【完結】カエルレア探偵事務所《中》 〜アクビスの里〜

千鶴

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「ニュースでやっている連続強盗殺人事件。その犯人はおそらく、南雲美帆なぐもみほでしょう」
 
 九条は思わず立ち上がった。
 
「ばかな。何故そうなる」
「仲間に調べてもらったんです。南雲美帆は危険な思想の持ち主で、常識では計れない。さっきまで宝石のように愛でていたものが、一瞬でゴミに変貌するサイコパスです。洸太さんの件に関しても、彩美さんの見立てはおそらく合っている。そして彩美さんが数ある中からうちの探偵事務所を選んだのも、偶然じゃない。連続強盗殺人事件の情報を漏らした警察官。全ては彼の思惑通り、私たちは誘導されていたんです」
「誰なんだそいつ」
 
 遥は一瞬、間を置く。
 
「その前に九条さん。あなたは今後警察と私たち、どちらのプラスになるように動いてくれますか?」
「……あ? なんだよそれ」
「自分の立場を考えるなら今すぐにお帰りください。このまま私たちが突き進めば、前田警視監が今の地位から転落するだけではなく、警察組織全体も責任を追及されることになります」
 
 九条は遥を見て小さく笑った。
 
「仮に俺が君たちに協力すると答えたとして、それを信用できるのか? ここで帰っても、今の時点までの君の話を俺が上にあげる可能性だってある。いや、俺が警察官として動くなら間違いなくそうする。君はなぜ俺をこの場に呼んだんだ」
「あなたがこちらに協力してくれれば、こちらの計画の成功率が上がるから」
「俺は警察官だ。市民が危険に晒されることに手は貸せない」
「ええ。あなたは正義感の強い警察官です。悪事には目を瞑れない。だからこのままお引き取りいただいて構いませんよ」
 
 沈黙。

 遥の言葉に涼子があたふたしていると、九条は突然吹き出すように笑い声を上げた。
 
「……あんた、大したもんだな。わかったよ協力しよう。ただし! 計画の内容に納得がいかなかった場合は意見するぞ。泥舟に乗るつもりはない」
 
 遥は頷く。
 
「白状します。私たちの計画は、菊田晃さんや春野彩美さんが探偵事務所を訪れる、そのずっと前から既に始まっていました」 
 
 遥は立ち上がり自分のデスクへ向かうと、引き出しの鍵を開ける。
 
「え、それって」
 
 涼子は不思議そうに声を上げた。なぜなら遥が引き出しから取り出したその封筒の表には、例のアクビスの里のマークが大きく記されていたからだ。

「今から一ヶ月程前。探偵事務所に訪れた、から全ては始まりました。彼女はまさるさんという知り合いからアクビスの里の勧誘を受け、入信するかを迷っていた。そこで、なにかアクビスに怪しいところがないかを調べて欲しい……最初はそんな内容でした。ですが調べを進めるうちに、アクビスは強引な勧誘や脅迫に近い行動で信者を集めていることがわかり、私はそれを彼女に報告した。すると彼女は、すでに入信しているまさるさんを脱退させるために、アクビスに潜入すると言い出したんです。私はその時点で、アクビスが警視監の前田恭介まえだきょうすけの息のかかった組織だということにも調べがついていた。深入りすれば危険だと言うことも。何度も止めました。でも彼女の意思は固く、聞く耳を持ってはくれなかった。だから私は潜入に手を貸す代わりに、ある条件を付けたんです。潜入は彼女の娘と一緒に行くこと、さらに必ず親子部門へと入信することを」
 
「遥まさか、その最初の依頼者って」
「菊田たか絵さんです」
 
 涼子は立ち上がって声をあげた。
 
「そんなことあたしは聞いてない! どうして黙っていたの? そんな危険な場所にたか絵さんと、ましてや幼い舞ちゃんまで一緒に行かせるなんて! 遥、見損なったわ!」
「そうなると思ったから言わなかったんです。私は止めた。でも彼女は聞かなかった! たか絵さんも涼子さんには内緒にして欲しいって」
「だからって!」
 
 泣きそうな涼子。遥は話を続ける。
 
「……アクビスの里は、四つの部門で構成されています」
 
 人を集める 勧誘部門
 畑や住居を管理する 生活部門
 母と八歳以下の子供が入る 親子部門
 幹部部門
 
「勧誘部門と生活部門はその名の通り、人を集めてアクビスの里で生活を送る基盤の部門です。入信する大半の人はそのどちらかに割り振られる。特殊なのは親子部門です。ここには母と子、それも八歳以下の子供という限定的な条件を満たさなければ入れない。そして危険なのはここからです。みなさん、落ち着いて聞いてください。アクビスは信者を『お達し』と言う名のもと、もう何人も手にかけています。アクビスは……宗教の名を語った殺人組織なんです」
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