【完結】カエルレア探偵事務所《中》 〜アクビスの里〜

千鶴

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発覚

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 その日の夜。遥は探偵事務所の上に併設された翔太の事務所に居た。
 
「儀式?」
「はい。今はもうかなめではない他の誰かの身体に転生済みだと思うんですけど、マウトはさらにまた転生しようとしているんだと思います。転生には儀式が必要で、アクビスの里はその為に都合が良かった」
「転生って、そんなに頻繁にしなければならないの?」
 
 遥が訊けば、翔太は持ってきたカップをテーブルに置いて遥の対面に座った。
 
「身体がもたないんです。俺と違って、マウトが人間の身体を手に入れるには骨だけでなく、出来るだけ身体そのものを残す必要がある。雲島の地下にあったミイラはその為です。そしてその身体は、長くは持たない」
 
 翔太は指を立てて説明する。 
 
「転生に必要な条件は二つで、一つは生贄が要ります。いったいどれほどの人数が必要になるかは……すみません、俺が試したわけではないので分からないんですけど、たぶん十人前後。そしてもう一つは、石です」
 
 遥は思い出したように頷く。
 
壁張蔵かべはりぐらで翔太がかなめ渡した、あの丸い碧色の石ね」
「そうです。あの石は、カエルレアの花の恩恵を受けた子供が八歳で死んでしまった時に生成される石なんです。カエルレアの花は、妹神のシエルが扱える花でした。でもシエルは寿命が尽きてからは俺が生み出していないので、もう居ない。花の恩恵を受けている子供は、三年前の雲島の時点で洋平ようへいさん、博史ひろしさん、そして奈々ななちゃんだけだった。洋平さんと博史さんは八歳を超えてしまっていますから、もう死んでも石は生成されない。本当ならマウトは、生まれた時点で赤ん坊を側に置きたかったはずですが、正和さんに邪魔をされたんだろうなって。それとあいつにとって誤算だったのは、俺対策に島に結界を張ったこと。お陰で自身も島から出られなくなり、島の外の奈々ちゃんには手が出せなくなった。だから聡子さんを唆して、八歳になる前に奈々ちゃんを殺そうとしたんだと思います」
 
 そこで、遥はあることに気づく。
 
「ねえ。栄介えいすけくんは? 栄介くんが八歳でなくなった時には、石が生成されたんじゃない?」
「されたと思います。たぶんあいつはそれを使って、前の身体から政尚さんに転生する準備をしていた。でも転生先の政尚さんの身体は、さとるさんによって燃やされてしまいました。焦ったあいつは、きっと中途半端な儀式でかなめさんの身体に転生したはず。だから壁張蔵で渡した石を使って、今はもう次の身体に転生を終えてると思うんです。でも」
「なんらかのトラブルに見舞われて、また儀式を行おうとしている」
 
 しばらくの沈黙の後、口を開いたのは遥だった。
 
「ねえ、翔太たちって元はどんな容姿なの? 人間とは遠いの?」 
「見ます? すぐに戻れますけど」 
「……いや。本人に戻る前に、一度今成り得る女性とかになってみてよ。ほら、クラブのママとか、占い師とか」 
「いいですけど、服装がこれじゃあなあ。ま、いっか。いきますよ」
  
 翔太はそう言うとその場に立つ。時計が秒針を刻むたびに、少しずつ翔太の周りの時空は歪んだ。

 身体が何重にも重なっているような錯覚に陥ったかと思えば、徐々にまた一つの個体に戻っていく。
 そうして数秒後。遥の目の前に現れたのは、スラリとした三十代半ばの美人だった。
 
