【完結】万華鏡の館 〜あなたの人生、高額買取り致します〜

千鶴

文字の大きさ
38 / 81
因縁編

Magdalene

しおりを挟む
「い……いったぁぁああい!!」
 
 全員が席を立った。海里は咄嗟に彩美を庇うように前に、権堂は千聖から距離を取るようにと佐和子に叫ぶ。
 
「なんだ。柔らかいとかいって、ちゃんと刺さるじゃない、このナイフ。次は口から刺してやろっか」
 
 包帯の奥から覗く千聖の瞳には、ギンギンと血がたぎっている。マリアは床に尻をつき、必死に千聖から距離を取ろうと手足を動かした。
 
「ま、待って! ごめんなさい、本当にごめんなさい。マリア、頭に血が昇ってて」
「大丈夫よ。もうじきその血も流れなくなるんだから。あんた、死にたいんでしょ? そう掲示板にも書いていたじゃない」
「掲示板?」
「闇サイトよ。あたしそのサイトの管理人なの。あなたの名前を聞いてすぐにピンときた。『聖母』ってあなたのペンネームよね? 殺してくださいって、言ったわよね? だから望み通りにしてあげるわ」
 
 マリアは唇を震わせ、動揺を隠せぬように眼球を動かした。
 
「そんな、それはマリアじゃなくて……助けて……助けて芹さんっ」
 
 確認した芹の顔は、きつねの面の如く表情を持たず、マリアの助けを乞う声にも微動だにしない。千聖は笑う。
 
「なに、あんた芹の治癒能力とやらにまだ夢見てんの? 前に野中が言ってたように、あんなの手品かなんかに決まってんじゃない。それにそんな力あるなら、あたしの顔を先に治してもらいたいわ」
「なんでよぉ……だってあの時はっ」
 
 だがマリアは咳き込み、それ以上の言葉を発せない。
 
「あら、案外早かったわ」
「な、にを……」
「このナイフにはね、ヒ素なんか比じゃない毒を塗っておいたの。もう少しおしゃべりできるかと思ったけど、終わりね」
 
 マリアは遠くなっていく耳の代わりに、唯一無事な左目で状況を追った。
 
 千聖の持つペインティングナイフの先は、未だ執念深くマリアに向けられている。
 
(何をしているの?)
 
 権堂は大袈裟な身振り手振りで必死に何かを訴え、彩美は芹に詰め寄っていた。
 
(どうして助けてくれないの?)
 
 海里は佐和子に顔を寄せ、何かを耳打ちしている。
 
(何を言っているの? ねえ、誰なの?)
 
 いよいよ、限界だった。
 
 目の奥からぶわっと何かが溢れる。途端に視界が暗転し、鼻や耳からは細い線となって血がポタポタ落ちた。マリアは口を開けたまま、何も見えなくなった世界に身体の震えを止める。そして一言、絞り出すように息を吐いた。
 
 
「裏切りもの……」
 
 
 倒れ込むマリア。その顔にはもう正気はなく、だらんと口から垂れる舌は、床に付くほど筋力を失っていた。
 
 千聖はナイフを床に落とすと、懐から取り出した注射器を口に突っ込み、液体を流し入れる。
 
「あたしはこの整形のおかげでね、毎朝痛み止めを飲まなきゃならない身体なの。これはその強力版。薬もね、薄めなきゃ毒と一緒なのよ」
 
 段々と痙攣を起こす千聖の様子に、皆一斉に彩美を見るが、彼女はなす術なく首を振るばかり。
 
「あぁ……すっきりした。おしまい。まあこんな顔じゃ、どのみち生きてる価値ないからね」
 
 どんな毒だったのかはわからない。ただ千聖の死に様は、顔面が崩壊したそれとは比較にならないほどの、無残なものであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

処理中です...