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その5 卒業後〜結婚まで
しおりを挟む時が過ぎ、セシリアは学園を卒業した。卒業後からは結婚式の準備をしながら将来の侯爵夫人としての仕事を学んだ。週2回侯爵邸に通い、王都に滞在中の現侯爵夫人、クリスの母から直接学ぶ。昼間に通っていたのでクリスと顔を合わせることはほとんどなかった。
ただ、18歳になったことでセシリアも社交界デビューをしたため、何度か王城での夜会へ出席した。当然エスコートはクリスだった。
結婚式も目前に迫り、愛するセシリアと夫婦になれることで完全に浮かれたクリスは、今までに見せたことのないような蕩けるような笑みを浮かべてセシリアを伴った。挨拶を終えると、セシリアは友人と過ごし、クリスも友人や仕事関係の者たちと談笑する。
「あら、あなたがクリスの婚約者さん?」
友人がドリンクを取りに離れた隙をついてセシリアは話しかけられた。
「はい。初めまして、ウォリス伯爵家のセシリアと申します」
「随分可愛らしい方なのね。私はハローズ侯爵の妻のルイーズよ。あなたの婚約者サマとは随分仲良くさせてもらっているの」
「クリス様と仲良くしていただいている、のですね…」
「そうよ。それにしても、その細い体では色々と心配ですわね。クリスは激しいほうだから、結婚式までに体力作りをお勧めするわ」
「…助言、有難うございます」
ルイーズは言いたいことを言ってスッキリしたのか、勝ち誇った笑みを浮かべてセシリアから離れ別の友人の元へ去っていった。
「何アレ…物凄く品のない発言ね」
「ハローズ侯爵家のルイーズ様よ。沢山の独身男性と噂のある方よ」
ナナリーとミラが戻ってきた。どうやら、先ほどの会話が聞こえていたようだ。
「そうね。スタイルも抜群だし、誘われたらコロッといっちゃうかもね」
「セシリア、あんなこと言われて腹が立たないの?」
「うーん…、不思議と立たないのよね」
「もう、本当に婚約者に興味がないのね」
「そうなのかしら?」
「そうよ」
3人はクスクスと笑いあう。セシリアはあの夜会を乗り越え、2年に進級した後から本当に強くなった。婚約者の噂話に傷つく様子もなく、勉強に生徒会活動にただ一生懸命に学生生活を過ごした。
社交界デビューをして夜会に参加するようになったセシリアだが、過去にクリスと関係を持った女性からアドバイスを受けるのはコレが初めてではなかった。
どうしてこの様なマウントを取るような女性ばかり選んだのか、とクリスの趣味の悪さに辟易はしていた。普通は割り切った関係だと自覚し、婚約者に配慮すべきではないのかと女性たちにも呆れていた。
実際にはセシリアが社交界デビューをして、噂の通り妖精のような可憐な見た目をしていた上、クリスのあからさまな溺愛、そして今までのように誘いに乗ることが全くなくなり、その目がセシリアだけを情熱的に見つめているのに嫉妬をしたからだった。
少し疲れが出たところで再びセシリアに声がかかった。
「リア、今晩は」
声のする方を見ると、少しだけ懐かしい顔に出会えた。途端にセシリアが笑顔になり声を上げる。
「ハリー!久しぶりね。卒業式以来かしら?」
「そうだね、久しぶりだ。リアのドレス姿、とても素敵だね」
「有難う。ハリー、仕事は順調?」
「まだまだ新人だから、ついていくので精一杯だよ。でも、凄くやりがいがあるし頑張るしかないから必死でしがみついてるところ」
「ふふっ、ハリーなら大丈夫よ。応援してるわね」
軽快で気安いやり取りに、近くにいた友人達は驚く。セシリアが飾り気のない素の笑顔で会話をしていたことから、とても仲のいい二人であると察することができた。
「セシリア、もしかしてこちらは生徒会長さん?」
「そう!2年生の時から生徒会が一緒でね。仕事が多くて本当に大変だったけど、乗り越えてきた仲間なの」
「こんばんは。リアがよく話していた特別仲のいいお友達だね。生徒会長をしていたオートン侯爵家の次男、ハリスです」
