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因縁編
最後の晩餐
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「いやゃぁぁああ!」
佐和子の叫び声と同時に、大食堂の扉が開く。
「今の銃声って——」
部屋に戻った彩美の目に映ったのは、額に風穴が空いた状態で目を開ける、段田の死体だった。
拳銃を持ったまま突っ立っている海里の表情は、高揚しているようにも見える。
「これ、野中さんが?」
「はい。段田さんが全ての元凶のようでしたので、俺が正義の鉄槌を」
特段動揺もない海里の様子に、権堂も千聖も血の気がひいている。
「でもどうして? あなたにはなんの動機もないのに」
「俺、こういう卑怯な犯罪者って許せなくて。そんなことより彩美さん、江畑さんに解毒剤を打たなくていいんですか? 倒れてからずいぶん、時間が経っていますけど」
「あ……そ、そうですね」
慌ててマリアに解毒剤を打つ彩美。海里はその様子に、そっと微笑みを浮かべた。
「そうですか。仕方がありませんね」
あの後。事情を知った芹は、段田の死体を井無田に任せた。
流石に契約も何もないのではないか、権堂はそう芹に詰め寄ったが、契約は絶対だという芹。
そこで個別に芹と話し合った結果、海里は1ヶ月から10日間に契約期間を変更することで合意した。
ボーン……ボーン……
「段田が死んじゃった今、暁人の無罪を明らかにする方法、無くなっちゃったな」
翌日、大食堂にて。17時の時報を合図に食事が始まる。と言っても、料理に口をつけるのは権堂と海里のみ。その他の女性陣には食欲など無いようだった。
「それなんだけどよ。俺、記事書くわ」
相変わらずガチャガチャ食器を鳴らしながら言う権堂に、マリアが嘲笑を添える。
「無理だよ。警察は絶対に認めない」
「本人の自白があったら、話は別だろ?」
権堂はポケットに手を突っ込むと、取り出したそれをテーブルに置いた。
「音声。全部撮っといた」
ギョッとするマリア。それと同時に反応したのは海里だ。
「それ持ち込んだんですか? この館で起きたことは他言無用ですよ? そういう契約じゃないですか」
「なんだお前、妙にこだわるな。これは芹からもらったんだよ。もちろん、海里が段田を撃ったところはカットするさ。それに、段田の自白はこの館の契約に絡んだものじゃ無い。なあ芹、別に構わないだろ?」
「ええ。それでしたら契約違反にはなりませんね」
今までどこにいたのか。芹にそう問いたい気持ちは誰しもが抱えていたが、不思議とそれを口に出すものはいない。
海里が残り1枚のパンに手を伸ばすと、その手が芹の手と触れる。
「あ、すいません」
「いえいえ。ワインもいかがです?」
ボトルを傾ける芹に、海里はグラスを掲げた。とくとくと注がれる赤い液体を横目に、海里が口を開く。
「でも、肝心の段田さんが死んだんじゃ証明のしようがない。それにその問題に取り組めば、相澤さんのお父さんや大柳さんのご主人が世間から非難されるのは必須ですよ?」
それに反応したのは佐和子だ。
「元よりそのつもりよ。たとえ死んでしまっていても、たったふたりきりの夫婦だもの。私は全てを受け入れるわ」
その返事に、海里は疑問を覚える。
「大柳さんって息子がいたんじゃ?」
「ああ。実はとっくの昔に息子とは離縁しているの。だからもう、私に失うものはないわ」
佐和子は白状した様子で両手を上げた。
「……冗談じゃないわよ」
千聖が、ゆっくり席を立った。その顔面には痛々しく包帯が巻かれている。
「冤罪だかなんだか知らないけど、あたしは本当に何にも関係ない。こんな顔にされて、コンサートにも出られない。最悪よ……絶対に許さないわ。償ってもらわなきゃ」
千聖はいつの間にか手に握っていたペインティングナイフを、マリアの顔面めがけて突き出した。
