【完結】カエルレア探偵事務所《中》 〜アクビスの里〜

千鶴

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暴露

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「警察だ」
「なんの御用でしょうか」
「民間人を保護する。中に入れてもらうぞ」
「礼状はお持ちですか?」
「いいからすぐにザラム塔に案内するんだ」
 
 九条はホルスターから拳銃を抜いた。
 それを見た女性信者は一歩下がり、顔色を変える。
 
「こ、こんなことをしていいのですか。私だって、善良な民間人ですよ」
「あんた幹部だろう。ここで何が行われているのか、薄々勘づいているんじゃないのか? 目を醒ませ。取り返しのつかないことになるぞ」
「そんなことっ……」
 
 九条は小さく息を吐いた。
 
「信仰するのは構わない。心の拠り所なんだろう、それも否定しない。だがこんなところに閉じこもる必要はないんだ。人はもっと自由であるべきだとは思わないか」
 
 その真剣な眼差しに、女性信者の目にはだんだんと涙が溜まる。
 
「私も、ここから出られますか?」
「君がそう望むのなら」
 
 九条の言葉で、女性信者は決意を固めた。
 
「こっちです」

 
 
 
 
 九条はザラム塔までたどり着くと、女性に持ち場へと戻るように言う。
 
「ありがとう。君の身が危ぶまれるのなら、拳銃を突きつけられたと遠慮なく言ってもらって構わない。身を守るための最善の策を取ってください」
「いいえ。刑事さんと話して、なぜだか急に目が醒めました。私はここを出たい」
 
 女性は頭を下げると、足早に去っていく。
 九条は胸ポケットに入れた指輪が気になったが、今はそれよりと塔を登ることにした。
 一階には特に見張りはいない。中央のエレベーター以外に階段がないか探すが、見当たらなかった。

(エレベーターは一台しかない、見張りがいないのも気になるな。これが罠なら、袋の鼠だ)

 
 ブンッ

 
 九条が考えを巡らせていると、突然エレベーターが稼働した。エレベーターからの死角に身を隠し様子を見ていると、降りて来たエレベーターの中から男が二人出てきた。一人は前田恭介だ。
 
「ここはもう安全じゃない。警察の手が入る前に、まずいものは移動したほうがいいぞ。私はしばらくここへは来られない。これはこちらで処分しておく。あるじの機嫌だけは損ねぬよう配慮せねば……」
 
 恭介は段ボール箱を一つ抱えている。
 おそらく翔太が言っていた麻薬だ、と九条は思った。ひとつ短く息を吐き、その場を飛び出す。
 
「止まれ」
 
 九条が拳銃を構えているのを見て、恭介は顔をしかめた。
 
「よく警察署を出てこられたな。きみは今頃査問委員会に掛けられているはずだが」
「こっちも背水の陣で、なりふり構っていられなくなったんでね。刺し違えてもあんたの不正を明るみに出すつもりで来た」
「その拳銃で私を撃つのか。そんなことをしても、君の罪が重くなるだけだぞ」
「俺が狙ってるのはあんたじゃない。その段ボールさ」
「なっ!」
 
 九条は恭介の表情を見て、確信する。
 
「一九九一年。それは国連麻薬乱用撲滅の十年が設けられた最初の年。取り締まりの厳しくなる政治宣言がされる前に、政治家や官僚、この国の経済を回す一部の資産家など、いわゆる上級国民ってやつから処理を任された警察組織は、極秘に薬物を引き受け封印した。当時警部だったあんたは、上からの指示でその廃棄を任されたが、それをある宗教団体に横流しした。『雲月道うんげつどう教会ザラム』今あんたの隣にいる南雲丹治なぐもたんじが、例の雲島事件で捕まった神野正和じんのまさかずの父、神野幸助じんのこうすけと発足した宗教団体だ。三年前、正和の逮捕による影響を考えたあんたたちは、名称を今のアクビスの里に変えたんだろう」
 
 恭介は、額に青筋を這わせる。
 
「まあ、その頃は今みたいな野蛮なことはせずにこじんまりやってたようだがな。この里には、今まで葬った人々の骨がゴロゴロ転がっているんじゃないのか?」
 
 その言葉に反応したのは恭介ではなく、ザラムだった。
 
「きみのような優秀な刑事がいるとは、日本の警察組織も捨てたもんじゃないな。だが残念だよ、君はここでお終いだ」
 
 ザラムは掌を九条に向け広げた。
 集中するように目を細める異様な雰囲気に、九条は拳銃を握り直して一歩下がる。
 
 
 ?!!
 
