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館編
契約の真意
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「うさ……ぎ……」
「因みにそっちは蛙、これは鳩」
芹が笑顔で皿を上げる。海里は一連のやりとりに眉を上げフォークを置くと、手の甲でガサツに口を拭った。暖炉に焚べた薪がパチパチ音を立て、知らぬ間に温まった部屋に気づいた権堂が上着を脱ぐ。
「では次、野中様。どうぞ」
「あ、はい。野中海里、29歳。最近会社をクビになったので無職です。趣味は、ないです。特徴なくてすみません。契約日数は1ヶ月です」
1ヶ月。海里のその言葉に、声こそ上げないが皆の表情が騒ついた。
「おや、野中さんにはフィギュアの趣味がおありなのでは?」
芹の質問に海里は戸惑う。
「俺、芹さんにフィギュアの話、しましたっけ?」
「聞いたと思いますよ」
「いや、してないと思います」
海里はここぞとばかりに食いついた。
「あの。はっきりさせておきたいんですけど、この集まりってやっぱり少しおかしくないですか。芹さんの治癒能力ってやつの代償に俺たちの人生をあげるだなんて話、皆さんだって完全に信じたわけじゃありませんよね? こんなことをして何の意味があるのか、本当のところを教えてもらえませんか」
皆の視線が一斉に芹に集まる中、ただひとり、海里をじっと見る女性がいた。
「本当のことなんて別に知りたくない。そんなこと言って、結局あなたも報酬受け取ったんでしょう? 貰うもん貰っといて芹さんに噛み付くなんておこがましいんじゃないの?」
女性はワイングラスを傾け、グイッと中身を飲み干した。眉辺りで一直線に切り揃えられた前髪。まるでウィッグの様に艶やかな腰まで伸びた黒髪を振り払いながら、強気な言葉を続ける。
「時間は有限なの。さっさと自己紹介終わらせて次に進みたいのよ、余計なことで水差さないでくれない?」
静けさが部屋を包む。女性は周りの好奇な視線に気がつくと、ため息を漏らした。
「ったく、変な空気になったじゃない。あたしは相澤千聖、24歳、ピアノ演奏者。ほら、最後あなたの番よ」
千聖に目配せされた隣の女性は、場の空気に萎縮しながらも言われた通りに口を開く。
「竹林彩美です。看護師です。えっと、契約日数は15日で、趣味は読書ですかね。宜しくお願いします」
彩美は元々下がり気味の眉毛をさらに下げた。猫っ毛と癖っ毛を合わせたような茶髪、さらに小柄な体型は小動物を思わせる。そのままペコっと頭を下げると、彩美は申し訳なさそうに視線を芹に向けた。
「そうですね。所定の時刻、19時までまだ時間がありますし、自己紹介も終わったところで少し説明させて頂きましょうか」
言えば、芹は銀色のナイフを右手に取ると、左手をテーブルにつく。その左手の甲を、振り上げた右手のナイフで思い切り貫いた。
「ひぃっ」
「芹さん、何もそこまでしなくても……」
悲鳴を上げたのは段田。心配そうに眉を下げるマリアをよそに、芹が血の滲み出る左手の甲を右手で覆えば、先ほど海里が車で見たのと同じく傷が消えた。テーブルクロスには生々しい血の染みが残っている。
「私はこの能力を使うための代償……いや、エネルギー源とでも言いましょうかね。そのエネルギー源として、皆様の人生の内の幾日かを頂く。そしてその対価として、各人に見合った報酬をお支払いさせて頂いている次第でございます」
「だからそれは手品かなんかで——」
「兄ちゃん。それはちょいと違うぜ」
自慢の顎髭を撫でながら、権堂が海里の言葉を止めた。
「因みにそっちは蛙、これは鳩」
芹が笑顔で皿を上げる。海里は一連のやりとりに眉を上げフォークを置くと、手の甲でガサツに口を拭った。暖炉に焚べた薪がパチパチ音を立て、知らぬ間に温まった部屋に気づいた権堂が上着を脱ぐ。
「では次、野中様。どうぞ」
「あ、はい。野中海里、29歳。最近会社をクビになったので無職です。趣味は、ないです。特徴なくてすみません。契約日数は1ヶ月です」
1ヶ月。海里のその言葉に、声こそ上げないが皆の表情が騒ついた。
「おや、野中さんにはフィギュアの趣味がおありなのでは?」
芹の質問に海里は戸惑う。
「俺、芹さんにフィギュアの話、しましたっけ?」
「聞いたと思いますよ」
「いや、してないと思います」
海里はここぞとばかりに食いついた。
「あの。はっきりさせておきたいんですけど、この集まりってやっぱり少しおかしくないですか。芹さんの治癒能力ってやつの代償に俺たちの人生をあげるだなんて話、皆さんだって完全に信じたわけじゃありませんよね? こんなことをして何の意味があるのか、本当のところを教えてもらえませんか」
皆の視線が一斉に芹に集まる中、ただひとり、海里をじっと見る女性がいた。
「本当のことなんて別に知りたくない。そんなこと言って、結局あなたも報酬受け取ったんでしょう? 貰うもん貰っといて芹さんに噛み付くなんておこがましいんじゃないの?」
女性はワイングラスを傾け、グイッと中身を飲み干した。眉辺りで一直線に切り揃えられた前髪。まるでウィッグの様に艶やかな腰まで伸びた黒髪を振り払いながら、強気な言葉を続ける。
「時間は有限なの。さっさと自己紹介終わらせて次に進みたいのよ、余計なことで水差さないでくれない?」
静けさが部屋を包む。女性は周りの好奇な視線に気がつくと、ため息を漏らした。
「ったく、変な空気になったじゃない。あたしは相澤千聖、24歳、ピアノ演奏者。ほら、最後あなたの番よ」
千聖に目配せされた隣の女性は、場の空気に萎縮しながらも言われた通りに口を開く。
「竹林彩美です。看護師です。えっと、契約日数は15日で、趣味は読書ですかね。宜しくお願いします」
彩美は元々下がり気味の眉毛をさらに下げた。猫っ毛と癖っ毛を合わせたような茶髪、さらに小柄な体型は小動物を思わせる。そのままペコっと頭を下げると、彩美は申し訳なさそうに視線を芹に向けた。
「そうですね。所定の時刻、19時までまだ時間がありますし、自己紹介も終わったところで少し説明させて頂きましょうか」
言えば、芹は銀色のナイフを右手に取ると、左手をテーブルにつく。その左手の甲を、振り上げた右手のナイフで思い切り貫いた。
「ひぃっ」
「芹さん、何もそこまでしなくても……」
悲鳴を上げたのは段田。心配そうに眉を下げるマリアをよそに、芹が血の滲み出る左手の甲を右手で覆えば、先ほど海里が車で見たのと同じく傷が消えた。テーブルクロスには生々しい血の染みが残っている。
「私はこの能力を使うための代償……いや、エネルギー源とでも言いましょうかね。そのエネルギー源として、皆様の人生の内の幾日かを頂く。そしてその対価として、各人に見合った報酬をお支払いさせて頂いている次第でございます」
「だからそれは手品かなんかで——」
「兄ちゃん。それはちょいと違うぜ」
自慢の顎髭を撫でながら、権堂が海里の言葉を止めた。
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