5 / 13
その3 父との会話
しおりを挟む「お父様、大切なお話があります」
長期休暇に入り、セシリアは領地に戻った。あの夜会から3カ月が経っていた。来月には学園の2年生に進級する。
思いつめた様子のセシリアに、父親も笑顔ではなくまじめな顔に戻り、屋敷内の執務室にある応接スペースへセシリアを誘導した。
「何だい?大切なお話というのは」
「クリスお兄様との婚約を解消していただきたいのです」
セシリアの父マイケルは、おや?という顔をした。前に会ったときはクリスを慕っていたはずのセシリアが『解消』などというのが不思議であった。
「お兄様には、私ではない沢山の愛する方がおります。私は貴族では少数派ですが、結婚したらお父様とお母様のような一対一で愛し合う夫婦になりたいと思っていました。だから、私と婚約しているのに沢山の女性達と浮名を流すお兄様は、到底受け入れられそうにありません」
「知って、いたのか…」
マイケルは眉間を押さえ、溜め息を漏らした。
セシリアは無表情のまま、淡々と話を続けた。
「王都ではかなり有名なお話でしたよ。領地にいらっしゃるお父様がご存じなほどですから…。私は婚約者に浮気される程度レベルの魅力のない令嬢だと思われているでしょうね」
「そんなことはない!セシリアは素晴らしい、自慢の娘だよ。セシリア…、クリスのアレは全て遊びだよ。気にしなくていい」
マイケルはクリスの女遊びを知っていた。
そしてセシリアの学園入学前に、クリスからセシリアが好きだがまだ幼いセシリアには手を出せないし傷つけたくない、と話をされたことがあった。
男の思春期の性欲については理解しているつもりだが、まだ少女と言っていい年齢の娘に手を出すのは流石に早いと思ったマイケルは、どうにか我慢をして欲しい、娘のことは結婚までは手を出さずにいて欲しいと頼んだ。
セシリアを溺愛するクリスに限って婚約解消、とは考えにくいが万が一の時、娘を傷物にして欲しくなかったのもある。それが、他の女で欲を発散するようになったと知り、マイケル自身複雑な心境であり頭を悩ませていた。
「セシリア、結婚前の火遊びだ。大目に見てあげて欲しい」
「どうして?」
「セシリアを傷つけないためなんだ。それに…」
「それに?」
「結婚前に経験を積むのは、悪いことじゃない」
「でも、私は嫌です。お兄様のように沢山の女性と関係を持つような男性なんて、気持ち悪いし…ゾッとします。私を傷つけないためって仰いましたが、既に傷ついています。どうか、クリスお兄様との婚約を解消してください」
「待て、クリスには言っておく。結婚後はセシリア一筋になり大切にしてくれるはずだ。今は、大目に見てやってほしい」
二人がこれまで幼馴染として、婚約者として仲良く過ごしてきたことを知っているマイケルは、このまま婚約解消をしてしまっていいのか現状では判断が出来なかった。
クリスのセシリアへの深い思いや苦悩も知っていたし、セシリアのクリスへの恋心にも気付いていた。
ただ、今のセシリアにクリスへの思いが残っているようには見えなかった。この半年の間に何があったのか、じっくり見極めたいと思ったのだが…。
「…分かりました。クリスお兄様は、私のために沢山の女性たちと経験を積み、愛を交わしていらっしゃるのですね。それを大目に見ろ、と…」
セシリアの目から感情が消えた。セシリアの中で、大好きな父親が大嫌いな父親になった瞬間だった。
「セシリア…」
「もう、いいです。お父様のお考えがよく分かりました」
「クリスは、本当にセシリアを大切に思っているんだよ」
「もう、分かりました。お忙しい中、失礼いたしました」
そう言って、セシリアは父親の執務室から出て行った。母親とは貴族では珍しい恋愛結婚だと聞いていただけに、父親まで貴族らしい考え方をしていた事が心底不快だった。
「私にはクリスお兄様と結婚後に愛を育む…なんて無理…」
セシリアは一筋の涙を流した。一緒にクリスへの思いも涙と一緒に体の外に零れ出ていくような感覚がした。
婚約解消できないのなら、クリスとは「貴族らしい」夫婦となるしかない。決して心を預けたりせず、義務、仕事としてクリスの妻となり後継を生む。
セシリアの恋心や愛し愛される夫婦への理想や憧れは、この時に壊れて無くなったのかも知れない。
551
あなたにおすすめの小説
魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました
ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
夫婦の恋は結婚のあとに 〜二度目の初夜とクリスマスの贈り物〜
出 万璃玲
恋愛
「エーミル、今年はサンタさんに何をお願いするの?」
「あのね、僕、弟か妹が欲しい!」
四歳の息子の純真無垢な願いを聞いて、アマーリアは固まった。愛のない結婚をした夫と関係を持ったのは、初夜の一度きり。弟か妹が生まれる可能性は皆無。だが、彼女は息子を何よりも愛していた。
「愛するエーミルの願いを無下にするなんてできない」。そう決意したアマーリアは、サンタ……もとい、夫ヴィンフリートに直談判する。
仕事人間でほとんど家にいない無愛想な夫ヴィンフリート、はじめから結婚に期待のなかった妻アマーリア。
不器用な夫婦それぞれの想いの行方は、果たして……?
――政略結婚からすれ違い続けた夫婦の、静かな「恋のやり直し」。
しっとりとした大人の恋愛と、あたたかな家族愛の物語です。
(おまけSS含め、約10000字の短編です。他サイト掲載あり。表紙はcanvaを使用。)
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
悪妃になんて、ならなきゃよかった
よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨
恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……
似合わない2人が見つけた幸せ
木蓮
恋愛
レックスには美しい自分に似合わない婚約者がいる。自分のプライドを傷つけ続ける婚約者に苛立つレックスの前に、ある日理想の姿をした美しい令嬢ミレイが現れる。彼女はレックスに甘くささやく「私のために最高のドレスを作って欲しい」と。
*1日1話、18時更新です。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる