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六廻目 罪の記憶
第121話 勝ちは勝ち
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「……はぁ、はぁ……。な、なかなか、やる……な……!」
「そっちこそ……!」
――テニスコート上。息も絶え絶えに呼吸を荒げながらネットを挟んで話す。
五番勝負となったこの戦い。じゃんけんで勝った方から順番に得意な種目を選んで勝負をするという事に決まり、大事な先手番を決めるじゃんけんに無事勝つことのできた俺は、まず長距離走を選んだ。その後は、蛍から順番に、弓道、ボウリング、競泳で勝負することに決まり、結果としては互いに選んだ種目で勝利を収めることに成功していた。
「よしっ!」
「ちょっと、今のネットイン!」
「ああ、悪い悪い」
「……全然謝ってる顔じゃない」
そして最後に俺が選んだ種目である、テニスでの勝負にまで縺れこんでいた。
一番自信があったし、初心者と経験者とでは覆しようの無い差が生まれるスポーツだった為、すぐに勝負がつくかと思っていたのだが、どうやら蛍も経験者だったようで予想以上の大苦戦を強いられていた。
スコアは俺からみて、6-4、3-6、6-1、3-6、5-3。
フルセットの大接戦となったものの、長引くほど体力差が顕著に現れ初めたのだろう。一時期は逆転されるのではないかと冷や冷やする追い上げを見せられたが、また徐々に形勢が俺へと傾き、ついに念願のマッチポイントを迎えていた。
「どうやら、序盤の長距離走が効いてるようだな」
「くっ……!」
「まさか卑怯なんて言わないよな?」
「ここまできてそんな事言わないわよ」
「よく言った!」
ここまで食い下がった蛍に内心で敬意を表しつつ、止めを刺すべくリターンの位置まで下がってラケットの網目――ガットを見る。
まさかここまで縺れた戦いになるとは思っていなかった。蛍の想像以上に高い運動神経と読みの冴えに、一時は本気で敗北が頭を過ったものだ。もちろんまだ勝負はついていないが、ここまできて負けるわけにはいかない。それは蛍の過去を知る為に、というのもあるが、男のプライドという別の意味で大事な問題も生まれていたからだ。
「……もういい?」
「ちょっと待ってくれ。靴紐が解けた」
トスを上げようとする蛍に待ったをかけてしゃがみ込む。靴紐は解けていなかったが、この一本を逃すと万が一ということもあり得る。……そう、これは大事の前の小事。言ってしまえば戦略だ。決して姑息に相手の間を外しているわけではない。
「……よし、もういいぞ」
心の中でそんな言い訳をして、クルクルとラケットを回しながら構える。
そんな俺を一瞥するのと同時に、蛍はボールを突き始める。かなり集中しているのだろう。身体からは闘気のような熱が揺蕩っているように見えた。
そうして直感で理解する。この一ポイントが勝負を決めると。
――蛍がトスを上げた。
「――ふぅ、いい勝負だったな!」
「くっ……! …………はぁ、そうね。負けたわ」
長い長い戦いだった。正直、最後の二ポイントは運がよかっただけだが、それでもなんとか勝ち切ることが出来た。
……だが得意のテニスで、しかも体力や体格差があるにも関わらずこのスコアはかなり不味い。正直なところ、フルセットまで縺れた時点で負けだと言われても何も言えなかった。
「はぁ……けど、まさか経験者だとは思わなかったよ」
「経験者ってほどでもないけどね。学校の授業でちょっとやったぐらいだし」
「は、学校の授業で⁉ たったそれだけ⁉」
「ええ」
……それでこれだけの動きが出来るのなら、とてつもない才能を秘めているのではないか。
「はぁ疲れた。……で? こんなに一生懸命になるほど私にさせたいことって何?」
「その話をする前に昼飯にでも行かないか?」
気が付くと時計の針は頂点をとうに超えていた。四戦目が終わった時はまだ午前中だったが、テニスの試合が長引きすぎたからだろう。
「あ、ほんとだ! もうこんな時間」
「せっかくだし、ここはパーッと寿司でも食べに行くか」
世界中から名店が集まっているPLOWならどこの店に入っても失敗するということはないだろうが、蛍の機嫌を取る為にもここは豪勢にいっておきたい。
「いいわね。それじゃ行きましょうか」
「ふぅ……もうお腹と背中がくっつきそうだ」
「……今時そんな言い方する人いるんだ」
談笑しながら、プログラムを終了させる。
無事、前提条件はクリアした。後は話を切り出すタイミングだけ。絶対に間違えないようにしなければならない。
「そっちこそ……!」
――テニスコート上。息も絶え絶えに呼吸を荒げながらネットを挟んで話す。
五番勝負となったこの戦い。じゃんけんで勝った方から順番に得意な種目を選んで勝負をするという事に決まり、大事な先手番を決めるじゃんけんに無事勝つことのできた俺は、まず長距離走を選んだ。その後は、蛍から順番に、弓道、ボウリング、競泳で勝負することに決まり、結果としては互いに選んだ種目で勝利を収めることに成功していた。
「よしっ!」
「ちょっと、今のネットイン!」
「ああ、悪い悪い」
「……全然謝ってる顔じゃない」
そして最後に俺が選んだ種目である、テニスでの勝負にまで縺れこんでいた。
一番自信があったし、初心者と経験者とでは覆しようの無い差が生まれるスポーツだった為、すぐに勝負がつくかと思っていたのだが、どうやら蛍も経験者だったようで予想以上の大苦戦を強いられていた。
スコアは俺からみて、6-4、3-6、6-1、3-6、5-3。
フルセットの大接戦となったものの、長引くほど体力差が顕著に現れ初めたのだろう。一時期は逆転されるのではないかと冷や冷やする追い上げを見せられたが、また徐々に形勢が俺へと傾き、ついに念願のマッチポイントを迎えていた。
「どうやら、序盤の長距離走が効いてるようだな」
「くっ……!」
「まさか卑怯なんて言わないよな?」
「ここまできてそんな事言わないわよ」
「よく言った!」
ここまで食い下がった蛍に内心で敬意を表しつつ、止めを刺すべくリターンの位置まで下がってラケットの網目――ガットを見る。
まさかここまで縺れた戦いになるとは思っていなかった。蛍の想像以上に高い運動神経と読みの冴えに、一時は本気で敗北が頭を過ったものだ。もちろんまだ勝負はついていないが、ここまできて負けるわけにはいかない。それは蛍の過去を知る為に、というのもあるが、男のプライドという別の意味で大事な問題も生まれていたからだ。
「……もういい?」
「ちょっと待ってくれ。靴紐が解けた」
トスを上げようとする蛍に待ったをかけてしゃがみ込む。靴紐は解けていなかったが、この一本を逃すと万が一ということもあり得る。……そう、これは大事の前の小事。言ってしまえば戦略だ。決して姑息に相手の間を外しているわけではない。
「……よし、もういいぞ」
心の中でそんな言い訳をして、クルクルとラケットを回しながら構える。
そんな俺を一瞥するのと同時に、蛍はボールを突き始める。かなり集中しているのだろう。身体からは闘気のような熱が揺蕩っているように見えた。
そうして直感で理解する。この一ポイントが勝負を決めると。
――蛍がトスを上げた。
「――ふぅ、いい勝負だったな!」
「くっ……! …………はぁ、そうね。負けたわ」
長い長い戦いだった。正直、最後の二ポイントは運がよかっただけだが、それでもなんとか勝ち切ることが出来た。
……だが得意のテニスで、しかも体力や体格差があるにも関わらずこのスコアはかなり不味い。正直なところ、フルセットまで縺れた時点で負けだと言われても何も言えなかった。
「はぁ……けど、まさか経験者だとは思わなかったよ」
「経験者ってほどでもないけどね。学校の授業でちょっとやったぐらいだし」
「は、学校の授業で⁉ たったそれだけ⁉」
「ええ」
……それでこれだけの動きが出来るのなら、とてつもない才能を秘めているのではないか。
「はぁ疲れた。……で? こんなに一生懸命になるほど私にさせたいことって何?」
「その話をする前に昼飯にでも行かないか?」
気が付くと時計の針は頂点をとうに超えていた。四戦目が終わった時はまだ午前中だったが、テニスの試合が長引きすぎたからだろう。
「あ、ほんとだ! もうこんな時間」
「せっかくだし、ここはパーッと寿司でも食べに行くか」
世界中から名店が集まっているPLOWならどこの店に入っても失敗するということはないだろうが、蛍の機嫌を取る為にもここは豪勢にいっておきたい。
「いいわね。それじゃ行きましょうか」
「ふぅ……もうお腹と背中がくっつきそうだ」
「……今時そんな言い方する人いるんだ」
談笑しながら、プログラムを終了させる。
無事、前提条件はクリアした。後は話を切り出すタイミングだけ。絶対に間違えないようにしなければならない。
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