「どう?」
「うわ、声も変わるんだ。もう一人もやってやって」
「先輩、楽しんでますね?」
「いいから早く」
「はいはい」
 
 再び同じ現象が起こると、今度は四十代前半の小柄な女性になった。
 

 ドサッ
 
 
 玄関の方から、何やらビニールに包まれた重たいものが落ちた音。
 遥と翔太は素早くそちらに顔を向ける。
 
「あ、か、鍵が開いていたから、つい」 
 
 涼子は持っていたスーパーの袋を床に落とし、まん丸な目で二人を見ていた。
 
「今の、なに? あなた……誰?」
 
 突然訪れた状況だったが、焦る翔太とは対照的に遥は冷静だった。
 
「あ、これ翔太です」 
「え……」 
「翔太は人間ではなくてですね、寿命もなくて。人生を全うして死を望む、神様なんです」 
「ちょ、ちょっと先輩! 飛びすぎ!」
 
 無駄にじたばた動く翔太を横目に、遥は言う。
 
「だって涼子さん、薄々気づいてたでしょ。あのワイン飲んで寝ちゃった日、途中から起きてたし」
「……気付いてたの」 
「え? あれ、起きてたんですか!?」
 
 目の前で驚く初めて見る女性に、涼子は一歩引いた。 
 
「ま、まあね。でも、なんだか理解できない話だったし、うまく飲み込む自信もなかったから、つい寝たふりしちゃって。今日もね、実は図書館に行っていたの。古代エジプトってやつを調べてみようかなって。ていうか、その姿なんか嫌なんだけど。元に戻ってくれない?」
「あ、すみません」
 
 翔太は謝ると、すぐに翔太自身の姿に戻った。
 
「なるほど。あの雲島事件の首謀者は、神野要じんのかなめだったのね。白井くんと要は人智を超える神様で、対立関係にある。その要が、今回のアクビスの里にも関わっていると知って、今度の依頼を受けることにしたってわけね」 
「の、飲み込み早いっすね」 
 
 食材を冷蔵庫に詰めながら翔太が言えば、涼子はグラスに入ったワインを一気に飲み干す。
 
「目で見たことは信じる主義なの」
「まあ、いずれ分かることだと思ってましたから。タイミングはあれでしたけど、良かったんじゃないですかね。それに、さっき説明した理屈で翔太はアクビスには入れないので、潜入は涼子さんと私で行くことになるんですし」
「ああ、結界ってやつ……あ。そういえば」
 
 涼子は神妙な面持ちで考え込む。
 
「たか絵さんが舞ちゃんを出産して少し経った頃、仕事でたか絵さんの家の近くまで行ったから訪ねてみたことがあったのよ。その時、ちょうどたか絵さんの家から人が出てきて……それ、今思えば神野要だったわ」
 
「え!!」
 
 遥と翔太の声が重なる。
 
「たぶん要はあたしの存在に気付いていたけれど、避けるようにして去って行ったわ。その時は家族があんな形で捕まったから気まずいんだなぁ、って思っていたけど」
「涼子さん、その時指輪つけてました?」
「うーん。付けていなかったと思うわ」 
「じゃあ、俺があげたパワーストーンのブレスレットは?」
「ああ、それなら付けてたわよ。今もつけてるし。なんだかこれしていないとしっくりこなくて」 
「たぶんそれのせいだと思います。俺、二人が雲島に行くのに心配で、先輩にはお守りを、涼子さんにはそのブレスレットを渡してて。それぞれに、マウトが嫌う波動を出す呪力をかけていたんで」   
「へえ。そうなの」 
 
 涼子はブレスレットをまじまじ眺める。
 
「今は、それより強い呪力を二人の指輪に込めています。だからアクビスに行くときは必ずはめて行ってくださいね」
 
 洗い物をしながら翔太が言うと、二人はフェザーモチーフの指輪に視線を落とす。すると、遥が口を開いた。
 
「要は何の目的でたか絵さんに接触したんでしょうか。その日、涼子さんはたか絵さんの家を訪ねたんですか?」
「ええ。そんなに長くは居なかったけど」 
「その時なにか感じたこととか、覚えていることはありませんか?」 
 
 うーん、と涼子は考え込む。
 
「どうだったかなあ。あの時はあたしが近づくと、舞ちゃんがかなり泣いてしまって。たか絵さんがすごく申し訳なさそうにしていて……おむつ替えの時、舞ちゃんの腰のあたりに傷が見えたから、それが原因なのかなあなんて思ったりして」
 
 その瞬間、翔太は手を止め持っていたスポンジをシンクに落とした。
 
「それだ」    
「どういうこと?」
「涼子さんが見た傷、渦巻きみたいな感じじゃなかったですか?」  
「言われてみれば、そうだったかも」 
「それはマウトの聖痕。俺がマウトを生み出すときにイメージするマークなんです。あいつの目的は、たか絵さんではなく舞ちゃんだったんだ」
「それって……」

 不安気な涼子の嫌な予感は、当たってしまう。

「十中八九、舞ちゃんの身体はマウトのうつわになり得る」
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