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映画館デートとおさかなカフェ@
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「おさかなカフェ?」
「嗚呼、最近ネコ科の獣人に人気のカフェらしい。」
ヒュンッ…
とすん。
「あー、知ってます。カップルに人気だそうですよ。飯も美味いし、店内も見栄えするそうで。」
「へぇ…やけに詳しいな。誘いたい女の子でもいるのか?」
ヒュンッ……
トスッ。
「いるわけないでしょ、俺みてぇな偏屈ヤローに話しかけるの先輩くらいなんですから。」
「そんなことはないだろ。ディアは真面目だし、優しいし、きっと口に出さないだけで好いてる子はいっぱいいるさ。」
ヒュンッ………
ドスッ。
「あ"。」
「…一矢外れ。私の勝ちだな。」
分かりやすくむくれる後輩。
今のは狡い、なんて言いがかりをつけるところは子供っぽくて可愛らしい。
「もっかい。もっかいやりましょ。次は負けねぇっス。」
「ふふ、今日はもう日が暮れるからまた明日、いくらでも相手するよ。」
赤く焼けた空を眺めれば、名残惜しそうにディアの耳が垂れた。
黒く艶やかな毛並みに、凛とした横顔。
月を彷彿とさせる黄金色の瞳。
ほんの少し猫背に丸まってはいるが、その体格はがっしりとしていて男らしい。
「それで、先輩は誰と行くんスか?ヤガフ先輩?」
「ううん、ヤガフはイヌ科だしあまり魚を好かないから。特に誘う人もいないし、一人で行こうかと思ってる。」
的を射抜いた矢を引き抜きながら、彼の質問に答える。
適当な相槌が返されるかと思っていたが、その場を支配したのはどこかぎこちない静寂。
耐えきれずにゆっくりと振り返れば、ディアはその表情を曇らせていて。
「…………一人でって、危なくないですか。護衛、とかは?」
「あ……あまりそういったものをつけるのは好きじゃないんだ。威厳にも傷がつくから…」
不安そうな瞳が私をじっと見るから、いたたまれなくって視線を逸らす。
弱肉強食のこの世界で、女性が一人で歩くのはあまりにも危険だ。
本来ならば番や、強い雄が傍にいて守り「これは自分の雌だ」、と知ら占めることが一般的ではあるが、私にはまだ番はいないし強い雄、というのもヤガフくらいしかいない。
だからといって、護衛をつけて歩こうものなら自ら弱者である、ひ弱な存在であると報せ歩いているのと何ら変わりないのだ。
「…………そう、っすか。」
「うん…。………さ、はやく寮に戻ろう。今日の夕食は何かな。」
まだ、腑に落ちない様子のディアを連れて、寮に続く廊下を歩く。
真っ赤な夕日が、窓から差し込める中、私たちの足音だけが寂しくこだまするばかりで。
何か話題を、と考えても世間に疎い私がそう、気の利いたことなんて言えるはずもなくて…。
気づけば、私の部屋の前だった。
「……送ってくれてありがとう。また、夕飯のときに、な。」
「…はい。」
合わない視線。
徐に逸らされた瞳がほんの少し寂しかったけど、私も自分の意志を曲げるつもりはなくって。
ほんの少しの罪悪感を背負いながら、扉のノブに手をかけた。
「っ、先輩。」
「?…なんだ?」
くん、と引かれた制服の端。
太腿に絡んだ黒い尻尾が、咄嗟の行動だったことを物語る。
再び彼を見上げれば今度はちゃんと、その視線がしっかりと絡み合う。
「あ、の…護衛、つけるの嫌なら!お、俺を連れてってください」
「…………。」
絞り出したような声。
控えめに服を掴んだままの手は小刻みに震えていて、ぺったりと頭にくっついた耳が緊張しているのだと主張する。
そっと手を伸ばし、頭を撫でてやれば、びくっと肩を震わせて、此方を伺う様が何とも母性をくすぐる。
「あ、え、っと。お、俺、確かに、まだ先輩よりも弱いかもしれねぇっスけど、でも、目つき悪いし、それなりに図体でけぇし、す、少しぐらい、男避けに…」
「いいよ。一緒に行こう。」
大きく頷いて、足に強く絡みついた尻尾へ、そっと私の尾を添える。
ふわふわの毛皮が擦れてくすぐったいけれど、同種ならば、これが一番相手をリラックスさせる方法だ。
「!……あ、ありがとうございます!…あ、え、っと、そ、それじゃ!!」
「あっ……ふふ、あぁ、またな。」
私の返事を聞くや否や、彼はぷい、とそっぽを向いて歩いてきた廊下を猛スピードで駆け抜ける。
