14 / 41
狼煙
しおりを挟む
「彩美さんの想いは概ね理解しました。あなたが強盗のタレコミ文書を警察に送った理由も」
彩美は驚いた。九条の存在を横目に気にしながらも、恐る恐る口を開く。
「どうして、私が送ったと?」
「あなたが九条警部を知っていたからです。初めてあなたがここを訪れた日、九条警部は菊田晃さんの訪問時には名乗りましたが、あなたが来てからは名乗らなかったはず。なのに、あなたは翌日この事務所を訪れた際はっきりと九条警部の名前を口にしました。そしてその瞬間私は違和感を覚えた。あなたが九条警部を知っている上、警察の彼があの場にいたことに一つも疑問を感じていなかったからです。あなたは涼子さんの事務所に警察が来ることを、初めから分かっていたのではないかと」
遥の言葉に九条は驚き、彩美は諦めたように視線を落とす。
「探偵って、すごいですね。ちなみに理由って?」
「九条警部を誘き寄せるため」
彩美は小さく笑った。
「その通りです。私は九条警部とお話しがしたかった。事件のことを警察に相談してもアクビスの名前を出せばすぐに追い返され、九条警部と話したいとお願いしても忙しいからと取り次いでももらえない。ならば、九条警部が出向いた先で話を聞いてもらえる状況を作るしかない。そう、思いました」
「君が俺を訪ねて警察に来ていたなんて今の今まで知らなかった。でも、なんで俺に?」
九条の問いに、彩美は恥ずかしさを隠すように瞬きを繰り返す。
「事件当時……まだその時はただのお巡りさんだったけど、九条さんだけは子供の私の言うことを親身になって聞いてくれた。ごめんな、って何度も謝って。もう十年以上も前の話で、その時とは苗字も髪型も変わった私に、あなたは気がつかなかったけれど……あの状況でアクビスの名前を出せば、九条警部なら必ず気に留めてくれると思ったんです。本当は初めて訪ねたその日に、九条警部の前で全てを話したかった。けれどタイミングを見計らっているうちに先に男性が入っちゃって。こっそり聞き耳を立てたら、偶然にもその方もアクビスについて相談に来ていると分かって、私もチャイムを押すことにしました」
遥は顎に手を当てながら考える。
「拳銃はどこで?」
「拳銃?」
遥の問いに、彩美は疑問の表情を浮かべる。
「あの日、強盗に入った橘達也が所持していた拳銃は本物でした。しかもメールの相手は、涼子さんが抵抗した場合拳銃の引き金を引くようにと橘達也に指示しています。それもあなたが?」
彩美は両手を前に突き出して慌てて首を振った。
「ちょ、ちょっと待ってください! 本当に強盗が入ったんですか!?」
「ええ。橘達也に強盗に入るよう依頼したのもあなたではないのですか」
「違います! 私は強盗が入るというタレコミ文書を警察署に送っただけです。文書に蓮の花を描けば、九条さんなら反応してこの場に来てくれる、そう思って。本当に強盗が入ったなんて、そんな」
「なぜ蓮の花を文書に?」
「それは浦和連続強盗殺人事件の犯人が蓮の花を現場に残していたからで——」
彩美の言葉に、遥は小さく首を横に振った。
「ありえない。その情報はニュースには流れていない、未発表のものです。あなたどこでその情報を聞いたのですか?」
「え……」
彩美は記憶を手繰るように視線を動かした。
「確か、警察官の方に聞いたんです。もう何度目だったかな。私は九条さんを訪ねて警察署に行って、でもやっぱり取り次いではもらえなくて。その時、警察官の方に『九条警部は今、蓮の花を現場に残す連続殺人犯の捜査で忙しい』って言われたんです。ニュースでも浦和で連続殺人事件が起きているってやっていたし、それのことだと」
「はあ? 誰だよその警察官。捜査情報漏らしやがって」
九条は怪訝な顔をする。
「その人、追い返された私を警察署の外までわざわざ追いかけて来てくれたんですよね。いつもすみません、って。それに、なんか変わった香水つけてるなって思いました。薄荷、みたいな」
遥と涼子は勢いよく互いの顔を見合わせた。
「なんだ。心当たりでもあるのか?」
九条が訊くと、遥は一瞬考えて口を開く。
「彩美さんに情報を与えたのは、私が探偵を始めるきっかけになった人物だと予想されます。その人物が関わっている以上、連続強盗殺人事件の犯人がアクビスと何かしらの繋がりがあるのは間違いありません」
「どういう意味だ。詳しく話せ」
九条は遥を問い質す。
「順を追わせてください。彩美さんはタレコミ文書を警察に送った。でも、橘達也に強盗の依頼はしていない」
彩美は頷く。
「橘達也へ強盗の依頼をした人物は、あわよくば拳銃で涼子さんを殺害することを示唆していた。そしてそれは、おそらく彩美さんに接触した警察官と同じ人物。あるいは、その警察官と繋がりのある者です」
「何が言いたい」
九条は答えを急かすように前のめりになった。
「今から私の推理と、これから私たちがすべきことをお話しします」
彩美は驚いた。九条の存在を横目に気にしながらも、恐る恐る口を開く。
「どうして、私が送ったと?」
「あなたが九条警部を知っていたからです。初めてあなたがここを訪れた日、九条警部は菊田晃さんの訪問時には名乗りましたが、あなたが来てからは名乗らなかったはず。なのに、あなたは翌日この事務所を訪れた際はっきりと九条警部の名前を口にしました。そしてその瞬間私は違和感を覚えた。あなたが九条警部を知っている上、警察の彼があの場にいたことに一つも疑問を感じていなかったからです。あなたは涼子さんの事務所に警察が来ることを、初めから分かっていたのではないかと」
遥の言葉に九条は驚き、彩美は諦めたように視線を落とす。
「探偵って、すごいですね。ちなみに理由って?」
「九条警部を誘き寄せるため」
彩美は小さく笑った。
