7人の聖女プラス1

七転び早起き

文字の大きさ
36 / 59
ラバニエル王国編

第31話 冒険者ギルド(2)

しおりを挟む
 冒険者ギルドでウイスキーの製造方法を登録しようとエルフィーさんと私はギルド長ダルタンさんの元へと訪れた。そしてエルフィーさんが取り出した20年物のウイスキーに食い付いたダルタンさんであった。

「おいおい、その酒はいったいなんなんだ。エルフィー、笑ってないで教えてくれよ」

 仕事中だったダルタンさんは、その書類を放り出して私達の前に座るとエルフィーさんが注いだウイスキーに目が釘付けになっていた。
 そのダルタンさんを気にすることなく、エルフィーさんはコップを手に持ちゆっくりと口まで持ってく。そして幸せそうな顔をして「ゴクリ」と一口飲んだ。

「くぅ~、この香りと深くまろやかな味わい。そして喉と胃にガツンとくる感覚。何度飲んでも最高じゃわい!」

 その一部始終を見たダルタンさん。恨めしそうにエルフィーさんを睨み付けて言った。

「ぐぬぬ、お前がそこまで言う酒だ。さぞかし旨い酒なんだろう。そろそろ意地悪はやめて教えてくれないか?」

 それを聞いたエルフィーさんはもう上機嫌だ。

「ふははは、すまんすまん。まあ取りあえずお前も飲んでみろ。説明はそれからじゃ」

 エルフィーさんはそう言って、アイテム袋からコップを2つ追加で取り出した。そして大事そうに小樽を持ってそのコップにウイスキーを注ぐと、ダルタンさんの前とドアの側で物欲しそうに見ていたメリーナさんに「ほれ」と言って手渡した。

「まずは香りを楽しめ。そして口に含み酒の旨さを感じろ。それで最後に飲んで喉と胃にくる酒精の凄さを味わえ」

 2人はエルフィーさんの言葉に頷いてまず香りを楽しんだ。

「こ、これはなんて芳醇な香りなんだ。とても複雑で言葉で言い表せないほど凄まじい」

「ほんと、とても素敵な香りですね」

 そして次に口に含むと2人の表情は次々と変わっていった。それは驚き、喜び、幸福、納得だ。それから最後にウイスキーを飲んで同じ表情を繰り返す2人であった。

「こりゃあすげえ‥‥‥」

「ほんと、すげぇ‥‥‥」

 ウイスキーを飲んだダルタンさんはコップに残る琥珀色のウイスキーに目を向けたままそう呟いた。そしてメリーナさんは雑な言葉使いになっている事にも気付かず惚けていた。

 エルフィーさんと私はその2人の様子を見て悪党ボスと三下チンピラ顔になっていた。(もうお前らはこれ無しでは生きていけない体になってしまったのだよ。ふはははは!)

「その酒はウイスキーだ。今日はその製造方法の登録に来たんじゃ。メリーナさん、悪いが魔法紙を準備してもらえるか?それとダルタン。お前はいつまでウイスキーを眺めとるんじゃ、さっさと動け!」

「あ、ああ、すまん。あまりにもこの酒が衝撃的で‥‥メリーナ、エルフィーが頼んだ魔法紙だが急いで持ってきてくれ」

「は、はい。判りました!」

 惚けていたメリーナさんは正気に戻り部屋を出ていった。そしてダルタンさんはエルフィーさんに向かって質問を始めた。 

「それで登録してからはどうするんだ?誰がこの酒、ウイスキーを造るんだ。そして販売はするのか?」

「造るのはこのワシじゃ」

「エルフィーさん!」

 ダルタンさんの質問に即答するエルフィーさん。(武器屋を辞めないと言ったのに‥‥)

「奏、すまんな。ワシはこのウイスキーに心底惚れたんだ。だから他のヤツに任せる事など出来んのじゃ。だが奏とは約束したから武器屋は続ける。ただその時間が少なくなる。それで許してはくれないか?」

(そこまで言われると‥‥‥どうしよう‥‥‥)

 エルフィーさんの言葉に私が悩んでいるとダルタンさんが話し掛けてくる。それは私の悩む気持ちを軽くしてくれるものだった。

「奏、と呼び捨てでいいよな。あのな、奏。コイツは気に入った相手にしか売らない頑固者として有名だ。だから元々造る数も少なく酒を飲んでる時間のほうが長いくらいなんだ。
 そして名匠と呼ばれるコイツが造る武器だ。造る数が少なくてもその武器は高価で売れるから使いきれないほどの金を持っている。趣味のないコイツは酒を買うくらいしかないしな。
 だからその酒を飲む時間が造る時間に変わったと思えばいいんだ。気にすることはない」

 その言葉を聞いた私はエルフィーさんの顔を見る。とても真剣で心を決めた男の顔だった。そして私を見てエルフィーさんは頷いた。

「まあそこまで言われたら仕方ないか。でも絶対に武器屋は辞めちゃ駄目だからね?」

「ああ、約束は守る。ワシは約束を破ったことはない。なあ、ダルタンよ」

「そうだな。コイツは頑固で真面目な男だからな。それにウイスキーだけならそんなに時間を掛けることはないんじゃないか?まだ製造方法を聞いてないから断言は出来ないがな」

 ダルタンさんはエルフィーさんを見て「どうなんだ?」と聞いていた。

「ああ、火酒からウイスキーを造るからそんなに時間は取られることはないじゃろ。火酒は故郷から仕入れるつもりじゃしな。あとは樽に入れて寝かせるだけじゃから、樽の選定や詰め替え作業が終わればあとは保管したウイスキーの管理だけになる筈じゃ」

 そう言ったエルフィーさんとダルタンさんは「なら問題ない」と安心顔だ。

「でもなぁ、ウイスキーってあれだけじゃ無いんだよね。それと他の種類だけど旨い酒もまだまだあるんだよねー」

「「まぢか!!」」

 2人で「問題ない、問題ない」とお互いの顔を見てニコニコして話していたところ、私の爆弾発言に驚き顔で2人仲良く一緒に振り向く髭もじゃとハゲ。

「でも教えないよ?」

「「まぢかーーー!」」

その髭もじゃとハゲは2人仲良く叫び、そしてソファーの前にあるテーブルに突っ伏した。

(お前らオモれーな。ナイスコンビ!)

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...