またな、なんて声は彼が残した風にかき消されてしまって。
彼の赤らんだ頬に気づけはしなかった。
「嗚呼、最近ネコ科の獣人に人気のカフェらしい。」
ヒュンッ…
とすん。
「あー、知ってます。カップルに人気だそうですよ。飯も美味いし、店内も見栄えするそうで。」
「へぇ…やけに詳しいな。誘いたい女の子でもいるのか?」
ヒュンッ……
トスッ。
「いるわけないでしょ、俺みてぇな偏屈ヤローに話しかけるの先輩くらいなんですから。」
「そんなことはないだろ。ディアは真面目だし、優しいし、きっと口に出さないだけで好いてる子はいっぱいいるさ。」
ヒュンッ………
ドスッ。
「あ"。」
「…一矢外れ。私の勝ちだな。」
分かりやすくむくれる後輩。
今のは狡い、なんて言いがかりをつけるところは子供っぽくて可愛らしい。
「もっかい。もっかいやりましょ。次は負けねぇっス。」
「ふふ、今日はもう日が暮れるからまた明日、いくらでも相手するよ。」
赤く焼けた空を眺めれば、名残惜しそうにディアの耳が垂れた。
黒く艶やかな毛並みに、凛とした横顔。
月を彷彿とさせる黄金色の瞳。
ほんの少し猫背に丸まってはいるが、その体格はがっしりとしていて男らしい。
「それで、先輩は誰と行くんスか?ヤガフ先輩?」
「ううん、ヤガフはイヌ科だしあまり魚を好かないから。特に誘う人もいないし、一人で行こうかと思ってる。」
的を射抜いた矢を引き抜きながら、彼の質問に答える。
適当な相槌が返されるかと思っていたが、その場を支配したのはどこかぎこちない静寂。
耐えきれずにゆっくりと振り返れば、ディアはその表情を曇らせていて。
「…………一人でって、危なくないですか。護衛、とかは?」
「あ……あまりそういったものをつけるのは好きじゃないんだ。威厳にも傷がつくから…」
不安そうな瞳が私をじっと見るから、いたたまれなくって視線を逸らす。
弱肉強食のこの世界で、女性が一人で歩くのはあまりにも危険だ。
本来ならば番や、強い雄が傍にいて守り「これは自分の雌だ」、と知ら占めることが一般的ではあるが、私にはまだ番はいないし強い雄、というのもヤガフくらいしかいない。
だからといって、護衛をつけて歩こうものなら自ら弱者である、ひ弱な存在であると報せ歩いているのと何ら変わりないのだ。
「…………そう、っすか。」
「うん…。………さ、はやく寮に戻ろう。今日の夕食は何かな。」
まだ、腑に落ちない様子のディアを連れて、寮に続く廊下を歩く。
真っ赤な夕日が、窓から差し込める中、私たちの足音だけが寂しくこだまするばかりで。
何か話題を、と考えても世間に疎い私がそう、気の利いたことなんて言えるはずもなくて…。
気づけば、私の部屋の前だった。
「……送ってくれてありがとう。また、夕飯のときに、な。」
「…はい。」
合わない視線。
徐に逸らされた瞳がほんの少し寂しかったけど、私も自分の意志を曲げるつもりはなくって。
ほんの少しの罪悪感を背負いながら、扉のノブに手をかけた。
「っ、先輩。」
「?…なんだ?」
くん、と引かれた制服の端。
太腿に絡んだ黒い尻尾が、咄嗟の行動だったことを物語る。
再び彼を見上げれば今度はちゃんと、その視線がしっかりと絡み合う。
「あ、の…護衛、つけるの嫌なら!お、俺を連れてってください」
「…………。」
絞り出したような声。
控えめに服を掴んだままの手は小刻みに震えていて、ぺったりと頭にくっついた耳が緊張しているのだと主張する。
そっと手を伸ばし、頭を撫でてやれば、びくっと肩を震わせて、此方を伺う様が何とも母性をくすぐる。
「あ、え、っと。お、俺、確かに、まだ先輩よりも弱いかもしれねぇっスけど、でも、目つき悪いし、それなりに図体でけぇし、す、少しぐらい、男避けに…」
「いいよ。一緒に行こう。」
大きく頷いて、足に強く絡みついた尻尾へ、そっと私の尾を添える。
ふわふわの毛皮が擦れてくすぐったいけれど、同種ならば、これが一番相手をリラックスさせる方法だ。
「!……あ、ありがとうございます!…あ、え、っと、そ、それじゃ!!」
「あっ……ふふ、あぁ、またな。」
私の返事を聞くや否や、彼はぷい、とそっぽを向いて歩いてきた廊下を猛スピードで駆け抜ける。
またな、なんて声は彼が残した風にかき消されてしまって。
彼の赤らんだ頬に気づけはしなかった。
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