 
「なぜだ! なぜ効かない!?」
 
 冷静だったザラムの顔にみるみる汗の粒が滲む。九条は不思議に思いながらも、今がチャンスと一気に捲し立てた。
 
「お終いなのはお前らの方だ! 全てを白状し、罪を償え前田恭介! 南雲美帆の自宅から持ち去った靴はどこへやった!」
「ああ、その靴なら大宮駅近くのトランクルームに全て移した」
 
 
 ?!!
 
 
 恭介は自らの口を慌てて手で押さえ、その発された言葉に目を見開いた。
 
「な、なんだ今のは、口が勝手に……一体、何が起きた」
 
 この場にいる三人、その全員が不思議な現象に混乱する中、ザラム塔の入り口には大量の足音が鳴り響く。
 
「前田恭介! 緊急逮捕だ!」
「くっ!」
 
 恭介に手錠を掛けたのは佐藤だった。
 
「証拠隠滅罪どころか麻薬取締法違反だ、実刑は免れないぞ」
 
 バタバタとなだれ込むように突入してきた警察官により、前田恭介は連行されていく。
 
南雲丹治なぐもたんじ。麻薬の隠し場所がこのアクビスの里だった以上、ほう助の罪でお前にも同行してもらうぞ。里はこれから徹底的に調べられる。余罪が出ないといいがな」
「離せ……あるじの、あの方の逆鱗に触れたら生きていられない……まずいぞ、殺される!」
「何をぶつぶつ言っているんだ。ほら、来い!」

 眼球を震わせて真っ青になった丹治は、引きずられるようにして連れて行かれた。
 佐藤が九条に近づく。
 
「警部、大変でしたね」
「何がどうなっているんだ。なぜこんなに早く対処できた」
「何言ってるんですか。警部と前田恭介の会話、桜田門の警察署管内に全部流れてましたよ。それを聞いた署内の人間は皆、緊急逮捕に向けて駆り出されました。警部の査問委員会は中止。警視総監直々の指令ですよ」
 
 九条は少し考えると、胸ポケットの指輪を取り出す。同時にスマートフォンが震えた。
 
「無事っすか」
 
 九条は小さく鼻で笑うと、安心したように息を吐いた。
 
「きみの仕業か。この指輪、盗聴器だったんだな」
 
「俺の特製っす。広範囲の音が拾える高性能の代物ですよ。指にはめてくれていたら映像も出せたんすけどね」
「こんなもん作って、違法だぞ」
「え! 俺、捕まっちゃいますか!?」
 
 九条はおでこを掻いた。
 
「本当に助かった。君の機転に感謝するよ」
 
 翔太はすいません、と次の話題に移る。
 
「ひと段落したとこあれなんすけど、先輩と涼子さんって見つけました? なんだか様子がおかしくて」
「これからこの塔の二階を捜索する。おかしいとはどういう意味だ」
「あ、いや……とにかく、そっちも急ぎめでお願いします」
「わかった」
 
 通話を切ると、佐藤は九条に向かって敬礼した。
 
「現場の捜査指揮を九条警部にと、上から言われています」

 九条もすぐに頷き、応える。

「すぐに人員を集めろ。里を隈なく捜索するぞ!」
 
 

 ◇◇◇
 
 
 
 翔太は目元に手をやり、俯く。
 緊急事態だった。
 
 翔太は涼子の指輪の気を探り、二人の位置を把握していたが、それが途端にぷっつりと探れなくなってしまったのだ。
 もしアクビスの里で二人が見つからなければ、外に出たと言うこと。マウトの結界外に出れば、指輪がなくても二人の気配を探知できるはず。それなのに、出来なかった。
 
「白井くん、聴いているか。二階には二人の姿も南雲美帆も確認できない」
 
 盗聴器からの九条の声に、翔太は頭を掻きむしる。遥と涼子にマウトの呪力が及んでいると確信したからだ。
 
「マウト……先輩に手を出したら、許さないぞ」
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