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【第1部】転落編
人生の対価
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2月7日(月)——
16時。インターホンが鳴る。覗き穴から訪ね人を確認すると、海里は玄関の扉を開けた。
「ふふっ、本当に身ひとつですね」
「そういう決まりでしたから。あ、これ俺の銀行口座です。残りの報酬はここに」
芹は海里からメモを受け取ると、かしこまりました、と頭を下げた。
「では、これから滞在先に向かいます。これを」
手渡されたのは目隠し。
「滞在先は極秘なんです。御了承ください」
海里は頷くと、井無田がドアを開けて待つセダンタイプの車の後部座席に乗り込んだ。
窓には黒いカーテンが引かれ、外の景色は遮断されている。海里が目隠しをしたことを確認すると、芹も海里の隣に座った。
「井無田、車を出してください」
「承知しました」
1時間ほど経っただろうか。視界を奪われた海里は、暇に耐えきれずに口を開く。
「あの。今何時ですか?」
「16時20分ですね」
「え?! 出発からまだ20分しか経ってないんだ。滞在先には後どれくらいで着くんですか?」
芹は海里の不安げな口元を見ながら口角を上げた。
「退屈ですよね。私でよければ、雑談のお相手を致しますよ」
「雑談か。俺、世間話や場をつなぐ話って上手くなくて」
「そうですか。では、何か質問があれば」
海里は考える。そして、一番最初に浮かんだ疑問を口に出した。
「こんなことをして、芹さんたちには一体なんの得があるんでしょうか? 俺の1ヶ月を買うって言いますけど、実のところ未だによく意味がわからないっていうか……」
芹がバックミラーに目を向けると、目が合った井無田が頷く。それを確認して、芹は海里に目隠しを外すように言った。
海里は明るさに慣れない目を細めながらも、状況を把握しようと前方に身を乗り出す。
フロントガラスから確認できるのは雑木林。道は坂になっていて、くねくね曲がりながら一本道をひた走る。
自宅を出発してから20分。そんな近くに、こんな雑木林があっただろうか——海里がそう思考を巡らせていると、芹が海里の名前を呼んだ。
「よく、見ていてくださいね」
芹はそう言うと、右腕の袖を捲る。そこには火傷の痛々しい傷があった。
「先日、ちょっと揚げ物に失敗してしまいまして」
そう言いながら、芹はその傷を撫でるように左手で覆う。スライドしていく左手から右腕が覗けば、海里は一瞬で目を剥いた。
「傷が、なくなった?」
「これが理由です。あなたの人生を頂くことで、私に何の得があるのか。その答えを端的に申し上げれば、私は人様の人生をエネルギーとして、治癒の能力を得られる特異体質なのです」
海里はじろっと芹に眼を向ける。
「特異体質、ですか。俺のスマートフォンの検索履歴を探れたのも、何かの能力で?」
「いえいえ、それはただのソフトウェアです。機械に強い友人がおりまして。この生業を成立させるために、大変重宝させて頂いております」
芹は捲った袖を元に戻した。
16時。インターホンが鳴る。覗き穴から訪ね人を確認すると、海里は玄関の扉を開けた。
「ふふっ、本当に身ひとつですね」
「そういう決まりでしたから。あ、これ俺の銀行口座です。残りの報酬はここに」
芹は海里からメモを受け取ると、かしこまりました、と頭を下げた。
「では、これから滞在先に向かいます。これを」
手渡されたのは目隠し。
「滞在先は極秘なんです。御了承ください」
海里は頷くと、井無田がドアを開けて待つセダンタイプの車の後部座席に乗り込んだ。
窓には黒いカーテンが引かれ、外の景色は遮断されている。海里が目隠しをしたことを確認すると、芹も海里の隣に座った。
「井無田、車を出してください」
「承知しました」
1時間ほど経っただろうか。視界を奪われた海里は、暇に耐えきれずに口を開く。
「あの。今何時ですか?」
「16時20分ですね」
「え?! 出発からまだ20分しか経ってないんだ。滞在先には後どれくらいで着くんですか?」
芹は海里の不安げな口元を見ながら口角を上げた。
「退屈ですよね。私でよければ、雑談のお相手を致しますよ」
「雑談か。俺、世間話や場をつなぐ話って上手くなくて」
「そうですか。では、何か質問があれば」
海里は考える。そして、一番最初に浮かんだ疑問を口に出した。
「こんなことをして、芹さんたちには一体なんの得があるんでしょうか? 俺の1ヶ月を買うって言いますけど、実のところ未だによく意味がわからないっていうか……」
芹がバックミラーに目を向けると、目が合った井無田が頷く。それを確認して、芹は海里に目隠しを外すように言った。
海里は明るさに慣れない目を細めながらも、状況を把握しようと前方に身を乗り出す。
フロントガラスから確認できるのは雑木林。道は坂になっていて、くねくね曲がりながら一本道をひた走る。
自宅を出発してから20分。そんな近くに、こんな雑木林があっただろうか——海里がそう思考を巡らせていると、芹が海里の名前を呼んだ。
「よく、見ていてくださいね」
芹はそう言うと、右腕の袖を捲る。そこには火傷の痛々しい傷があった。
「先日、ちょっと揚げ物に失敗してしまいまして」
そう言いながら、芹はその傷を撫でるように左手で覆う。スライドしていく左手から右腕が覗けば、海里は一瞬で目を剥いた。
「傷が、なくなった?」
「これが理由です。あなたの人生を頂くことで、私に何の得があるのか。その答えを端的に申し上げれば、私は人様の人生をエネルギーとして、治癒の能力を得られる特異体質なのです」
海里はじろっと芹に眼を向ける。
「特異体質、ですか。俺のスマートフォンの検索履歴を探れたのも、何かの能力で?」
「いえいえ、それはただのソフトウェアです。機械に強い友人がおりまして。この生業を成立させるために、大変重宝させて頂いております」
芹は捲った袖を元に戻した。
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