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【第1部】転落編
鮫島ファイナンス
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「えーっとね、全部で1098万円かな」
「……はぁぁああ?!」
海里は度肝を抜かれた。テーブルに置かれた契約書を乱暴に掴み取り、金額を確認する。
「だ、だって最初に借り入れたの300万ですよ? ついこの前まで500万弱だった借金が、なんでそんな金額になるんですか! ぼったくりもいいとこだ!」
「あのね、うち金利トジュウなんですわ。10日で10割。つまり10万借りたら10日で利子10万、返済は20万貰う計算になるよね。今回は300万を30日、途中で200万返してもろうてプラス手数料、分かるかな?」
鮫島ファイナンス。窓に反転するその文字を横目に、海里は出方を迷っていた。手元のリュックには、芹からもらった前金の1000万円が入っている。
「どうします? 今日全額は無理やろうから、持って来た分だけでも返して行かれます?」
ん? と不敵に笑うのは、首元に鯉の刺青の男。このファイナンスの社長、鮫島昭仁だ。鮫島は左腕の金のロレックスをガチャガチャと弄りながら、海里の返事を待つ。
「こんなの違法だ。警察か弁護士に相談します」
立ち上がろうとする海里。だがいつの間にか背後に立っていたスーツの男に肩を掴まれ、再び無理やり座らされた。
「野中さーん。こちらの好意を無碍にせんとってください。もともと色んなとこから借金して、さらに借りることもできんくなって。うちが手回しして、他所から借りた借金も全部纏めてあげたんやないの。うちはいくらでも貸したるよ?」
「それは佐々木が——」
「そーれーにっ! あなた万引きや痴漢の常習犯なんやろ? 変なフィギュアも趣味みたいやし、そんな人を警察や弁護士が取り合ってくれるかなあ」
鮫島の不敵な笑みに、海里は眼光を強める。
「嫌がらせのメールを取引先に送ったの、あんたか」
「さあ、なんのことやろか」
海里は事務所を見回す。テーブルを挟んで目の前に鮫島、海里の背後には男。鮫島の後ろにも男が2人後ろ手を組んで立っており、ドア付近にもひとり。
逃げられない、そう思った。
「分かりました。ならばお願いがあります」
「なんでしょう」
「1000万。一括で1000万円お返しするので、98万負けて頂けませんか」
一瞬の沈黙。
「……ぷっ、ガハハハハハっ!!」
鮫島につられ、部下たちも盛大に笑い声を上げた。
「いっせんまん? そんなのどうやって用意するんや、またウチ以外から借りるんか? 寝言は寝てから言ってもらわんと。はあ、おもろいこと言うわ、野中さん」
海里は鮫島の反応にムッとする。その勢いに任せてリュックを乱暴に開けると、中から取り出した札の束をドンっ、ドンっ、とテーブルに並べていった。10束出し切った時、笑ったままの顔で固まっていた鮫島は眉を上げる。
「こら魂消た。まさかホンマだったんかいな」
「それで、こちらのお願いは聞いて頂けるんですか」
鮫島はソファーにぐりぐり尻を押し付けながら体制を整えると、ひとつ咳払いをした。
おい、と小さく言えば。部下が紙を1枚、テーブルに置く。
「ええわ。98万はチャラにしましょう。えーっと、返済金額は1000万に変更っと。じゃあここんとこに名前と日付、それから母印も頼むわ」
紙には“完済証明書”と書かれていた。海里はすぐに記入を済ます。いつの間にか用意されていた朱肉に親指の腹を押し付け、紙に母印もつけた。
「じゃあもうええですよ、お帰りいただいて」
「待ってください。最初に借り入れした時の契約書も返してください。返済が完了したなら、もう必要ないですよね?」
「ああん?!」
海里の態度に部下が一斉に凄み寄るが、鮫島がそれを制す。海里に視線を合わせたまま書類を持ってくるよう部下に指示すると、それを受け取った鮫島は海里に訊いた。
「こちらにも必要ないように、こんな書類きみにも必要ないんと違う?」
「こんな高金利な闇金に、自分の名前の残った書類をひとつでも残しておきたくないんですよ。今後は借金とは無縁の生活を送りたいんです。あなたたちには二度と、関わりたくない」
「ほう。そりゃ、ええ志やな」
部下が睨みを利かせる中、鮫島から書類を受け取った海里はそそくさと事務所を後にする。
