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映画館デートとおさかなカフェ@
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「…………はぁぁぁ。」
時刻は午前10時、20分前。
足元を優雅に歩く鳩たちをぼんやりと眺めながら、深々とため息をついた。
かれこれ、10分はこの調子だ。もう過ぎてしまった出来事をずっっと後悔して、反省するばかり。
もう二度とないチャンスだったというのに、腑抜けやがった俺を今すぐ殴ってやりたい。
「ディア…?すまない、待たせてしまったか。」
「うぉっ!?あ、い、いえ!平気っス。あ、えーと、お、俺もさっき来たばっかりなん……」
晴天に映える黒髪。
俺の顔を覗き込むように見つめる真っ赤な瞳が太陽の光でキラキラと輝いていて。
ふわ…と香る優しい香りが一気に俺の心音を加速させる。
「?…ディア?」
「あ、い、や…すんません!何でもないっス!……そ、その………に、似合ってます…その服」
我ながら可愛げのない言葉だと思う。
可愛い、とか綺麗、とかもっと言い表せる言葉はいっぱいあるはずなのに。
零したように告げた言葉はぶっきらぼうで…。
「ありがとう。ディアに褒めて貰えると何だか嬉しいな。」
「………………っスか。」
それでも、先輩は照れくさそうに、とても嬉しそうに笑ってくれるから。
その優しさに、笑顔に、叶うはずのない片思いが加速するばかりで。
「じゃ、行きましょうか。……はぐれるとアレなんで、手、くださいっス」
「ん、あぁ。」
これぐらい許されるだろう、と小さな先輩の、小さな手を握る。
温かくて、柔らかくて、強く握れば折れてしまいそうなか細い手を慎重に、無骨な掌で包み込んで。
煩いくらいに高鳴ってる心臓がバレないようにと平然を装って、彼女の隣を歩いた。
「…………。」
辺りの喧騒が、休日の商店街を賑わせる中、俺は静かに先輩の手を引いていた。
気が利かないことに、何か話しかけることも出来なくて。
隣を歩く先輩へ視線を向ければ食い入るようにスマホを見つめていた。
折角、デートに誘えたというのに。一世一代のチャンスだというのに。
待ち合わせして数十分としないうちに、ちょっとでも期待していた気持ちはがくっと下が
「ディア。」
「っはい!?な、なんスか?」
くんっ、と軽く引かれた腕。
半歩後ろを歩いていた先輩の方を咄嗟に振り返れば、瞳を丸くして。
俺の剣幕を見てはくすくすと小さく笑った。
「そんな怖い顔して、どこに行くつもりだ?」
「へ…?ど、どこって……あ。」
視線を上げれば、たった今通り過ぎかけていた目的地がそこにあった。
魚型の看板に、魚が描かれたホワイトボード。
美味しそうな匂いに鼻をひくつかせていれば、先輩は可笑しそうに口元を隠して笑う。
「す、すす、すみません!俺、ちゃんと周り見てなくて!!」
「ふふ、そんなに緊張しないでくれ。私には、友達として普通に接してくれると嬉しいんだ。」
さ、はやく入ろう?と俺の手を引いてくれる背中は、とても、眩しくて。
手を離せば、きっともう二度と届かなくなってしまうから。
ぎゅ、と繋いだ手に力を入れて、彼女の背を追いかけた。
「ひっ……い、いらっしゃいませ、何名様でしょうか。」
「2人です。あ、予約、してます。」
からん、からん、と音を立てて開いた扉。
にこやかな店員は一瞬俺を見てはびく、と肩を震わせて、まるで助け舟を求めるように先輩の方を見た。
彼女もそれに気づいたのか、困ったように笑いながらスマホを差し出し見せた。
嗚呼、さっきのはそういうことか、なんてほんの少し安堵しながら、2人の会話を見守る。
「はい、確認しました!あ、現在発情期のお客様はいらっしゃいますか?」
「あ……え、えぇっと…。」
「お、俺!…今、発情期、……っス」
我ながら、よく反応できたと思う。
俺がそういった目を向けられるのはべつにいい。
けど先輩に向けられるとなれば、話は別だ。
悔しいけれど、俺はまだ先輩の力には及ばないから、守り方なんてこんなかっこ悪いもので。
先輩が見向きもしないのは、当たり前のことで。
「か、かしこまりました、では、お席へ案内、致します……」
「…………すんません、先輩。余計な世話、だったっスか?」
前を歩く先輩に、小声で問いかけた。
先輩なら、上手く切り抜けられたかもしれない。
店員に耳打ちするなり、ジェスチャーで伝えるなり、今考えればもっと色んな方法が頭の中に浮かんできて、自己嫌悪に陥るのは簡単だった。
「此方のお席でお願いします!あ、注文が決まりましたらお呼びください!では!!」
案内された席。逃げるように去っていった店員の背を見送って、先輩が俺の方へと振り返る。
にこ、と優しく微笑む表情はとても、愛らしいけれど、どこか、違和感があって。
(…………ぁ)
「……はは、悪い。正直助かったよ。」
握ったまんまの手はほんの少し震えていた。
へにゃり、と緩む笑みはいつもの先輩とは違って…。
「とても、かっこよかったよディア。ありがとう。」
