136 / 180
七廻目 誰が為に
第136話 烏野の居場所
しおりを挟む
「――それにしても、まさか影愁が志樹さんと知り合いだったとはな」
エレベーターを待っている間、木流さんがそんなことを口にする。
黒石は声の主に対してギロリと睨みを利かせたものの、それが無意味だと悟ると深い溜め息をついて冷静に答えた。
「……そこの小僧とはついさっき会ったばかりだ」
「なに? ではほとんど初対面ではないか。それならもう少し言葉遣いをだな――」
「黙れ……! 長年に渡る悲願の一つを目の前で保留にされたのだ。これでも優しい方だと思うがな」
「……すまないな志樹さん。――おっと、今さらですが名前で呼んでも?」
「ええ、もちろんです。俺も木流さんって呼んでもいいですか?」
「ああ、もちろんいいとも」
木流さんはニッコリ笑って手を差し伸ばしてくる。二度目となる自己紹介に感慨深いものを感じながら、その手を握り返す。
想像以上の戦力が揃って気が緩んでいると、ポケットの中から振動が伝わる。携帯電話の画面に表示されたのは蛍の名前だった。
「どうした?」
「――志樹! 烏野さんの居場所が分かったの!」
「烏野の⁉」
開口一番告げられた言葉に、この場にいる三人の視線が集まる。
「ええ。場所は最上階。逃げてきた人の話によると、急に発砲したらしいんだけど」
発砲……⁉ どうしてそんなことを。
「怪我人は⁉」
「転んだりして軽い怪我はしてるみたいだけど、命に関わるものは誰も」
「そうか、よかった……」
もう次は無いのだ、出来るなら誰一人として死なせたくはない。
烏野が発砲した理由は不明だが、ここにきていよいよ動き出したということだろう。
すでにルメを使おうとしたと仮定すると、タイムリミットは今から約三〇分……。爆弾を解除してアンを無力化。それから烏野を止めに行く……? 無理だ、時間が足りない。
だが、烏野の居場所が分かった今、先にそっちの方をつけてからアンの方へ向かえばいい。それなら充分間に合う。
「一応、九九階でスタッフの人が見張ってくれてるけど。今のところ動きはないみたい」
罠か、それとも単純にルメが使えないと分かって八つ当たりでもしたか。
……そうか。無﨑亡き今、PLOWで一番力を持っているのは霧山さんだ。ウイルスを仕込まれたと知ったなら、どうにかして排除しようとするだろう。だが、その霧山さんは秘匿されていて居場所が掴めない。だから、ルメでどうすることもできない騒ぎが起きたら彼女が来ると踏んで発砲したのかもしれない。
もし霧山さんを誘き出すことが目的なら烏野は待つだろう。
「――そうか、分かった」
「それと……えっと、志樹」
「ん?」
「……その……」
その時、チンという音と共にエレベーターの扉が開いた。続くであろう蛍の言葉を待っている時間はもうない。
――だから、蛍が言わんとしていることを先読みして答える。
「……必ず生きて帰る」
「えっ――」
そうしてエレベーターの中に入るのと同時に電話を切った。
もしかしたら違うかもしれないが、おそらく蛍は俺の身を案じてくれていたのだと思う。電話越しではあったが、確かにそんな心配と優しさを感じていた。
「どうやら烏野が見つかったようね」
「ああ」
いつの間にか般若の面を付けていた花柳が、いつになく真剣な声音で話しかけてくる。
「奴は意味の無いことはしない。体術も相当なものだけど拳銃の腕はそれ以上。掛け値なしに天才のそれよ。相手はあーしがするけど、充分に気を付けなさい」
その言葉に無言のまま首肯する。まずは目先の問題。烏野の制圧だ。
――そう意気込んで階数表示を凝視していたのだが、エレベーターは目的の一〇〇階ではなく、その途中の六五階で止まってしまった。
どうしてと思う間もなく、静かに扉が開く。
「……なんだ?」
誰かが待っているのかと思ったが、外には誰もいない。それどころか館内は薄暗く、上下逆さまの鏡張りになった空間以外にホログラムによる装飾は施されていないように見え、とても営業中とは思えない様相を醸し出していた。
閉めようとボタンを押すも、うんともすんとも言わない。横から黒石がカチカチと何度もボタンを押すも、故障してしまったかのように、ピクリとも動く気配がなかった。
「……どういうことだ?」
一様に理解に努めようとしている中、黒石が呟く。
誰も答えることのできない問い――かに思われたが、次の瞬間エレベーターの中から聞き覚えのある声が響いてきた。
「――すみませんが、そちらのアトラクションはワタシが一時的に止めさせていただきました」
エレベーターを待っている間、木流さんがそんなことを口にする。
黒石は声の主に対してギロリと睨みを利かせたものの、それが無意味だと悟ると深い溜め息をついて冷静に答えた。
「……そこの小僧とはついさっき会ったばかりだ」
「なに? ではほとんど初対面ではないか。それならもう少し言葉遣いをだな――」
「黙れ……! 長年に渡る悲願の一つを目の前で保留にされたのだ。これでも優しい方だと思うがな」
「……すまないな志樹さん。――おっと、今さらですが名前で呼んでも?」
「ええ、もちろんです。俺も木流さんって呼んでもいいですか?」
「ああ、もちろんいいとも」
木流さんはニッコリ笑って手を差し伸ばしてくる。二度目となる自己紹介に感慨深いものを感じながら、その手を握り返す。
想像以上の戦力が揃って気が緩んでいると、ポケットの中から振動が伝わる。携帯電話の画面に表示されたのは蛍の名前だった。
「どうした?」
「――志樹! 烏野さんの居場所が分かったの!」
「烏野の⁉」
開口一番告げられた言葉に、この場にいる三人の視線が集まる。
「ええ。場所は最上階。逃げてきた人の話によると、急に発砲したらしいんだけど」
発砲……⁉ どうしてそんなことを。
「怪我人は⁉」
「転んだりして軽い怪我はしてるみたいだけど、命に関わるものは誰も」
「そうか、よかった……」
もう次は無いのだ、出来るなら誰一人として死なせたくはない。
烏野が発砲した理由は不明だが、ここにきていよいよ動き出したということだろう。
すでにルメを使おうとしたと仮定すると、タイムリミットは今から約三〇分……。爆弾を解除してアンを無力化。それから烏野を止めに行く……? 無理だ、時間が足りない。
だが、烏野の居場所が分かった今、先にそっちの方をつけてからアンの方へ向かえばいい。それなら充分間に合う。