「その通りです。私は九条警部とお話しがしたかった。事件のことを警察に相談してもアクビスの名前を出せばすぐに追い返され、九条警部と話したいとお願いしても忙しいからと取り次いでももらえない。ならば、九条警部が出向いた先で話を聞いてもらえる状況を作るしかない。そう、思いました」
「君が俺を訪ねて警察に来ていたなんて今の今まで知らなかった。でも、なんで俺に?」
九条の問いに、彩美は恥ずかしさを隠すように瞬きを繰り返す。
「事件当時……まだその時はただのお巡りさんだったけど、九条さんだけは子供の私の言うことを親身になって聞いてくれた。ごめんな、って何度も謝って。もう十年以上も前の話で、その時とは苗字も髪型も変わった私に、あなたは気がつかなかったけれど……あの状況でアクビスの名前を出せば、九条警部なら必ず気に留めてくれると思ったんです。本当は初めて訪ねたその日に、九条警部の前で全てを話したかった。けれどタイミングを見計らっているうちに先に男性が入っちゃって。こっそり聞き耳を立てたら、偶然にもその方もアクビスについて相談に来ていると分かって、私もチャイムを押すことにしました」
遥は顎に手を当てながら考える。
「拳銃はどこで?」
「拳銃?」
遥の問いに、彩美は疑問の表情を浮かべる。
「あの日、強盗に入った橘達也が所持していた拳銃は本物でした。しかもメールの相手は、涼子さんが抵抗した場合拳銃の引き金を引くようにと橘達也に指示しています。それもあなたが?」
彩美は両手を前に突き出して慌てて首を振った。
「ちょ、ちょっと待ってください! 本当に強盗が入ったんですか!?」
「ええ。橘達也に強盗に入るよう依頼したのもあなたではないのですか」
「違います! 私は強盗が入るというタレコミ文書を警察署に送っただけです。文書に蓮の花を描けば、九条さんなら反応してこの場に来てくれる、そう思って。本当に強盗が入ったなんて、そんな」
「なぜ蓮の花を文書に?」
「それは浦和連続強盗殺人事件の犯人が蓮の花を現場に残していたからで——」
彩美の言葉に、遥は小さく首を横に振った。
「ありえない。その情報はニュースには流れていない、未発表のものです。あなたどこでその情報を聞いたのですか?」
「え……」
彩美は記憶を手繰るように視線を動かした。
「確か、警察官の方に聞いたんです。もう何度目だったかな。私は九条さんを訪ねて警察署に行って、でもやっぱり取り次いではもらえなくて。その時、警察官の方に『九条警部は今、蓮の花を現場に残す連続殺人犯の捜査で忙しい』って言われたんです。ニュースでも浦和で連続殺人事件が起きているってやっていたし、それのことだと」
「はあ? 誰だよその警察官。捜査情報漏らしやがって」
九条は怪訝な顔をする。
「その人、追い返された私を警察署の外までわざわざ追いかけて来てくれたんですよね。いつもすみません、って。それに、なんか変わった香水つけてるなって思いました。薄荷、みたいな」
遥と涼子は勢いよく互いの顔を見合わせた。
「なんだ。心当たりでもあるのか?」
九条が訊くと、遥は一瞬考えて口を開く。
「彩美さんに情報を与えたのは、私が探偵を始めるきっかけになった人物だと予想されます。その人物が関わっている以上、連続強盗殺人事件の犯人がアクビスと何かしらの繋がりがあるのは間違いありません」
「どういう意味だ。詳しく話せ」
九条は遥を問い質す。
「順を追わせてください。彩美さんはタレコミ文書を警察に送った。でも、橘達也に強盗の依頼はしていない」
彩美は頷く。
「橘達也へ強盗の依頼をした人物は、あわよくば拳銃で涼子さんを殺害することを示唆していた。そしてそれは、おそらく彩美さんに接触した警察官と同じ人物。あるいは、その警察官と繋がりのある者です」
「何が言いたい」
九条は答えを急かすように前のめりになった。
「今から私の推理と、これから私たちがすべきことをお話しします」
0
あなたにおすすめの小説
王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~
しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。
それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること!
8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。
どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ!
「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」
かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。
しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。
「今度こそ、私が世界を救って見せる!」
失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!
剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。
イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。
小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
精霊姫の追放
あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。
「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる