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真相編
女×女
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「江畑さんが佐和子さんの背中にペインティングナイフを刺し直したのは、恋人の早船暁人さんの事件を模したということですよね」
「そうですね。しかしあの行為は同時に、江畑マリアの自尊心を保つためのものでした。彼女が今回の契約で望んだ報酬は、一風変わったものでしたから」
彼女の望み。それは——
“早船暁人への自身の愛を潔白なものにすること”
「まだ成人にも満たない彼女は、自身の身の振り方を考えあぐねていた。なぜなら段田に殺された筑田恵と、その犯人にされた早船暁人。ふたりは正真正銘、間違いなく恋人同士だったからです」
マリアもまた、自身の運命に絶望したひとりであった。早船暁人の恋人だと思っていたのはマリアの独りよがりで、実際は暁人に付き纏うだけの迷惑な存在でしかなかったマリア。その恋人の恵に幾多の嫌がらせを繰り返し、その行き過ぎた行為が原因で恵は命を落とす。
「江畑マリアは筑田恵の連絡先を卑猥な闇サイトに流しました。『誰か私を殺してください』そう文言を添えて。その投稿を鵜呑みにしたのが段田です。彼女は自分の罪の所在を、誰にでもいいからなすりつけたかったのです」
館に来たのが大柳勝紀でなくその妻、相澤光正でなくその娘であることをすんなり受け入れたのがその証拠だ。マリアは正義の鉄槌を自身が下すことで、自責の念を有耶無耶にしていたのだった。
「それってまさか、千聖さんが言っていた闇サイトですか? じゃあ、そこに江畑さんの名前を投稿したのって」
「大柳佐和子です。考えようによっては、江畑マリアの投稿に自分の息子が焚きつけられた、そう取れなくもないですからね」
彩美は混乱していた。今回の館での出来事は、みえない糸で雁字搦めだ。頭の中でつながらない情報を渇望するように、彩美はテーブルに身を乗り出した。
「それじゃあ相澤さんは? 彼女はどうしてこんな契約を? ……あ。ごめんなさい私、不謹慎にズケズケと」
彩美は真相を知るたび背中に冷たいものを感じつつも、その先の事実を確かめずにはいられない。芹は普段通りの穏やかな表情だ。
「相澤千聖の報酬は正真正銘、お金でした。お察しの通り、彼女は整形手術に依存し、お金はいくらあっても足りなかった。彼女にお支払いする予定だった金額は、30日で500万円。これは正直、あんなことにならなければ、素直にお支払いしていたでしょうね」
彩美の脳裏に、あの日の悲劇が蘇る。それを振り払うように、彩美は間を開けずに芹に聞いた。
「500万円って、他の方に比べてかなり少ない、ですよね」
「そうですね」
「相澤さんの人生は、芹さんの契約において低価値だったということですか?」
芹はゆっくり首を横に振った。
「誤解なさらぬよう。500万円は決して低い価格ではありません。段田慎之介に提示した1000万、野中海里に提示した2750万の数字がそもそも破格なのです。おふたりにはどうしても、この契約に参加していただく必要がありましたから」
どうして——そう口にしようとして、彩美はふと気づく。きっとこの先にある事実は、自分の想像を超えてくるに違いない。何故なら芹の執念は、他の誰より野中海里に集中しているのは明白だからだ。
躊躇する彩美に、芹はフッと笑みを浮かべる。
「大丈夫ですよ。あなたには契約とは別に、ちゃんとお礼をお支払いするつもりですから」
「あ、いや! そんなつもりじゃ。ただ、野中さんの罪はその、何だったのかなって」
「そうですね。それが一番気になるところと思います。ですがその前にもうひとり、権堂薫の契約内容をお伝えする必要が」
「あ」
忘れていた。彩美のその反応に、芹は再び頬を緩めた。