「一応、九九階でスタッフの人が見張ってくれてるけど。今のところ動きはないみたい」
罠か、それとも単純にルメが使えないと分かって八つ当たりでもしたか。
……そうか。無﨑亡き今、PLOWで一番力を持っているのは霧山さんだ。ウイルスを仕込まれたと知ったなら、どうにかして排除しようとするだろう。だが、その霧山さんは秘匿されていて居場所が掴めない。だから、ルメでどうすることもできない騒ぎが起きたら彼女が来ると踏んで発砲したのかもしれない。
もし霧山さんを誘き出すことが目的なら烏野は待つだろう。
「――そうか、分かった」
「それと……えっと、志樹」
「ん?」
「……その……」
その時、チンという音と共にエレベーターの扉が開いた。続くであろう蛍の言葉を待っている時間はもうない。
――だから、蛍が言わんとしていることを先読みして答える。
「……必ず生きて帰る」
「えっ――」
そうしてエレベーターの中に入るのと同時に電話を切った。
もしかしたら違うかもしれないが、おそらく蛍は俺の身を案じてくれていたのだと思う。電話越しではあったが、確かにそんな心配と優しさを感じていた。
「どうやら烏野が見つかったようね」
「ああ」
いつの間にか般若の面を付けていた花柳が、いつになく真剣な声音で話しかけてくる。
「奴は意味の無いことはしない。体術も相当なものだけど拳銃の腕はそれ以上。掛け値なしに天才のそれよ。相手はあーしがするけど、充分に気を付けなさい」
その言葉に無言のまま首肯する。まずは目先の問題。烏野の制圧だ。
――そう意気込んで階数表示を凝視していたのだが、エレベーターは目的の一〇〇階ではなく、その途中の六五階で止まってしまった。
どうしてと思う間もなく、静かに扉が開く。
「……なんだ?」
誰かが待っているのかと思ったが、外には誰もいない。それどころか館内は薄暗く、上下逆さまの鏡張りになった空間以外にホログラムによる装飾は施されていないように見え、とても営業中とは思えない様相を醸し出していた。
閉めようとボタンを押すも、うんともすんとも言わない。横から黒石がカチカチと何度もボタンを押すも、故障してしまったかのように、ピクリとも動く気配がなかった。
「……どういうことだ?」
一様に理解に努めようとしている中、黒石が呟く。
誰も答えることのできない問い――かに思われたが、次の瞬間エレベーターの中から聞き覚えのある声が響いてきた。
「――すみませんが、そちらのアトラクションはワタシが一時的に止めさせていただきました」
0
あなたにおすすめの小説
下宿屋 東風荘 7
浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆
四つの巻物と本の解読で段々と力を身につけだした雪翔。
狐の国で保護されながら、五つ目の巻物を持つ九堂の居所をつかみ、自身を鍵とする場所に辿り着けるのか!
四社の狐に天狐が大集結。
第七弾始動!
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆
表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
女神の白刃
玉椿 沢
ファンタジー
どこかの世界の、いつかの時代。
その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。
女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。
剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。
大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。
魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。
*表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」
masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。
世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。
しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。
入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。
彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。
香織は、八重の親友。
そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。
その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。
ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。
偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。
「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。
やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。
その中で、恋もまた静かに進んでいく。
「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。
それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。
一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。
現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。
本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる