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第二章 まぁ、そう簡単にはいかないようで
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「……アイラ王子、以前、私と会ったことはございますか?」
「?…いや、今日が初めてだよ。俺がテラス席に行く前に、君は帰ってしまったからね」
頭の中で、ピースが揃った
感じた違和感はまだ消え去ってはいないが今はよしとしよう
……だが、あの時確かに王子は来た
とても不機嫌そうに、目を細めて、無愛想に
あの王子は、偽物だった、ということか
「あ、おいこら!」
「ん?……嗚呼、ランスじゃないか丁度よかった」
ぴょこん、と白い何かが跳ねた
目で追いきれず、ソレが着地した私の膝へと目を向ける
そこに居たのは先日クッキーをあげたいたちキツネだった
また、菓子を貰いに来たのだろうか、獣は私に擦り寄ってきゅー、とか細い鳴き声を上げる
膝に乗られていたのでは獣を追いかけてきたその人に挨拶が出来ない
「……座ったままで申し訳ありません、私は、ライム・フランと…………え?」
「……ふん、茶会ぶり、だな」
見覚えのある目付きとアイラ王子とは少し違う髪色
嗚呼、思い出した
彼は、ランス・ムランク第二王子
王位を継ぐ気はなかったが、狂気に満ちたライムに惹かれて彼女を手に入れるため、王となる
その後は独裁者として国を納め、発展した魔法でライムと共に永遠の命を手にした
……だが、彼がお茶会のイベントで出てくることはゲーム内ではありえない
少しずつ、物語が変わり始めているのだろうか
「…………また、食べていないのか」
「………………?」
ぼそ、と彼は呟いて私を睨んだ
嗚呼、またこれだ
彼はどういう訳か私を嫌っている
その理由はよく分かっていない
食べていない、とはどういうことだ?
『ランス様はね、見た目も味もサイッコーの料理を出してくれるの!』
『ほら、ここに描かれてるお菓子もランス様が作ったんだよ!』
「……ぁ」
鮮明に、友人の言葉が頭に響く
そして、理解した
彼が、私をよく思っていない理由
それは、可能性……いや、もっと揺るぎのない答え
「もしかして…ここにある菓子はランス王子が…?」
「!……ふ、ふん!べつに、兄さんに頼まれたから仕方なく作っただけだ!」
正解
一人では分かりもしなかった答え
思い出してみれば、私はお茶会も、今も出された菓子に手をつけてはいない
自分が作ったお菓子に手もつけずに帰るのは失礼にも程があるのだろう
だから、あんなにも私を睨んでいたのだろうか
今だって、ちらちらと私とお菓子へ目を向けている
「んむ………!!」
彼の目の前で、私は生チョコを1粒口へ運んだ
ふわりと軽い口溶け
甘過ぎず苦過ぎない、程よい味
これ、普通に美味しい
でもたしか……彼は最初のイベントでわざと不味い料理を出して嫌がらせをする
そこで、ライムは不味い、と直球で指摘し、彼の興味を引く
ここは……不味い、と言っておいた方がいいのだろうか
でも、慣れないことを考えたからだろうか
今は甘いものが食べたくて、手が、止まらない
ふわっふわのミルフィーユにマカロン
どれもこれも美味しくて、つい食べ過ぎてしまう
「……あ」
「…ふふ、好物、というのは本当だったんだな」
彼らの視線に気づいたのは殆ど食べ終えてからだった
膝の上で丸まっていたいたちキツネがチョコやクリームだらけの口元をぺろぺろと舐め回す
貴族の令嬢、といえどライムはまだ子供だ
自制心とか、我慢とかまだあまり出来なくてもおかしくない
私も、ライムはしっかり者だから、と我を忘れ夢中で食べてしまった
恥ずかしいにも程がある
「…………んで、どう…なんだよ」
「うん…美味しいですよ?甘過ぎず、苦過ぎず…家で食べる味に似ておりました」
素直な感想をありのままに伝えた
彼は少し驚いて、まだ食べる手を止めない私を少し呆れたように笑う
これだけ食べておいて、美味しくない、など言った方がそれこそおかしな事だろうから
だが、これを全て、彼一人で作ったのだろうか
腹に入ってしまえば大した量ではないように見えるが、作る側にとってはかなりの労働力になる
ちら、と彼へ目を向ければそこまで筋肉がついている訳でもない、どちらかといえば細い方だ
「よかったね、ランス。……言ったろ?きっと素直な子だって」
「ふんっ…べつに、何も食わずに帰ったから、それが気に食わなかっただけだ」
「………?」
今、ふと思った
幸せそうな目の前の兄弟
冷酷で残酷な様子はどこにも見当たらない
ランス王子に至っては生き物を愛でる一面さえ持ち合わせている
