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番外
side 保住
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「なに、水野東伍が見つかった?」
真昼間の公園のベンチにて。
すでに腰を下ろして、扇子で暑さを凌ぐ保住の隣に、手帳を手にした相馬が座った。
急展開の知らせで眉間に皺を寄せた保住。その険しい顔を一瞥し、相馬は手帳に視線を移す。
「はい。どうやら、今は使われていないはずの鷹司製薬の研究施設内にて、意識不明で倒れているところを発見されたようです」
「鷹司……」
「通報は匿名。現在、意識は回復しておりますが、どうも様子がおかしいとのことで」
「どういう意味だ」
「記憶が曖昧なんです。自分が何者かすら、よくわかっていないというか」
「なんだそれ。そんなんで言い逃れするつもりか、あいつは鷹司に関わる連続失踪事件の最有力容疑者なんだぞ!」
保住の苛立ちはピークを迎えた。
「だいたい、今回の失踪事件に鷹司製薬が関わっていることは明白なんだ。小瀬メンタルクリニックは上からの圧力でゴタゴタしている間に更地になるし、斎木の森は夏川の政治的圧力で立ち入ることすら出来なかった。行方不明者は皆、小瀬んとこのクリニックに出入りした患者や斎木の森が慈善事業で集めた身寄りないホームレス同然の人間。こんな偶然ありえるか? やつらは絶対にクロだ」
「保住さん、もう諦めましょうよ」
「ああ?」
「行方不明になった人っていっても、保住さんがホームレスに聞き込みしたり周辺家屋から無理やり聞き出したり、それだけの情報じゃないですか。失踪届も出されていない案件を追い続けるなんて、上どころか警視庁全体から顰蹙買ってますよ、正直」
相馬は気怠げに頬を掻くと、眺めていた手帳を閉じる。
「水野東伍の記憶が曖昧なことも、考えたら運がいいんじゃないですか、保住さんにとっては」
「なんだよそれ」
「意識不明の餓死寸前で運ばれて、昏睡状態からやっと目を覚ました水野のこと、保住さんあの時胸ぐら掴んで脅してましたよね? 完全アウトですよ、あれ」
「はあ? あれはお前が最初に水野をけしかけたんだろうが」
「だからって昔ながらの熱さだけで行動されては困ります。今度だって水野への任意の事情聴取、俺と保住さんは外されてるじゃないですか。今回の捜査も、ぼちぼち打ち切られるって噂されていますし」
言葉に詰まる保住。それを見た相馬は、さらに核心に迫る。
「保住さん、なんでそんなにこの件にこだわるんですか。何か事情があるなら」
「うるせえな、もういいよ。じゃあな」
「あ、ちょっと」
保住はベンチから立ち上がると、公園を突っ切り早歩きで去っていく。その後ろ姿を眺めながら、相馬は面倒臭そうに舌打ちをした。
ぶぶっ、と胸の内のスマートフォンが震える。相馬が確認すると、それは科捜研からの着信だった。
「はい、相馬です。ええ。……え?」
相馬はしばらく無言で電話の内容を聞くと、捜査が打ち切られることを伝え、このことは聞かなかったことにする、そう言って電話を切った。
既に姿を消した保住の背中を思い浮かべると、相馬は苦笑する。
「なるほどな。保住さんがこだわるわけだ」
緩んだネクタイを締め直し、相馬は歩き出す。公園を突っ切る直前、今時珍しく設置されたゴミ箱に、手元の手帳の何ページかをむしり取って投げ入れた。
科捜研からの電話は、こうだった。
“鷹司製薬の第四ラボ、そこにあった妙なカプセルを調べたところ、唯一DNAが検出できたものがあったんです。持ち主は保住美和。保住警部の、姉のようです”
真昼間の公園のベンチにて。
すでに腰を下ろして、扇子で暑さを凌ぐ保住の隣に、手帳を手にした相馬が座った。
急展開の知らせで眉間に皺を寄せた保住。その険しい顔を一瞥し、相馬は手帳に視線を移す。
「はい。どうやら、今は使われていないはずの鷹司製薬の研究施設内にて、意識不明で倒れているところを発見されたようです」
「鷹司……」
「通報は匿名。現在、意識は回復しておりますが、どうも様子がおかしいとのことで」
「どういう意味だ」
「記憶が曖昧なんです。自分が何者かすら、よくわかっていないというか」
「なんだそれ。そんなんで言い逃れするつもりか、あいつは鷹司に関わる連続失踪事件の最有力容疑者なんだぞ!」
保住の苛立ちはピークを迎えた。
「だいたい、今回の失踪事件に鷹司製薬が関わっていることは明白なんだ。小瀬メンタルクリニックは上からの圧力でゴタゴタしている間に更地になるし、斎木の森は夏川の政治的圧力で立ち入ることすら出来なかった。行方不明者は皆、小瀬んとこのクリニックに出入りした患者や斎木の森が慈善事業で集めた身寄りないホームレス同然の人間。こんな偶然ありえるか? やつらは絶対にクロだ」
「保住さん、もう諦めましょうよ」
「ああ?」
「行方不明になった人っていっても、保住さんがホームレスに聞き込みしたり周辺家屋から無理やり聞き出したり、それだけの情報じゃないですか。失踪届も出されていない案件を追い続けるなんて、上どころか警視庁全体から顰蹙買ってますよ、正直」
相馬は気怠げに頬を掻くと、眺めていた手帳を閉じる。
「水野東伍の記憶が曖昧なことも、考えたら運がいいんじゃないですか、保住さんにとっては」
「なんだよそれ」
「意識不明の餓死寸前で運ばれて、昏睡状態からやっと目を覚ました水野のこと、保住さんあの時胸ぐら掴んで脅してましたよね? 完全アウトですよ、あれ」
「はあ? あれはお前が最初に水野をけしかけたんだろうが」
「だからって昔ながらの熱さだけで行動されては困ります。今度だって水野への任意の事情聴取、俺と保住さんは外されてるじゃないですか。今回の捜査も、ぼちぼち打ち切られるって噂されていますし」
言葉に詰まる保住。それを見た相馬は、さらに核心に迫る。
「保住さん、なんでそんなにこの件にこだわるんですか。何か事情があるなら」
「うるせえな、もういいよ。じゃあな」
「あ、ちょっと」
保住はベンチから立ち上がると、公園を突っ切り早歩きで去っていく。その後ろ姿を眺めながら、相馬は面倒臭そうに舌打ちをした。
ぶぶっ、と胸の内のスマートフォンが震える。相馬が確認すると、それは科捜研からの着信だった。
「はい、相馬です。ええ。……え?」
相馬はしばらく無言で電話の内容を聞くと、捜査が打ち切られることを伝え、このことは聞かなかったことにする、そう言って電話を切った。
既に姿を消した保住の背中を思い浮かべると、相馬は苦笑する。
「なるほどな。保住さんがこだわるわけだ」
緩んだネクタイを締め直し、相馬は歩き出す。公園を突っ切る直前、今時珍しく設置されたゴミ箱に、手元の手帳の何ページかをむしり取って投げ入れた。
科捜研からの電話は、こうだった。
“鷹司製薬の第四ラボ、そこにあった妙なカプセルを調べたところ、唯一DNAが検出できたものがあったんです。持ち主は保住美和。保住警部の、姉のようです”
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