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【第1部】転落編
待つ者
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「SNS。便利な時代です。それまではお金に困っていそうな方を金融機関や、それこそ競馬場なんかの入り口で待ち伏せし、声を掛けるのが主な手段でした。ですが今はクリックひとつでなんでも分かる。検索にかける言葉、それはその人の人生そのものを表わします。求めるもの、やりたい事、知りたい事。予定や行き先、交友関係から果ては悩み事までなんでも分かるのです」
それは確かに、と納得する海里。
「情報は諸刃の剣。使い方次第で人を救うことも殺すこともできる。検索履歴から野中様が困っていることを知った私は、自分の利益と天秤にかけ、今回この契約をご案内させて頂きました。ですが考えてみてください。私はあなたを脅すことだって出来たのです」
脅す。その不穏な響きに、海里は乾いた唇を舐めた。
「ところで野中様。どうして女性を殺してしまったのですか?」
前を向いたまま至って冷静な声色の芹に、海里は鼻を膨らませた。
「殺していません。信じてもらえないかも知れませんが、知らない女が勝手に家に入ってきて、勝手に腹を刺していたんです。でも家に戻ると死体はなく、絶対に見たはずの血も綺麗に掃除されていました。窓は開けっぱなしで家を出たし、誰かが部屋に入って死体を移動させたとしか思えない。それか女性は本当は生きていたか……なんにせよ、俺は何事かに巻き込まれているんです」
「なるほど。それで、その対応ですか」
海里は懐から出した折りたたみナイフを瞬時に広げ、芹の右脇腹に添えている。
「当然です。今、俺の周りは誰ひとりとして信用できない。会社をクビになり、借金まみれ。こんなタイミングで、金を貸すなんて妙な話で近づかれて来ては尚更です。さっきの治癒能力、でしたっけ。あれだって何かの手品でしょう。佐々木と連絡が取れないことにも、あなた何か関係しているんじゃないですか?」
「佐々木?」
「友人ですよ。あ、いや。友人でした、かな。佐々木は今どこに? 俺の1ヶ月をもらうなんてのは与太話で、本当は俺を人里離れたところに誘拐して殺そうっていうんじゃ——」
真相を聞き出そうと芹の顔に自身の顔を寄せようとした、次の瞬間。海里の身体は意に反して右に傾いた。
井無田によってサイドブレーキが引かれた車は、急なハンドル捌きにより左に半回転してドスン、と止まる。遠心力で振られた海里の手から素早くナイフを抜き取ると、芹は折りたたんで自分の懐にしまった。
「到着致しました」
静寂の中、海里の荒い呼吸が目立つ。運転席から降りた井無田が海里側のドアを開け、促されるように降りれば、目の前には大きな階段。その向こうに立派な館が建っているのが見えた。
「さて、どうなさいますか。あなたをこのまま家へ返して差し上げても、こちらは一向に構いません。何も人生を頂く相手は、あなただけではないのですから」
その言葉に、海里は固唾を飲む。
芹の視線の先。そこ居たのは、こちらを向いて立っている、6人の男女だった。
「芹さーん! 待ちくたびれちゃったよ」
女の子はぴょんぴょん跳ねながら、芹に向かって大きく手を振る。キュッと引っ詰めたポニーテールを揺らす彼女に、芹はいつもの柔和な笑顔で手を振り返しながら、こそっと呟いた。
「可愛いでしょう? 彼女は江畑マリア様。芸大に通う画家の卵です。ちなみにその隣にいるウェーブがかった茶髪の方が、竹林彩美様。彼女は看護師ですので、具合が悪くなったりお怪我をされた場合は彼女に頼ると良いでしょう」
海里は爪でおでこを掻く。
「つまり。これからの1ヶ月、俺はあの人たちと共同生活をするってことですか」
「おや、その気になりましたか。急に雰囲気も砕けたご様子で」
「あ、いや。別にあの子たちが可愛いから決めたとか、そういう訳じゃ」
