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四廻目 零れた境界線
第83話 〝被験者候補一覧〟
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「……なんなんだこれは……」
そこに書いてあることを理解するのは難しかった。必死に読み解こうとすれば、なんとなくの意図は解るが、それでも意味までは解らず。流し見しながら概要を掴もうとするも数百ページにも渡る記述は膨大で、とてもではないが時間が足りそうにない。
……それにしても、ここで一体どんなことが行われていたのか、想像するだけで怖気が走る。
前に聞いた話では、SOWISから送られてきた情報を基に、PLOWやリリィ、ルメといったAIを作ったということだった。
過去の偉人も、夢からインスピレーションを受けて歴史に残る発明をしたという話は聞いたことがある。にわかには信じ難いが、霧山嶺蝉もその一人だったということなのだろう。
とりあえずUtopia計画に関係無さそうな今見た情報は、いったん頭の片隅に留めておいて、蛍のもとへ戻ろうと踵を返す。
――その時、先ほどまで見ていた無﨑のパソコンからピピッという機械音を聞き、見るとそこには警告文ではなく、あるファイルが表示されていた。どうやらこのフォルダは最近まで更新されていたようで、最終更新日は八月一三日となっている。
つい数日前まで無﨑はここで作業をしていたのだろうかと思いながら、〝被験者候補一覧〟という不穏なファイルを開いた。
「――な……⁉」
そこに記されていたのは人の名前。しかし、そのほとんどが知った人物の名だった。
「……古森信治郎、黒石影愁、霧山紬、吾御崎理沙……」
鳥肌をそのままに、記されていた名前を一人一人読み上げる。最後の一人は知らなかったが、前の三人は知っている。共通点は無いように思えるが、どうして彼らの名前が載っているのか。……いや、それ以前に被験者候補とは一体なんなのか。
混乱したまま、震える指を動かしてスクロールしていくと、今度は〝最重要被験者〟という文字が見えてくる。
『最重要被験者――烏野。彼が今回の計画において最も可能性のある人物である。彼に役割を果たしてもらう為にも、出来る限り彼の望む通り事を進めることにする』
「烏野……?」
もしかして、あの男も何か関わっているのか? ……しかし、このニュアンスと最重要被験者という言葉から察するに、烏野は無﨑にうまく使われているだけ、という可能性のほうが高そうだが……。
『――なお、アンに関しては資質こそ充分に満たしてはいるものの、あまりにも不確定要素が多いため最終選考からは外すことにする』
アン……確か〝死と孤独〟というファイルにも出てきた女性の名前だ。
ここに書いてある被験者というものが何か分からないが、確かなのは無﨑にとって烏野が最重要人物だということ。彼が何か知っているのなら今すぐにでも話を聞きたいが、それほどの重要人物なら無﨑の監視下にあるはず。いつものように烏野から接触してきてくれたとしても、AIに聞かれている手前、話を聞き出すのは難しいだろう。
……いや、そもそも烏野自身も他とは何か様子がおかしいのだ。何か知っていたとしても、素直に答えてくれるとも限らないか。
「はぁ……」
溜め息を吐いて、更に画面をスクロールする。といっても、余白はもう少ししかなく、すぐに一番下まで辿り着いた。
――が、その最後の文字を目にした時、冷静さを取り戻しかけていた頭が再び真っ白になる。
「星菜……蛍……⁉」
たったそれだけで何の補足も無かったが、最後に蛍の名前だけが記されていた。それだけで蛍の状況が差し迫ったものだと理解する。ただメモをしたにしても、ここに蛍の名前が書かれているのは明らかにおかしい。
どうして蛍がという疑問はあるが、名前が記されている以上、なんらかの悪意に晒される可能性は充分に考えられる。……いや、もし無﨑がこれを見せるために地下を探らせるようなことを言ったのだとしたら……。
「蛍っ!」
慌てて蛍を呼ぶ。
だが、蛍は霧山さんのデスクの前で茫然と立ち尽くし、こちらの呼び掛けに一切反応していない。
「――っ!」
そんな中、蛍と一緒に画面を見つめていた春佳だけが俺の声に反応して、ハッとした顔の後、一歩、二歩と後ずさり、涙を浮かべたまま駆け出して行ってしまった。
「春ちゃん!」
その姿を見て、リリィは引き留めるような声を上げ――それでも追うことなく、その場で走り去って行く春佳の後ろ姿をただ見つめていた。
「春佳……?」
一体どうしたのかと、未だ整理し切れない頭のまま、蛍の元へと向かう。
そうして、ここへ来たもう一つの理由を思い出していた。
「蛍、何があったんだ?」
「……ごめんなさい。見る前にあなたを呼んだんだけど、集中してるみたいだったから……」
「いや、いいんだ」
この様子だとすでに春佳の秘密は目にした後、ということだろう。
蛍の隣からモニターを覗き見る。最初に目に飛び込んできたのは、昨日リリィから聞いたばかりの病名――。
「天寿症……」
その単語に嫌な予感を感じつつも、映し出されている文字を順に目で追っていく。どうやら画面に書かれているメモ書きに似たそれは、霧山さんの日記のようだった。
そこに書いてあることを理解するのは難しかった。必死に読み解こうとすれば、なんとなくの意図は解るが、それでも意味までは解らず。流し見しながら概要を掴もうとするも数百ページにも渡る記述は膨大で、とてもではないが時間が足りそうにない。
……それにしても、ここで一体どんなことが行われていたのか、想像するだけで怖気が走る。
前に聞いた話では、SOWISから送られてきた情報を基に、PLOWやリリィ、ルメといったAIを作ったということだった。
過去の偉人も、夢からインスピレーションを受けて歴史に残る発明をしたという話は聞いたことがある。にわかには信じ難いが、霧山嶺蝉もその一人だったということなのだろう。
とりあえずUtopia計画に関係無さそうな今見た情報は、いったん頭の片隅に留めておいて、蛍のもとへ戻ろうと踵を返す。
――その時、先ほどまで見ていた無﨑のパソコンからピピッという機械音を聞き、見るとそこには警告文ではなく、あるファイルが表示されていた。どうやらこのフォルダは最近まで更新されていたようで、最終更新日は八月一三日となっている。
つい数日前まで無﨑はここで作業をしていたのだろうかと思いながら、〝被験者候補一覧〟という不穏なファイルを開いた。
「――な……⁉」
そこに記されていたのは人の名前。しかし、そのほとんどが知った人物の名だった。
「……古森信治郎、黒石影愁、霧山紬、吾御崎理沙……」
鳥肌をそのままに、記されていた名前を一人一人読み上げる。最後の一人は知らなかったが、前の三人は知っている。共通点は無いように思えるが、どうして彼らの名前が載っているのか。……いや、それ以前に被験者候補とは一体なんなのか。
混乱したまま、震える指を動かしてスクロールしていくと、今度は〝最重要被験者〟という文字が見えてくる。
『最重要被験者――烏野。彼が今回の計画において最も可能性のある人物である。彼に役割を果たしてもらう為にも、出来る限り彼の望む通り事を進めることにする』
「烏野……?」
もしかして、あの男も何か関わっているのか? ……しかし、このニュアンスと最重要被験者という言葉から察するに、烏野は無﨑にうまく使われているだけ、という可能性のほうが高そうだが……。
『――なお、アンに関しては資質こそ充分に満たしてはいるものの、あまりにも不確定要素が多いため最終選考からは外すことにする』
アン……確か〝死と孤独〟というファイルにも出てきた女性の名前だ。
ここに書いてある被験者というものが何か分からないが、確かなのは無﨑にとって烏野が最重要人物だということ。彼が何か知っているのなら今すぐにでも話を聞きたいが、それほどの重要人物なら無﨑の監視下にあるはず。いつものように烏野から接触してきてくれたとしても、AIに聞かれている手前、話を聞き出すのは難しいだろう。
……いや、そもそも烏野自身も他とは何か様子がおかしいのだ。何か知っていたとしても、素直に答えてくれるとも限らないか。
「はぁ……」
溜め息を吐いて、更に画面をスクロールする。といっても、余白はもう少ししかなく、すぐに一番下まで辿り着いた。
――が、その最後の文字を目にした時、冷静さを取り戻しかけていた頭が再び真っ白になる。
「星菜……蛍……⁉」
たったそれだけで何の補足も無かったが、最後に蛍の名前だけが記されていた。それだけで蛍の状況が差し迫ったものだと理解する。ただメモをしたにしても、ここに蛍の名前が書かれているのは明らかにおかしい。
どうして蛍がという疑問はあるが、名前が記されている以上、なんらかの悪意に晒される可能性は充分に考えられる。……いや、もし無﨑がこれを見せるために地下を探らせるようなことを言ったのだとしたら……。
「蛍っ!」
慌てて蛍を呼ぶ。
だが、蛍は霧山さんのデスクの前で茫然と立ち尽くし、こちらの呼び掛けに一切反応していない。
「――っ!」
そんな中、蛍と一緒に画面を見つめていた春佳だけが俺の声に反応して、ハッとした顔の後、一歩、二歩と後ずさり、涙を浮かべたまま駆け出して行ってしまった。
「春ちゃん!」
その姿を見て、リリィは引き留めるような声を上げ――それでも追うことなく、その場で走り去って行く春佳の後ろ姿をただ見つめていた。
「春佳……?」
一体どうしたのかと、未だ整理し切れない頭のまま、蛍の元へと向かう。
そうして、ここへ来たもう一つの理由を思い出していた。
「蛍、何があったんだ?」
「……ごめんなさい。見る前にあなたを呼んだんだけど、集中してるみたいだったから……」
「いや、いいんだ」
この様子だとすでに春佳の秘密は目にした後、ということだろう。
蛍の隣からモニターを覗き見る。最初に目に飛び込んできたのは、昨日リリィから聞いたばかりの病名――。
「天寿症……」
その単語に嫌な予感を感じつつも、映し出されている文字を順に目で追っていく。どうやら画面に書かれているメモ書きに似たそれは、霧山さんの日記のようだった。
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