そのナイフが、マリアの右眼球を捕らえる。顔を押さえたマリアの手から血が滴り落ちた。
佐和子の叫び声と同時に、大食堂の扉が開く。
「今の銃声って——」
部屋に戻った彩美の目に映ったのは、額に風穴が空いた状態で目を開ける、段田の死体だった。
拳銃を持ったまま突っ立っている海里の表情は、高揚しているようにも見える。
「これ、野中さんが?」
「はい。段田さんが全ての元凶のようでしたので、俺が正義の鉄槌を」
特段動揺もない海里の様子に、権堂も千聖も血の気がひいている。
「でもどうして? あなたにはなんの動機もないのに」
「俺、こういう卑怯な犯罪者って許せなくて。そんなことより彩美さん、江畑さんに解毒剤を打たなくていいんですか? 倒れてからずいぶん、時間が経っていますけど」
「あ……そ、そうですね」
慌ててマリアに解毒剤を打つ彩美。海里はその様子に、そっと微笑みを浮かべた。
「そうですか。仕方がありませんね」
あの後。事情を知った芹は、段田の死体を井無田に任せた。
流石に契約も何もないのではないか、権堂はそう芹に詰め寄ったが、契約は絶対だという芹。
そこで個別に芹と話し合った結果、海里は1ヶ月から10日間に契約期間を変更することで合意した。
ボーン……ボーン……
「段田が死んじゃった今、暁人の無罪を明らかにする方法、無くなっちゃったな」
翌日、大食堂にて。17時の時報を合図に食事が始まる。と言っても、料理に口をつけるのは権堂と海里のみ。その他の女性陣には食欲など無いようだった。
「それなんだけどよ。俺、記事書くわ」
相変わらずガチャガチャ食器を鳴らしながら言う権堂に、マリアが嘲笑を添える。
「無理だよ。警察は絶対に認めない」
「本人の自白があったら、話は別だろ?」
権堂はポケットに手を突っ込むと、取り出したそれをテーブルに置いた。
「音声。全部撮っといた」
ギョッとするマリア。それと同時に反応したのは海里だ。
「それ持ち込んだんですか? この館で起きたことは他言無用ですよ? そういう契約じゃないですか」
「なんだお前、妙にこだわるな。これは芹からもらったんだよ。もちろん、海里が段田を撃ったところはカットするさ。それに、段田の自白はこの館の契約に絡んだものじゃ無い。なあ芹、別に構わないだろ?」
「ええ。それでしたら契約違反にはなりませんね」
今までどこにいたのか。芹にそう問いたい気持ちは誰しもが抱えていたが、不思議とそれを口に出すものはいない。
海里が残り1枚のパンに手を伸ばすと、その手が芹の手と触れる。
「あ、すいません」
「いえいえ。ワインもいかがです?」
ボトルを傾ける芹に、海里はグラスを掲げた。とくとくと注がれる赤い液体を横目に、海里が口を開く。
「でも、肝心の段田さんが死んだんじゃ証明のしようがない。それにその問題に取り組めば、相澤さんのお父さんや大柳さんのご主人が世間から非難されるのは必須ですよ?」
それに反応したのは佐和子だ。
「元よりそのつもりよ。たとえ死んでしまっていても、たったふたりきりの夫婦だもの。私は全てを受け入れるわ」
その返事に、海里は疑問を覚える。
「大柳さんって息子がいたんじゃ?」
「ああ。実はとっくの昔に息子とは離縁しているの。だからもう、私に失うものはないわ」
佐和子は白状した様子で両手を上げた。
「……冗談じゃないわよ」
千聖が、ゆっくり席を立った。その顔面には痛々しく包帯が巻かれている。
「冤罪だかなんだか知らないけど、あたしは本当に何にも関係ない。こんな顔にされて、コンサートにも出られない。最悪よ……絶対に許さないわ。償ってもらわなきゃ」
千聖はいつの間にか手に握っていたペインティングナイフを、マリアの顔面めがけて突き出した。
そのナイフが、マリアの右眼球を捕らえる。顔を押さえたマリアの手から血が滴り落ちた。
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