「……………………はい…。」
嗚呼、この人はまだ、俺を離してくれそうにないようだ。
時刻は午前10時、20分前。
足元を優雅に歩く鳩たちをぼんやりと眺めながら、深々とため息をついた。
かれこれ、10分はこの調子だ。もう過ぎてしまった出来事をずっっと後悔して、反省するばかり。
もう二度とないチャンスだったというのに、腑抜けやがった俺を今すぐ殴ってやりたい。
「ディア…?すまない、待たせてしまったか。」
「うぉっ!?あ、い、いえ!平気っス。あ、えーと、お、俺もさっき来たばっかりなん……」
晴天に映える黒髪。
俺の顔を覗き込むように見つめる真っ赤な瞳が太陽の光でキラキラと輝いていて。
ふわ…と香る優しい香りが一気に俺の心音を加速させる。
「?…ディア?」
「あ、い、や…すんません!何でもないっス!……そ、その………に、似合ってます…その服」
我ながら可愛げのない言葉だと思う。
可愛い、とか綺麗、とかもっと言い表せる言葉はいっぱいあるはずなのに。
零したように告げた言葉はぶっきらぼうで…。
「ありがとう。ディアに褒めて貰えると何だか嬉しいな。」
「………………っスか。」
それでも、先輩は照れくさそうに、とても嬉しそうに笑ってくれるから。
その優しさに、笑顔に、叶うはずのない片思いが加速するばかりで。
「じゃ、行きましょうか。……はぐれるとアレなんで、手、くださいっス」
「ん、あぁ。」
これぐらい許されるだろう、と小さな先輩の、小さな手を握る。
温かくて、柔らかくて、強く握れば折れてしまいそうなか細い手を慎重に、無骨な掌で包み込んで。
煩いくらいに高鳴ってる心臓がバレないようにと平然を装って、彼女の隣を歩いた。
「…………。」
辺りの喧騒が、休日の商店街を賑わせる中、俺は静かに先輩の手を引いていた。
気が利かないことに、何か話しかけることも出来なくて。
隣を歩く先輩へ視線を向ければ食い入るようにスマホを見つめていた。
折角、デートに誘えたというのに。一世一代のチャンスだというのに。
待ち合わせして数十分としないうちに、ちょっとでも期待していた気持ちはがくっと下が
「ディア。」
「っはい!?な、なんスか?」
くんっ、と軽く引かれた腕。
半歩後ろを歩いていた先輩の方を咄嗟に振り返れば、瞳を丸くして。
俺の剣幕を見てはくすくすと小さく笑った。
「そんな怖い顔して、どこに行くつもりだ?」
「へ…?ど、どこって……あ。」
視線を上げれば、たった今通り過ぎかけていた目的地がそこにあった。
魚型の看板に、魚が描かれたホワイトボード。
美味しそうな匂いに鼻をひくつかせていれば、先輩は可笑しそうに口元を隠して笑う。
「す、すす、すみません!俺、ちゃんと周り見てなくて!!」
「ふふ、そんなに緊張しないでくれ。私には、友達として普通に接してくれると嬉しいんだ。」
さ、はやく入ろう?と俺の手を引いてくれる背中は、とても、眩しくて。
手を離せば、きっともう二度と届かなくなってしまうから。
ぎゅ、と繋いだ手に力を入れて、彼女の背を追いかけた。
「ひっ……い、いらっしゃいませ、何名様でしょうか。」
「2人です。あ、予約、してます。」
からん、からん、と音を立てて開いた扉。
にこやかな店員は一瞬俺を見てはびく、と肩を震わせて、まるで助け舟を求めるように先輩の方を見た。
彼女もそれに気づいたのか、困ったように笑いながらスマホを差し出し見せた。
嗚呼、さっきのはそういうことか、なんてほんの少し安堵しながら、2人の会話を見守る。
「はい、確認しました!あ、現在発情期のお客様はいらっしゃいますか?」
「あ……え、えぇっと…。」
「お、俺!…今、発情期、……っス」
我ながら、よく反応できたと思う。
俺がそういった目を向けられるのはべつにいい。
けど先輩に向けられるとなれば、話は別だ。
悔しいけれど、俺はまだ先輩の力には及ばないから、守り方なんてこんなかっこ悪いもので。
先輩が見向きもしないのは、当たり前のことで。
「か、かしこまりました、では、お席へ案内、致します……」
「…………すんません、先輩。余計な世話、だったっスか?」
前を歩く先輩に、小声で問いかけた。
先輩なら、上手く切り抜けられたかもしれない。
店員に耳打ちするなり、ジェスチャーで伝えるなり、今考えればもっと色んな方法が頭の中に浮かんできて、自己嫌悪に陥るのは簡単だった。
「此方のお席でお願いします!あ、注文が決まりましたらお呼びください!では!!」
案内された席。逃げるように去っていった店員の背を見送って、先輩が俺の方へと振り返る。
にこ、と優しく微笑む表情はとても、愛らしいけれど、どこか、違和感があって。
(…………ぁ)
「……はは、悪い。正直助かったよ。」
握ったまんまの手はほんの少し震えていた。
へにゃり、と緩む笑みはいつもの先輩とは違って…。
「とても、かっこよかったよディア。ありがとう。」
「……………………はい…。」
嗚呼、この人はまだ、俺を離してくれそうにないようだ。
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