「権堂薫。彼の罪は週刊誌に事実を書き損じたことの他にもうひとつ」
「もう、ひとつ」
「はい。彼は人を轢き逃げしたことがあるのです」
「そうですね。しかしあの行為は同時に、江畑マリアの自尊心を保つためのものでした。彼女が今回の契約で望んだ報酬は、一風変わったものでしたから」
彼女の望み。それは——
“早船暁人への自身の愛を潔白なものにすること”
「まだ成人にも満たない彼女は、自身の身の振り方を考えあぐねていた。なぜなら段田に殺された筑田恵と、その犯人にされた早船暁人。ふたりは正真正銘、間違いなく恋人同士だったからです」
マリアもまた、自身の運命に絶望したひとりであった。早船暁人の恋人だと思っていたのはマリアの独りよがりで、実際は暁人に付き纏うだけの迷惑な存在でしかなかったマリア。その恋人の恵に幾多の嫌がらせを繰り返し、その行き過ぎた行為が原因で恵は命を落とす。
「江畑マリアは筑田恵の連絡先を卑猥な闇サイトに流しました。『誰か私を殺してください』そう文言を添えて。その投稿を鵜呑みにしたのが段田です。彼女は自分の罪の所在を、誰にでもいいからなすりつけたかったのです」
館に来たのが大柳勝紀でなくその妻、相澤光正でなくその娘であることをすんなり受け入れたのがその証拠だ。マリアは正義の鉄槌を自身が下すことで、自責の念を有耶無耶にしていたのだった。
「それってまさか、千聖さんが言っていた闇サイトですか? じゃあ、そこに江畑さんの名前を投稿したのって」
「大柳佐和子です。考えようによっては、江畑マリアの投稿に自分の息子が焚きつけられた、そう取れなくもないですからね」
彩美は混乱していた。今回の館での出来事は、みえない糸で雁字搦めだ。頭の中でつながらない情報を渇望するように、彩美はテーブルに身を乗り出した。
「それじゃあ相澤さんは? 彼女はどうしてこんな契約を? ……あ。ごめんなさい私、不謹慎にズケズケと」
彩美は真相を知るたび背中に冷たいものを感じつつも、その先の事実を確かめずにはいられない。芹は普段通りの穏やかな表情だ。
「相澤千聖の報酬は正真正銘、お金でした。お察しの通り、彼女は整形手術に依存し、お金はいくらあっても足りなかった。彼女にお支払いする予定だった金額は、30日で500万円。これは正直、あんなことにならなければ、素直にお支払いしていたでしょうね」
彩美の脳裏に、あの日の悲劇が蘇る。それを振り払うように、彩美は間を開けずに芹に聞いた。
「500万円って、他の方に比べてかなり少ない、ですよね」
「そうですね」
「相澤さんの人生は、芹さんの契約において低価値だったということですか?」
芹はゆっくり首を横に振った。
「誤解なさらぬよう。500万円は決して低い価格ではありません。段田慎之介に提示した1000万、野中海里に提示した2750万の数字がそもそも破格なのです。おふたりにはどうしても、この契約に参加していただく必要がありましたから」
どうして——そう口にしようとして、彩美はふと気づく。きっとこの先にある事実は、自分の想像を超えてくるに違いない。何故なら芹の執念は、他の誰より野中海里に集中しているのは明白だからだ。
躊躇する彩美に、芹はフッと笑みを浮かべる。
「大丈夫ですよ。あなたには契約とは別に、ちゃんとお礼をお支払いするつもりですから」
「あ、いや! そんなつもりじゃ。ただ、野中さんの罪はその、何だったのかなって」
「そうですね。それが一番気になるところと思います。ですがその前にもうひとり、権堂薫の契約内容をお伝えする必要が」
「あ」
忘れていた。彩美のその反応に、芹は再び頬を緩めた。
「権堂薫。彼の罪は週刊誌に事実を書き損じたことの他にもうひとつ」
「もう、ひとつ」
「はい。彼は人を轢き逃げしたことがあるのです」
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