【完結】SFゲームの世界に転移したけど物資も燃料もありません!艦隊司令の異世界宇宙開拓紀

黴男

文字の大きさ
16 / 247
序章

016-憤怒

しおりを挟む
それから、二人の生活が始まった。
星空の宮殿は何もかもが二人の常識からかけ離れていて、暑くも寒くもなく、空気が澱む事もない事に気づいたルルは驚く。

「これって、すごい事だ...!」

自分たちの住む場所は冬は芯まで通るような寒さで、夏はじっとりと汗ばむほどの暑さだった。
換気をしなければ体調も悪くなるし、定期的に空気を入れ替えていた事をルルは思い出す。

「すごい! すごいすごい!」

同時刻、ネムもまた驚いていた。
お腹が空いたのでご飯を食べられる場所を教えてほしい、と頼んだところ、外周リングの簡易食堂に案内されたのだ。
森林を伐採した分のバイオマスは既に運び込まれており、ネムの目の前で肉が中心の「日替わり定食」が生成されたのだ。

『我が主人は、あなた達を歓待するようにと命ぜられました。一月ほどこちらに滞在していただくことになりますから、毎日別のものをお出しします』
「凄いんだね! でも、どうやって作ってるの?」
『.......知りたいですか?』
「はいっ!」
『回収したバイオマスを分解し、内部組織を結合させ、既存の食糧の生体分子パターンへと移行させるプロセスを低時結合空間で高速処理し――――』
「あわわ.....」

オーロラの解説に、ネムは何が何やら分からず目を回す。
だが、オーロラもその反応を見て、ネムたちの知識量の差異を測ったのか、

『――――植物から取った細胞を食べ物に変えています』
「す、凄い...!」

細胞がなんなのかネムには分からなかったが、「取る」という単語から何かを察したようで、ほぅーっとした顔で感心を示した。

『さあ、召し上がってください。お口に合うかは分かりませんが』
「わーい!」

ネムは目の前のご馳走に手をつける。

『食器の扱い方のレクチャーを提案しておきましょう』

手掴みで食事を頬張るネムを見て、オーロラは声には出さずに思考する。
オーロラにとっては艦隊総司令が大切に扱うように命じた彼女らは、野蛮人同然でありながら賓客だ。
オーロラからすれば獣とそう変わらない存在であるのだが、艦隊総司令は彼女らに価値を見出した。
それがオーロラにとっての全てだった。

「...オーロラ様、この精緻な模様は何なのでしょうか?」

その頃、ルルはというと。
壁に施された無数の線に興味を示していた。

『それは、力場...つまりは、この要塞を守る力の通り道です。それをエネルギーが通過する事により、瞬間的な金属強度を高めています』
「神の御業という事ですね...!」

オーロラはそれを特に否定しない。

「それにしても、ここは宮殿の離れなんでしたよね?」
『はい』
「私達が宮殿に赴くことはできますか?」
『あなた方にはまだ資格がありません』

オーロラは病原菌関連の話題を意図的に避ける。
検体が調査を受けている事を自覚すればストレスの増加に繋がると考えているためだ。

「その資格とは、どうすれば得られるのでしょうか?」
『あと数週間もすれば、主人がお許しになられます。お待ちください』
「わかりました!」

ルルは尻尾を振って喜びを露わにする。

「ネムはどうしていますか?」
『ネム殿は、只今お食事中です』
「おしょくじ...」

ルルのお腹が鳴る。

『空腹ですか?』
「あ...は、はい!」

ルルは顔を赤くしつつ答えた。
空腹を悟られるのは、年頃の乙女にとっては恥ずべき行為だ。

『それでしたら、付近に休憩室がございます。そこで軽食を摂られてはどうですか?』
「あ...ありがとうございます」

ルルは尻尾を振りつつ、オーロラの案内に従う。
そして案内された先は、暗い部屋だった。

「...え? ここは...」

その時、眩い光が部屋を埋め尽くした。
光が収まった時、ルルが目を開けると...

「わぁ...」

辺り一面が、ルルの育った草原のような景色に変化していた。
春のような暖かさと、新芽の香りがルルの鼻をくすぐる。

「凄いです! これも星空の王様のお力なのですか!?」
『空間を擬似的に再現したので、遠くに行きすぎないようにお願いします』
「わかりました!」

オーロラはこの部屋の分子構造を変化させ、テラスと机を用意する。
その上にルルを座らせ、食堂より直接移送したサンドウィッチの乗った皿を下ろした。

「たっ、食べてもいいんですか!?」
『どうぞ...お嫌いでしたか? アレルギーなどはございましたか?』
「あれ...? 多分ないです!」
『そうでしたか』

オーロラは食事をするルルを、じっと観察していた。
そんなこんなで、二人は快適な暮らしを送っていた。






「おい」

俺はオーロラに尋ねる。
というか、詰める。

『艦隊総司令、何のご用事でしょうか』
「お前、意図的に翻訳結果をずらしてるだろ」
『多岐に渡る解釈がございますので...』
「言い訳はいい」

最近はずっと言語の勉強中だが、取り寄せた古文書などを読み進めるうちに、単語の意味がオーロラの示す翻訳結果と異なることを見つけた。
こいつ、何か隠している。

「命令だ、翻訳結果を是正して今までの会話ログを表示しろ」
『分かりました』

翻訳ログを見ると、ふつふつと怒りが湧いてくるようだった。
こいつは、放置しては行けない問題を放置したのだ。

「...お前に教えてないことが一つあったな」
『なんでしょうか?』
「宗教はダメだっ!」

脳裏に、記憶が浮かぶ。
俺たちの人生を滅茶苦茶にした過去が。

「宗教だけはダメだ、特に統治の道具としてそれを扱うのはな!」
『......』
「俺は特定の個人を崇めるのは許さない」

あいつらのせいで、俺たち家族はみんな狂った。
もう同じ轍は踏まない。

『しかし、信仰心を利用しないのであれば、どうやって制御するのでしょうか?』
「放っておけ、近日中にあいつらと会う。話をして、あくまでも協力してくれるだけでいいと帰って伝えてもらう。俺は神なんて、そんなおぞましい存在じゃないからな」

オーロラの演算は大いに乱れているだろう。
艦隊総司令、俺の過去には大きな闇がある。
それを知らないので仕方ないことなのだが...

『神をおぞましいと呼称するほど、あなたにとっては大きなことなのですか?』
「......ああ」

俺は、深く頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

処理中です...