「……アイラ王子、ランス王子、1つ質問をしてもよろしいでしょうか」
「嗚呼、いいよ。なんだい?」
「?…いや、今日が初めてだよ。俺がテラス席に行く前に、君は帰ってしまったからね」
頭の中で、ピースが揃った
感じた違和感はまだ消え去ってはいないが今はよしとしよう
……だが、あの時確かに王子は来た
とても不機嫌そうに、目を細めて、無愛想に
あの王子は、偽物だった、ということか
「あ、おいこら!」
「ん?……嗚呼、ランスじゃないか丁度よかった」
ぴょこん、と白い何かが跳ねた
目で追いきれず、ソレが着地した私の膝へと目を向ける
そこに居たのは先日クッキーをあげたいたちキツネだった
また、菓子を貰いに来たのだろうか、獣は私に擦り寄ってきゅー、とか細い鳴き声を上げる
膝に乗られていたのでは獣を追いかけてきたその人に挨拶が出来ない
「……座ったままで申し訳ありません、私は、ライム・フランと…………え?」
「……ふん、茶会ぶり、だな」
見覚えのある目付きとアイラ王子とは少し違う髪色
嗚呼、思い出した
彼は、ランス・ムランク第二王子
王位を継ぐ気はなかったが、狂気に満ちたライムに惹かれて彼女を手に入れるため、王となる
その後は独裁者として国を納め、発展した魔法でライムと共に永遠の命を手にした
……だが、彼がお茶会のイベントで出てくることはゲーム内ではありえない
少しずつ、物語が変わり始めているのだろうか
「…………また、食べていないのか」
「………………?」
ぼそ、と彼は呟いて私を睨んだ
嗚呼、またこれだ
彼はどういう訳か私を嫌っている
その理由はよく分かっていない
食べていない、とはどういうことだ?
『ランス様はね、見た目も味もサイッコーの料理を出してくれるの!』
『ほら、ここに描かれてるお菓子もランス様が作ったんだよ!』
「……ぁ」
鮮明に、友人の言葉が頭に響く
そして、理解した
彼が、私をよく思っていない理由
それは、可能性……いや、もっと揺るぎのない答え
「もしかして…ここにある菓子はランス王子が…?」
「!……ふ、ふん!べつに、兄さんに頼まれたから仕方なく作っただけだ!」
正解
一人では分かりもしなかった答え
思い出してみれば、私はお茶会も、今も出された菓子に手をつけてはいない
自分が作ったお菓子に手もつけずに帰るのは失礼にも程があるのだろう
だから、あんなにも私を睨んでいたのだろうか
今だって、ちらちらと私とお菓子へ目を向けている
「んむ………!!」
彼の目の前で、私は生チョコを1粒口へ運んだ
ふわりと軽い口溶け
甘過ぎず苦過ぎない、程よい味
これ、普通に美味しい
でもたしか……彼は最初のイベントでわざと不味い料理を出して嫌がらせをする
そこで、ライムは不味い、と直球で指摘し、彼の興味を引く
ここは……不味い、と言っておいた方がいいのだろうか
でも、慣れないことを考えたからだろうか
今は甘いものが食べたくて、手が、止まらない
ふわっふわのミルフィーユにマカロン
どれもこれも美味しくて、つい食べ過ぎてしまう
「……あ」
「…ふふ、好物、というのは本当だったんだな」
彼らの視線に気づいたのは殆ど食べ終えてからだった
膝の上で丸まっていたいたちキツネがチョコやクリームだらけの口元をぺろぺろと舐め回す
貴族の令嬢、といえどライムはまだ子供だ
自制心とか、我慢とかまだあまり出来なくてもおかしくない
私も、ライムはしっかり者だから、と我を忘れ夢中で食べてしまった
恥ずかしいにも程がある
「…………んで、どう…なんだよ」
「うん…美味しいですよ?甘過ぎず、苦過ぎず…家で食べる味に似ておりました」
素直な感想をありのままに伝えた
彼は少し驚いて、まだ食べる手を止めない私を少し呆れたように笑う
これだけ食べておいて、美味しくない、など言った方がそれこそおかしな事だろうから
だが、これを全て、彼一人で作ったのだろうか
腹に入ってしまえば大した量ではないように見えるが、作る側にとってはかなりの労働力になる
ちら、と彼へ目を向ければそこまで筋肉がついている訳でもない、どちらかといえば細い方だ
「よかったね、ランス。……言ったろ?きっと素直な子だって」
「ふんっ…べつに、何も食わずに帰ったから、それが気に食わなかっただけだ」
「………?」
今、ふと思った
幸せそうな目の前の兄弟
冷酷で残酷な様子はどこにも見当たらない
ランス王子に至っては生き物を愛でる一面さえ持ち合わせている
「……アイラ王子、ランス王子、1つ質問をしてもよろしいでしょうか」
「嗚呼、いいよ。なんだい?」
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