【完結】カエルレア探偵事務所《中》 〜アクビスの里〜

千鶴

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狼煙

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「彩美さんの想いはおおむね理解しました。あなたが強盗のタレコミ文書を警察に送った理由も」
 
 彩美は驚いた。九条の存在を横目に気にしながらも、恐る恐る口を開く。
 
「どうして、私が送ったと?」
「あなたが九条警部を知っていたからです。初めてあなたがここを訪れた日、九条警部は菊田晃きくたあきらさんの訪問時には名乗りましたが、あなたが来てからは名乗らなかったはず。なのに、あなたは翌日この事務所を訪れた際はっきりと九条警部の名前を口にしました。そしてその瞬間私は違和感を覚えた。あなたが九条警部を知っている上、警察の彼があの場にいたことに一つも疑問を感じていなかったからです。あなたは涼子さんの事務所に警察が来ることを、初めから分かっていたのではないかと」
 
 遥の言葉に九条は驚き、彩美は諦めたように視線を落とす。
 
「探偵って、すごいですね。ちなみに理由って?」
「九条警部をおびき寄せるため」
 
 彩美は小さく笑った。
 
「その通りです。私は九条警部とお話しがしたかった。事件のことを警察に相談してもアクビスの名前を出せばすぐに追い返され、九条警部と話したいとお願いしても忙しいからと取り次いでももらえない。ならば、九条警部が出向いた先で話を聞いてもらえる状況を作るしかない。そう、思いました」
「君が俺を訪ねて警察に来ていたなんて今の今まで知らなかった。でも、なんで俺に?」
 
 九条の問いに、彩美は恥ずかしさを隠すようにまばたきを繰り返す。
 
「事件当時……まだその時はただのお巡りさんだったけど、九条さんだけは子供の私の言うことを親身になって聞いてくれた。ごめんな、って何度も謝って。もう十年以上も前の話で、その時とは苗字も髪型も変わった私に、あなたは気がつかなかったけれど……あの状況でアクビスの名前を出せば、九条警部なら必ず気に留めてくれると思ったんです。本当は初めて訪ねたその日に、九条警部の前で全てを話したかった。けれどタイミングを見計らっているうちに先に男性が入っちゃって。こっそり聞き耳を立てたら、偶然にもその方もアクビスについて相談に来ていると分かって、私もチャイムを押すことにしました」
 
 遥は顎に手を当てながら考える。
 
「拳銃はどこで?」
「拳銃?」
 
 遥の問いに、彩美は疑問の表情を浮かべる。
 
「あの日、強盗に入った橘達也たちばなたつやが所持していた拳銃は本物でした。しかもメールの相手は、涼子さんが抵抗した場合拳銃の引き金を引くようにと橘達也に指示しています。それもあなたが?」
 
 彩美は両手を前に突き出して慌てて首を振った。
 
「ちょ、ちょっと待ってください! 本当に強盗が入ったんですか!?」
「ええ。橘達也に強盗に入るよう依頼したのもあなたではないのですか」
「違います! 私は強盗が入るというタレコミ文書を警察署に送っただけです。文書に蓮の花を描けば、九条さんなら反応してこの場に来てくれる、そう思って。本当に強盗が入ったなんて、そんな」
「なぜ蓮の花を文書に?」
「それは浦和連続強盗殺人事件の犯人が蓮の花を現場に残していたからで——」
 
 彩美の言葉に、遥は小さく首を横に振った。
 
「ありえない。その情報はニュースには流れていない、未発表のものです。あなたどこでその情報を聞いたのですか?」
「え……」
 
 彩美は記憶を手繰るように視線を動かした。
 
「確か、警察官の方に聞いたんです。もう何度目だったかな。私は九条さんを訪ねて警察署に行って、でもやっぱり取り次いではもらえなくて。その時、警察官の方に『九条警部は今、蓮の花を現場に残す連続殺人犯の捜査で忙しい』って言われたんです。ニュースでも浦和で連続殺人事件が起きているってやっていたし、それのことだと」
「はあ? 誰だよその警察官。捜査情報漏らしやがって」
 
 九条は怪訝な顔をする。
 
「その人、追い返された私を警察署の外までわざわざ追いかけて来てくれたんですよね。いつもすみません、って。それに、なんか変わった香水つけてるなって思いました。薄荷、みたいな」
 
 遥と涼子は勢いよく互いの顔を見合わせた。
 
「なんだ。心当たりでもあるのか?」
 
 九条が訊くと、遥は一瞬考えて口を開く。
 
「彩美さんに情報を与えたのは、私が探偵を始めるきっかけになった人物だと予想されます。その人物が関わっている以上、連続強盗殺人事件の犯人がアクビスと何かしらの繋がりがあるのは間違いありません」 
「どういう意味だ。詳しく話せ」
 
 九条は遥を問いただす。
 
「順を追わせてください。彩美さんはタレコミ文書を警察に送った。でも、橘達也に強盗の依頼はしていない」
 
 彩美は頷く。
 
「橘達也へ強盗の依頼をした人物は、あわよくば拳銃で涼子さんを殺害することを示唆していた。そしてそれは、おそらく彩美さんに接触した警察官と同じ人物。あるいは、その警察官と繋がりのある者です」
「何が言いたい」
 
 九条は答えを急かすように前のめりになった。

「今から私の推理と、これから私たちがすべきことをお話しします」
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