7人の聖女プラス1

七転び早起き

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ラバニエル王国編

第48話 さあ第2ラウンド開始だ

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 私は無表情で街の中を歩く。脇目も振らずただ前を見てテクテクと。

「おい、あれ大人買い少女だぜ。今日はなんかいつもと雰囲気違うな。獲物が見つからなかったのか?ぶふっ、腹痛てぇ」

「いや、あの目をよく見ろ。半目になってるだろ?あれは獲物を探してる目だ。たぶん今日は大物狙いだな。纏うオーラが違う。ぐふっ」

 それでも私は脇目を振らずテクテクと歩く。

『紫電』←とっても小さな声なのだ。

 そして私から極細の紫棘がほとばしり、頭上高く伸びるとオッサン2人組の頭のつむじ目掛けて降下し突き刺さった。

「「痛ってー!なんじゃこりゃ!」」

『峰打ちだ』←ささやき声なのだ。

 そして私は痛がり不思議がる2人を見ることなくテクテクと歩いていく。ただ気が少し晴れてその足取りは少しだけ軽くなっていた。

 それから私はしばらくの間留守にするのでその報告をする為にカルビーンお爺さんの家に向かっていた。そして家に着き中に入ると誰も居なかった。(もう昼過ぎたからカルビーンお爺さんは仕事終わってる筈なんだけどな?あとサーシャさんは朝に用事があるって出掛けてたけど、まだその用事が終わらないのかな?)

 私は仕方なく手紙を書いて台所のテーブルの上に置いた。

『俺は森賊王になる!』

(ふふ、イカすだろ?安心してくれ。ちゃんと真面目な事も裏面に書いてあるのだ)

 そして私は満足して玄関まで歩きドアを勢いよく開けた。

「バタン!」

 少しだけ激しい音がしたが普通に開いた一枚扉のドア。(なにか物足りない気がする)
 そしてその物欲しげな私の前に息を切らせたサーシャさんが居た。

「はぁはぁ、なんとか間に合ったみたいね。それじゃあ行くわよ」

「ん?なにごと?」

 そんな私の疑問に答えることなく私の手を握りどこかへ連れていこうとするサーシャさん。私は「ん?ん?」と首を左へ右へと傾げながら連行されていった。そして歩くこと長時間。私達は第三城壁の外にやって来た。
 そこは見渡す限りの大草原。膝下まである草が風になびいて気持ち良さそうに揺れている。そして空では小鳥が舞い可愛い鳴き声で私の心を癒してくれていた。

「ちょっと待っててね。今から呼ぶから」

「ん?」

 そう言ったサーシャさんは胸に掛けていた首飾りを手に取り口に持っていく。その首飾りをよく見ると角笛だ。そしてその角笛を吹くサーシャさん。

「ピューー」

 その角笛の音は微かに聞こえる音でカン高いものだった。そしてしばらくすると空から巨大な物体が舞い降りてきた。その姿は大きな翼を持ち尾が長く、鋭い顔をした竜であった。

「もしかして飛竜!!」

 私は驚きサーシャさんの顔を見た。そのサーシャさんはニヤリと笑う。

「ふふ、聖女の森に行くんでしょ?」

(あらら、バレてたのね)

「サーシャさん、飛竜に乗れるの!あれ?でももう乗れる飛竜は居ないってカリーナさんが言ってなかった?」

「この飛竜は私が騎士団に居た時の相棒ね。それでこの子は我が儘な子でね、私以外をマスターとして認めないの。そして手懐けようと何人も挑戦したんだけど全員返り討ちで怪我だらけ。それで騎士団から外されたの。
 それからは王国が運営する牧場でのんびり暮らしてたのよ。偶に牧場の牛をおやつにしてね。もうお茶目な子なんだからー」

 そう言って飛竜の鼻先を撫でるサーシャさんはニコニコ顔だ。(それって駄目なんじゃない?エサじゃないんだから)

 それからサーシャさんは腰に下げていたアイテム袋から手綱や鞍を取り出し飛竜の背に回り取り付け始めた。そのサーシャさんに私は聞いてみる。

「サーシャさん、この飛竜の名前はなんて言うの?」

 そのサーシャさんは待ってましたとばかりに微笑み作業を止めて話してくれた。

「この子の名前は『7人の聖女物語』の本から選んで決めたのよ」

「へぇー、そんな本があるんだ」

「あら、知らなかったのね。この世界の人なら子供の時に1度は読んでる人気の物語なの。それは7巻あって別に外伝が1巻あるの。その外伝が『7人の聖女が好きなもの』ってタイトルでね。7人共に大好きって書いてあったからそれをこの子の名前にしたのよ。ただ、説明文が無かったから何の事だか判らないんだけどね。でも響きが良くて強そうな名前なの」

(ほほー、それは1度読んでみたいな)

「それでこの子の名前は『ケンタッキー』なの。ね?強そうな名前でしょ?」

(ぶふっ!なんてこった。それと伝説の7人の聖女は遥か昔の事だよね?これはちょっと調べてみる必要があるな‥‥)

「うん、美味しそうな名前だね」

 そんな私はサーシャさんに返事をしてケンタッキーの元へと歩いていった。そのケンタは私を鋭い顔で見ている。(ケンタッキーは長いからもうケンタでいいよね?)

 それでも私は気にせず鼻先まで近付き手を伸ばした。そしてその行為に気づいたサーシャさんは慌て叫んだ。

「奏ちゃん!この子は誰にも懐かないって言ったでしょ!!って懐いてるわね‥‥」

 そのケンタは私に鼻先を撫でられ嬉しそうに「グルル」と喉を鳴らしていた。(おお、おお、可愛いヤツめ。ここがええのか?それともここか?うひひひひ)

「このケンタはとても可愛いね」

「はぁ、奏ちゃんには驚かされてばかりね。普通の子供は怖がって近寄りもしないのよ?」

 そう言って呆れ顔になるサーシャさん。(えー、こんな可愛いのに。ねー、ケンタ)

 そして準備が整いサーシャさんと私はケンタに乗り込んだ。

「さあ、それじゃあ聖女の森まで行くわよ。必要な物は準備してアイテム袋に入れてるからこのまま出発出来るわ。しっかり鞍にある取っ手を掴んでてね」

 このケンタに乗せた鞍には安全ベルトと取っ手が付いている安全設計だ。私はその取っ手をしっかりと握りサーシャさんに声を掛けた。

「サーシャさん、聖女の森に行く前に城に寄ってくれるかな。ちょっと用事があるの」

「そうなの?なんの用事?」

 そう言って振り向くサーシャさん。そのサーシャさんに向かって私は言った。

「その城で第2ラウンドを開始するの」


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