「結構結構。恋愛は自由です。とはいえ、野中様に与えられたお近づきの時間は短い。早速皆さんをご紹介致しましょうね」
芹は口元に手を添わせると、息を吸った。
「さあさ、お待たせしました! 皆様中へ入りましょう!」
それは確かに、と納得する海里。
「情報は諸刃の剣。使い方次第で人を救うことも殺すこともできる。検索履歴から野中様が困っていることを知った私は、自分の利益と天秤にかけ、今回この契約をご案内させて頂きました。ですが考えてみてください。私はあなたを脅すことだって出来たのです」
脅す。その不穏な響きに、海里は乾いた唇を舐めた。
「ところで野中様。どうして女性を殺してしまったのですか?」
前を向いたまま至って冷静な声色の芹に、海里は鼻を膨らませた。
「殺していません。信じてもらえないかも知れませんが、知らない女が勝手に家に入ってきて、勝手に腹を刺していたんです。でも家に戻ると死体はなく、絶対に見たはずの血も綺麗に掃除されていました。窓は開けっぱなしで家を出たし、誰かが部屋に入って死体を移動させたとしか思えない。それか女性は本当は生きていたか……なんにせよ、俺は何事かに巻き込まれているんです」
「なるほど。それで、その対応ですか」
海里は懐から出した折りたたみナイフを瞬時に広げ、芹の右脇腹に添えている。
「当然です。今、俺の周りは誰ひとりとして信用できない。会社をクビになり、借金まみれ。こんなタイミングで、金を貸すなんて妙な話で近づかれて来ては尚更です。さっきの治癒能力、でしたっけ。あれだって何かの手品でしょう。佐々木と連絡が取れないことにも、あなた何か関係しているんじゃないですか?」
「佐々木?」
「友人ですよ。あ、いや。友人でした、かな。佐々木は今どこに? 俺の1ヶ月をもらうなんてのは与太話で、本当は俺を人里離れたところに誘拐して殺そうっていうんじゃ——」
真相を聞き出そうと芹の顔に自身の顔を寄せようとした、次の瞬間。海里の身体は意に反して右に傾いた。
井無田によってサイドブレーキが引かれた車は、急なハンドル捌きにより左に半回転してドスン、と止まる。遠心力で振られた海里の手から素早くナイフを抜き取ると、芹は折りたたんで自分の懐にしまった。
「到着致しました」
静寂の中、海里の荒い呼吸が目立つ。運転席から降りた井無田が海里側のドアを開け、促されるように降りれば、目の前には大きな階段。その向こうに立派な館が建っているのが見えた。
「さて、どうなさいますか。あなたをこのまま家へ返して差し上げても、こちらは一向に構いません。何も人生を頂く相手は、あなただけではないのですから」
その言葉に、海里は固唾を飲む。
芹の視線の先。そこ居たのは、こちらを向いて立っている、6人の男女だった。
「芹さーん! 待ちくたびれちゃったよ」
女の子はぴょんぴょん跳ねながら、芹に向かって大きく手を振る。キュッと引っ詰めたポニーテールを揺らす彼女に、芹はいつもの柔和な笑顔で手を振り返しながら、こそっと呟いた。
「可愛いでしょう? 彼女は江畑マリア様。芸大に通う画家の卵です。ちなみにその隣にいるウェーブがかった茶髪の方が、竹林彩美様。彼女は看護師ですので、具合が悪くなったりお怪我をされた場合は彼女に頼ると良いでしょう」
海里は爪でおでこを掻く。
「つまり。これからの1ヶ月、俺はあの人たちと共同生活をするってことですか」
「おや、その気になりましたか。急に雰囲気も砕けたご様子で」
「あ、いや。別にあの子たちが可愛いから決めたとか、そういう訳じゃ」
「結構結構。恋愛は自由です。とはいえ、野中様に与えられたお近づきの時間は短い。早速皆さんをご紹介致しましょうね」
芹は口元に手を添わせると、息を吸った。
「さあさ、お待たせしました! 皆様中へ入りましょう!」
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