【完結】カエルレア探偵事務所《中》 〜アクビスの里〜

千鶴

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予想外

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「遥、ずいぶん上手くやったわね。たか絵さんと舞ちゃんを里から出すなんて」
「必死ですよ。上手くいったのは運が良かったんです。私が突っついた靴の話に美帆が食いついてくれて良かった。あの動揺が無ければ、きっとあんな風にはいかなかったと思います」
 
 遥と涼子は、手を縛られた状態で並んで床に座る。

 美帆はあの後、何かを思いつくと部屋を出ていった。二人はしばらく手の拘束を解こうとしたり、助かるための手段がないかを探したが、部屋には鍵が掛けられていて窓もない。手の拘束も頑丈で八方塞がりだった。
 
「何をするつもりか知らないけれど、エレベーターの稼働音が聞こえたからしばらくは帰ってこないかしら。これからどうなるのかな、あたしたち」
「まあ、間違いなく殺されると思います」
「そうよね」
「大体、なんで通信機外しちゃったんですか。四六時中つけておく約束だったでしょう」
「だって眠れないじゃない。あんなの付けてちゃ」
「これだからお嬢様は」
「今それ関係ある?」
 
 どうでもいいやりとりが続く。頭を動かすほどの体力もなく、二人はぼーっと前を見つめながら話をしていた。
 
「……遥さん! 涼子さん!」
 
 突然だった。名前を呼ぶ小さな声に、二人は辺りを見回す。するとクローゼットがゆっくり開き、中から出てきたのはなんと彩美だった。
 
「彩美さん! こんなところで何を……どうやってここまで来たの?」
 
 涼子の驚く声とは裏腹に、彩美は冷静に答える。
 
「ごめんなさい。潜入は中止だって聞いたのに我慢できなくて……昨日、アクビスの門を叩きました。私は勧誘部門に配属されてしばらく過ごした後、昨日の夜中に部屋を抜け出して、この部屋まで来た。ずっと美帆を葬る機会を伺っていたんです」
 
 彩美の手には、どこからか手に入れたであろう包丁が握られていた。
 
「美帆は昨日からこの部屋には戻ってこなかったけれど、今朝クローゼットで目を覚ましたら涼子さんが捕らえられて居るのが見えて……でも良かった。今手のロープを切ります。ここから逃げましょう」
「待ってください」
 
 遥は彩美の行動を止めた。
 
「今この手のロープを切ってもらっても、逃げ道がありません。この部屋から出られないどころか、里にも出口はないんです」
「え……でもこの前、出口はあるって」
「すみません、嘘をつきました。私たちには現状ここを出る術はないんです。通信機もなくなり、外部と連絡も取れません。彩美さんはすぐにまたクローゼットに隠れて。ことが済むまで、絶対に出て来てはいけません」
 
 先程の会話で『ことが済むまで』の意味を理解していた彩美は、首を振った。
 
「そんなこと出来ない。洸太くんを失って、その上あなた達まで……」
 
 彩美の出現で、遥は停止寸前だった思考を再度巡らせた。
 
「もし。仮にもし、美帆が私たちをこの部屋から出すタイミングがあったのなら。彩美さんは私たちがどこに連れて行かれるのかを確認して、外部に伝える方法を探してください。里を一歩でも出ることができれば、助かる可能性が生まれます」
 
 遥は真剣な目で彩美を見る。
 
「でも、その可能性は限りなく低い。この部屋に戻って来た美帆に、この場で殺されてしまう結末の方が容易に想像できます。その時は、クローゼットの中でひたすら耳を塞いでいてください。お願いです、必ずその約束だけは守ってください」
「……なんで、私のことなんか」
 
 涙目になる彩美に、遥は言う。
 
「あなたは私の依頼人だから。最後の最後まで生きることを諦めてはいけません。それに、あなたが現れたことで何故だか助かる気がして来たんです。私も最後まで諦めません」
 
 その時。かすかにエレベーターが稼働する音が聞こえた。
 
「彩美さん、すぐにクローゼットに戻って!」
 
 遥の言葉に彩美は頷く。
 少しして、扉から解錠音が聞こえた。
 
「お待たせ。準備が整ったわ。これから場所を変えて、あなた達にはこのアクビスの里のPR動画の撮影をしてもらう。上手く出来なきゃ即、死が待っているわ。移動の間にちゃんと内容を考えなさいね」
 
 上機嫌な美帆が側近の男に指示を出すと、二人は無理矢理立たされて部屋を出る。
 
「あ、これ首につけるわね。よく分からないけど、そうしろってあるじが言うから。上手くいけば菊田親子を逃したことも不問になって、あなた達も助かる。頼むわよ」
 
 エレベーターを降り、用意されたセダンの後部座席に詰め込まれる。
 
「少し待ってて」
 
 扉が閉まると、遥はぼそっと呟く。
 
「まさか、こんな展開になるとは」
「PRって? あたしたち、アクビスの里の広告塔になるってこと?」
「さあ。でも、これで私たちにもまだ勝機はあります」
「彩美さんは大丈夫かしら」
 
 しばらくして運転手、そして美帆が助手席に乗り込んできた。
 
「さて、車を出して。楽しみましょうね」

 カーステレオを操作する美帆の指が、軽快に音量を上げていく。
 爆音で流れるシューベルトが不気味さを助長する中、遥と涼子は背中にゴツゴツと小さな衝撃を感じ、こっそりと互いに目を見合わせた。
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