自宅までの道中、適当に見つけた街中のゴミ箱に、海里はくしゃくしゃに丸めた契約書を投げ捨てた。
「……はぁぁああ?!」
海里は度肝を抜かれた。テーブルに置かれた契約書を乱暴に掴み取り、金額を確認する。
「だ、だって最初に借り入れたの300万ですよ? ついこの前まで500万弱だった借金が、なんでそんな金額になるんですか! ぼったくりもいいとこだ!」
「あのね、うち金利トジュウなんですわ。10日で10割。つまり10万借りたら10日で利子10万、返済は20万貰う計算になるよね。今回は300万を30日、途中で200万返してもろうてプラス手数料、分かるかな?」
鮫島ファイナンス。窓に反転するその文字を横目に、海里は出方を迷っていた。手元のリュックには、芹からもらった前金の1000万円が入っている。
「どうします? 今日全額は無理やろうから、持って来た分だけでも返して行かれます?」
ん? と不敵に笑うのは、首元に鯉の刺青の男。このファイナンスの社長、鮫島昭仁だ。鮫島は左腕の金のロレックスをガチャガチャと弄りながら、海里の返事を待つ。
「こんなの違法だ。警察か弁護士に相談します」
立ち上がろうとする海里。だがいつの間にか背後に立っていたスーツの男に肩を掴まれ、再び無理やり座らされた。
「野中さーん。こちらの好意を無碍にせんとってください。もともと色んなとこから借金して、さらに借りることもできんくなって。うちが手回しして、他所から借りた借金も全部纏めてあげたんやないの。うちはいくらでも貸したるよ?」
「それは佐々木が——」
「そーれーにっ! あなた万引きや痴漢の常習犯なんやろ? 変なフィギュアも趣味みたいやし、そんな人を警察や弁護士が取り合ってくれるかなあ」
鮫島の不敵な笑みに、海里は眼光を強める。
「嫌がらせのメールを取引先に送ったの、あんたか」
「さあ、なんのことやろか」
海里は事務所を見回す。テーブルを挟んで目の前に鮫島、海里の背後には男。鮫島の後ろにも男が2人後ろ手を組んで立っており、ドア付近にもひとり。
逃げられない、そう思った。
「分かりました。ならばお願いがあります」
「なんでしょう」
「1000万。一括で1000万円お返しするので、98万負けて頂けませんか」
一瞬の沈黙。
「……ぷっ、ガハハハハハっ!!」
鮫島につられ、部下たちも盛大に笑い声を上げた。
「いっせんまん? そんなのどうやって用意するんや、またウチ以外から借りるんか? 寝言は寝てから言ってもらわんと。はあ、おもろいこと言うわ、野中さん」
海里は鮫島の反応にムッとする。その勢いに任せてリュックを乱暴に開けると、中から取り出した札の束をドンっ、ドンっ、とテーブルに並べていった。10束出し切った時、笑ったままの顔で固まっていた鮫島は眉を上げる。
「こら魂消た。まさかホンマだったんかいな」
「それで、こちらのお願いは聞いて頂けるんですか」
鮫島はソファーにぐりぐり尻を押し付けながら体制を整えると、ひとつ咳払いをした。
おい、と小さく言えば。部下が紙を1枚、テーブルに置く。
「ええわ。98万はチャラにしましょう。えーっと、返済金額は1000万に変更っと。じゃあここんとこに名前と日付、それから母印も頼むわ」
紙には“完済証明書”と書かれていた。海里はすぐに記入を済ます。いつの間にか用意されていた朱肉に親指の腹を押し付け、紙に母印もつけた。
「じゃあもうええですよ、お帰りいただいて」
「待ってください。最初に借り入れした時の契約書も返してください。返済が完了したなら、もう必要ないですよね?」
「ああん?!」
海里の態度に部下が一斉に凄み寄るが、鮫島がそれを制す。海里に視線を合わせたまま書類を持ってくるよう部下に指示すると、それを受け取った鮫島は海里に訊いた。
「こちらにも必要ないように、こんな書類きみにも必要ないんと違う?」
「こんな高金利な闇金に、自分の名前の残った書類をひとつでも残しておきたくないんですよ。今後は借金とは無縁の生活を送りたいんです。あなたたちには二度と、関わりたくない」
「ほう。そりゃ、ええ志やな」
部下が睨みを利かせる中、鮫島から書類を受け取った海里はそそくさと事務所を後にする。
自宅までの道中、適当に見つけた街中のゴミ箱に、海里はくしゃくしゃに丸めた契約書を投げ捨てた。
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