【完結】カエルレア探偵事務所《中》 〜アクビスの里〜

千鶴

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好意

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「きみは今、どこにいる? 埼玉県警本部にいる俺を拾えるか」
 
 翔太は必要な道具を調達するために、広尾の事務所に居たが、九条の言葉にしたり顔で口角を上げる。
 
「運がいいっすね。三分で車を下につけます」
「頼む」
 
 電話を切った九条は歩き出し、部屋を出る。現在二階。踊り場まで出て階段を降り、地域課と交通課を抜ければ入り口に辿り着ける。
 そう考えながら歩いていると、逆に階段を登って来るスーツ姿の男が何人も姿を現した。
 
(もう来たか……)
 
 次の瞬間、九条は階段の踊り場を走り抜ける。中央の吹き抜けを右に曲がると、非常階段への扉を開けて一気に駆け降りた。 
 
「九条が逃げたぞ!!」
 
 追われながらも一階まで降りると、入り口の門の前には既に連絡を受けたであろう警官が二人、辺りを見回している。裏口には鍵がかかっていて、外壁を超えるにも有刺鉄線が張り巡らされて難しかった。
 
(どうする……)
 
 その時。九条の目元がチカチカと白くなった。何かに照らされている。
 光の方向に目をやると、ミニパトカーの運転席に笑顔で手を振る翔太が見えた。九条は人目につかぬよう、腰を落として素早く移動する。
 
「何をやっているんだ。どうやってここに」
 
 九条は翔太の警官の格好を見て驚いた。翔太は急いでトランクに乗り込むように言い、九条が乗り込んだことを確認すると自身を女性の姿に変化させる。

「……よし」

 首を左右に向けて、バックミラーで確認。咳払いをし、肩を軽く上下させて力を抜くと、サイドブレーキを解除した。
 ミニパトカーをゆっくり発進させると、入り口の男性警察官に止まるように指示されて運転席の窓を開ける。
 
「今、県警は出入り禁止だぞ」
「仕方がないじゃない。事故の連絡入っちゃったんだから。交通課の婦警なんてこんな時やることもないのよ」
「交通課? あんたなんか見たことないぞ」
 
 よく見ると、男の側には白バイが停まっている。

「やべっ」
「お前、誰——」
 
 翔太は覗き込んで来た男の額に手を当てた。すると遠くを見つめた男は、車から離れて道を譲る。翔太はそのまま警察署を出て、しばらく走らせたところで車を停めた。
 
「もう、出て来ていいっすよ。車を乗り換えましょう」
 
 九条は被っていた布を剥ぐと、ミニパトカーを降りる。
 
「あれだけ警官がうじゃうじゃいると、やっぱり怖いっすね」
「気のせいか。さっき、きみから女性の声がしたように思ったんだが」
 
 翔太はそんな訳ない、と笑って誤魔化した。
 
「今からアクビスの里に向かうんですよね。そっから、どうします?」
「靴の隠し場所や麻薬の所在も気になるが、とにかく今は松永涼子と探偵の救出が先だろう。二人がまだ里にいるなら、俺の警察手帳が生きてるうちに乗り込むしかない」
 
 二人は車を換えて、道を進む。
 
「もし、その麻薬を前田警視監が横流ししていたってことが分かれば、九条さんは警察をクビにならないっすか?」
「どうだかな。結局、俺がきみたちに比重を置いて捜査を進めたことは事実だし、結果的にそれは警察組織のルールに反する。そもそも俺だって、噂半分でも大方おおかた事実なんだろうと思っていたんだ。目を瞑ってた他の連中と、そう変わらない」
 
 翔太は運転しながら九条を横目に見た。
 
 呪力を使えば人間の心の声がわかる。何を考えているのか、何をしようとしているのか、善意も悪意も全てが聞こえる。
 呪力を使わなくなってから随分経つが、長年そうして人の感情を聞き続けた名残は、今も翔太に残っていた。
 呪力を使わずとも、多少の善悪は声に乗って分かるのだ。
 
「俺、九条さんが好きっす」
「……きみはなのか」
 
 九条の言葉の意味を理解した翔太は、慌てて否定する。
 
「俺、先輩や涼子さんと居るとすごく心地が良いんです。角がなくて、平面で柔らかくて、何処にぶつかっても痛くないし。余計なことを考えなくて済むんです。俺には、九条さんもそんな優しい人間に見えます。だから好きです」
 
 九条は何も言わないが、表情は幾分和らいでいた。しばらくしてアクビスの里付近に着くと、翔太は車を停める。
 
「すみません。事情があって、俺はこの先には行けないんです。だからこれ」
 
 翔太は九条に、指輪を渡す。
 
「これ、御守りです。指につけるのが嫌だったら、無くさないように身に付けておいてください。必ず役に立ちますから」
 
 九条は素直に指輪を受け取る。翔太のことを信頼し始めていたからだ。
 
「行ってくる。何かあれば連絡をくれ」
 
 九条は車を降りてから左腰に備えた拳銃を確認すると、アクビスの里のチャイムを押した。
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