみなかったが、そこまでの経歴があるのならいくつも参考になる話が出てくるだろう。
「……ちなみに、アナタの星菜さんに対する気持ちはなんなんですかね?」
「お前には関係ないだろ」
「あの二人と同じように、愛ですか?」
「だから――……あの二人?」
「黒石さんと木流さんですよ。あの二人も一人の女性を奪い合った仲らしいじゃないですか」
……この男、どこまで知っているんだ? 二人とも軽々に己の過去を話そうとする人物とも思えない。……本当にただ噂好きな人間なのか?
「……まったく、愛だの恋だの、そんな一時の気の迷いに人生を懸けちまってるんだから、人間ってのは本当に愚かな生き物です。そうは思いませんか。ねえ?」
「……俺は思わないな」
「はぁ~そうですか。――こういう話を知ってますか? 男女を時計の針に例えた話です。どちらかが短針で、もう片方は長針。時間が経てば経つほど、互いの想いは少しずつズレていくっていう話です」
「いや、知らないな」
「でしょうね。今私が考えた話ですから」
……なんなんだこいつは。当初抱いていた烏野のイメージが徐々に、それでいて確かに変わっていくのを感じる。
「その針はいずれまた重なる時が来るんでしょうが、それもやはり一時の話。この針が重なっている間の時間を〝愛〟と言うんですが、まぁ要するに愛なんてものは割に合わないってことです」
長針の動きに短針は付いていくことはできない。いくら相手を想い続けても、その相手の心が変わってしまえば愛は失われる――ということか。
「それは、自分と相手のどっちが長針でどっちが短針だと?」
「おや、分かりませんか? 長針と短針。他にも呼び方があるでしょう?」
短針と長針の別の呼び方? ……短針は別の言い方で時針ともいうが……。
「……まさか、時針――自身。つまり短針……ってことか?」
……つまり、ダジャレ……?
「くっくっ、そうです。尤も、これは冗談のようでただの真実でしかない。たとえ自分の気持ちが先に遠ざかって行ってしまったとしても、その理由を相手のせいにする。相手の心が離れたから自分の心が離れた、と。要するに、全員が全員自身を短針だと思い込んでいるから長針なんてものは存在しない――実に人間の本質を突いていると思いませんか?」
「捻くれた話だな。じゃあ秒針はなんだと?」
「秒針は何かって? 秒針は秒針でしょう。時間以外に何かありますかね?」
俺の問いに、烏野は得意げに笑みを浮かべながら言う。
「ま、それでも人を想い続けることのできる人間がいるからこそ、愛は崇高なものだと神聖視されてるんでしょうがね。……ま、私のお節介はここまでです。精々、化け物退治頑張ってくださいよ」
言いたいことを言って満足したのか、烏野は踵を返す。
――その背に声を掛けた。
「でも、その話だと俺の知ってる時計とはちょっと違うな」
「……はい?」
身体を半分向き直して烏野は俺を見る。
「俺の時計には、昔から〝短針〟と〝秒針〟しかない」
「…………くくっ、なるほどね。言われてみれば、ワタシもそうだったかもしれません」
そうして、嗤いながら烏野は去って行く。
はたして、あいつは本当にただのお節介で俺の前に姿を現したのだろうか?
……いや、今は烏野のことより花柳をどう倒すかに頭を働かさなくてはならない。武術の天才だの最強だのと持て囃されていても何か付け入る隙があるはずだ。烏野も言っていたが、これは俺だけの戦いではない。敗北は許されないのだ。
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