ハリスはとても柔和な雰囲気を持った優しい顔立ちの青年で、侯爵家と身分が高いはずなのに驕った雰囲気が全くなかった。
「こんばんは、パテル伯爵家のミラです。セシリアとは1年生の時から仲良くしています」
「ネヴィル子爵家のナナリーです。同じくセシリアとミラと、あと今日は参加しておりませんがヴェストリス公爵家のエリザベス様と4人でとても仲良くさせていただいています」
自己紹介を終えたらそのまま学園時代の話で盛り上がった。ミラとナナリーもハリスの柔らかく話しやすい雰囲気に会話が弾んだのだ。
「ふふっ、セシリアがこんなに笑顔でお話しする理由が分かった気がするわ」
「ほんと、ハリス様のお話はとても面白いわ」
「でしょ?行事での裏話も沢山あるの!ハリーと一緒に先生に交渉したり、大変だけど楽しかったわね」
「そうだね、リアは暴走しがちだから止めるのが本当に大変で…」
「もー!ハリーだって!」
そのまま会話は盛り上がり、セシリアはとても楽しい気分で夜会を終えた。帰りはクリスの馬車で送ってもらい、タウンハウスへ帰る。
「セシー、今日は随分楽しそうだったね」
「そうですね。学園時代の友人に会えましたから」
「あの一緒にいた男性は?」
「学園時代、生徒会長を務めていた方です。私は副会長をしておりましたから、関わりがありました」
「そうか。セシーは生徒会、頑張っていたもんね」
「…そうですね」
セシリアはクリスとの会話を昔ほど楽しいと思えなかった。笑顔の裏で沢山の女性と関係を持ち、セシリアにも愛を囁くのだ。こんなに信頼できない男に自分のことを話したくないとさえ思っていた。
そのまま会話が弾むこともなくタウンハウスに到着し、クリスのエスコートでセシリアは邸内に入る。出迎えた家令に挨拶をし、クリスは帰路についた。
クリスは、セシリアがどこか素っ気ないことに気づいていた。それがいつからだったかは分からない。
ただ、セシリアの学園時代、確か2年生に進級して間もなくセシリアの父から話があると呼びだされ1度だけ話をしたことがあった。
「セシリアは君の女性関係に気づいて、婚約解消を申し出てきた。行動を改めないようならセシリアの気持ちを尊重するつもりだ。どうか、セシリアの気持ちを考え慎重な行動をとって欲しい」
クリスにとってはまさに青天の霹靂だった。うまくやっていたつもりだし、まさか社交界デビューがまだのセシリアの耳に入るとは思っていなかったのだ。
「セシリアが、婚約解消を望んでいるのですか?」
「そうだ。だが、結婚前ではあるし大目に見るようにと、結婚後は大丈夫だと説得して一応は引き下がってくれた」
「…そう、ですか」
「今後は行動に気を付けて、セシリアを大事にしてくれ」
「分かりました」
セシリアが気づいていたと知り、クリスは冷汗が止まらなかった。どうしようもない性欲を後腐れのない女たちで発散していたが、それも控えないと本当にセシリアを失ってしまう。
愛しているのは昔からセシリアだけで、女たちはセシリアの身代わりだ。数年後に結婚するまでの繋ぎであり、クリスにとっては練習台でもあった。
これが不誠実な行動なのは分かっていたが、一度女の体を知ってしまったクリスに、禁欲して過ごすというのは相当堪えるものだった。見目のいいクリスはとにかく誘惑が多い。
セシリアの父と話した後は、女を抱く回数を減らし、より見つからないよう慎重に行動した。それはセシリアが卒業するまで続いた。
セシリアの父に忠告を受けた後、セシリアの様子を観察していると、最初は少し距離を取られていたように感じ、己の行動を後悔し反省したが、数か月すると笑顔を見せてくれるようになり、前のように話もしてくれるようになった。
クリスはそれで許されたと思い、頻度は格段に減ったが、また女性と関係を持つようになったのだった。
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