92 / 247
シーズン4-ビージアイナ侵攻編
087-BLACKBIRD
しおりを挟む
その頃。
ガレスを旗艦とする第五分隊は、ジャンプ先の宙域に展開していた。
既に第三分隊が交戦状態に入っており、ガレス内部の天空騎士団は緊張に包まれていた。
「”腕太”はこの戦いについていけるのか?」
「大丈夫さ、お前こそ”板材”で撃ち落とされないようにな」
獣人たちは、自分たちの乗る戦闘機の正式名称を知らない。
それゆえに、互いに戦闘機に名称を付けあっていた。
「..........」
その様子を見ていたのは、紺色の髪の少年だった。
頭の上には、兎のものらしい長い耳が生えている。
「何が腕太、板材だ、馬鹿らしい」
少年の名はアズル。
両親を戦争で亡くし、食いぶちが得られるのならと天空騎士団に志願。
しかしながら、その耳のせいで通常のレシーバーが身に着けられず、整備士となった獣人である。
「あれは”ファウヌス”。腕太なんてダサい名前じゃない。あれも”エインハージ”、板材なんかじゃない」
アズルは呟きながら、自分の手で耳を畳んで格納庫を歩く。
彼は整備士だが、実際の戦闘においては少し違う役割を担っている。
レシーバーが装備できない以上、通信を受けながらドッグファイトを繰り広げる通常の艦載機には乗れない。
そう、通常の艦載機には。
「おい、あれ....アズルじゃねーか?」
「まったく....調子に乗りすぎだ、シン様に特別な機体を与えられておきながら。それが温情だと分かりもせんのか」
アズルはあまり歓迎されていなかった。
シンとしては適材適所の配置をしたつもりだったが、この目つきの悪い少年は、獣人の中では華奢な体つきもあって、人望があまりないのだ。
「.........」
「あっ、アズル!」
その時。
吹き抜けを歩いていたアズルは、前からかかった声に意識を向ける。
「.......レンファ、どうした?」
「キミの機体、整備終わったよ」
前から現れたのは、瑠璃色の髪の少女だった。
兎の耳を持ち、真珠のような瞳を持つ彼女も、作業服に身を包んでいるが――――その胸は明らかにサイズがあっておらず、その豊かな体型に服のあちこちが悲鳴を上げていた。
「....ああ、そうか」
アズルは目のやり場に困って、彼女の横をそそくさと通り抜けた。
「頑張ってね」
「もちろんだ」
アズルは特殊格納庫へと入る。
そこにあったのは......
「ああ......やっぱり、いつ見ても綺麗だ」
アズルはその機体を見つめる。
それは、シンから下賜された、CBX-0001 スワロー・エッジ型隠密型戦闘機『ブラックバード』。
その特色は何といっても、隠密に特化した兵装である。
すべての信号と熱エネルギーを遮断した状態で遮蔽し、戦場においてその真っ黒の装甲で宇宙の夜闇に紛れる事が出来るのだ。
「.......」
アズルはしばらく恍惚としていたが、それを打ち破るようにアナウンスが響く。
『旗艦ガレス及び全第五分隊艦隊へ通達。これより戦闘宙域に突入する。全艦第一級戦闘配置、戦闘員は直ちに発進準備を完了せよ。繰り返す、戦闘員は直ちに発進準備を完了せよ。30秒後にワープへ入る。足場が不安定な場所にいるものは直ちに退避せよ』
アナウンスの後、ガレス艦内は一気に騒がしくなる。
アズルはその喧騒に顔をしかめる。
その耳がすべて拾ってしまうからだ。
だからこそ。
「はっ!」
アズルはブラックバードのコックピットに飛び込む。
席の横にあるレバーを倒すと、重いキャノピーが閉じて――――静寂が訪れる。
アズルは少し笑う。
この瞬間が少しだけ気に入っているのだ。
「機関始動」
アズルはコックピットのトグルスイッチを逆側に倒し、システムを起動させる。
それと同時にプリセットの起動パターンが入力され、クアンタムコアワープドライブが唸りを上げる。
人間の可聴域ではない音から始まる起動音を、アズルは気に入っていた。
それが、この役割に志願した理由でもあるからだ。
『ガレス、ワープ軌道に移行。備えよ』
こうして、艦隊は渦中へと飛び込むのだった。
ガレスを旗艦とする第五分隊は、ジャンプ先の宙域に展開していた。
既に第三分隊が交戦状態に入っており、ガレス内部の天空騎士団は緊張に包まれていた。
「”腕太”はこの戦いについていけるのか?」
「大丈夫さ、お前こそ”板材”で撃ち落とされないようにな」
獣人たちは、自分たちの乗る戦闘機の正式名称を知らない。
それゆえに、互いに戦闘機に名称を付けあっていた。
「..........」
その様子を見ていたのは、紺色の髪の少年だった。
頭の上には、兎のものらしい長い耳が生えている。
「何が腕太、板材だ、馬鹿らしい」
少年の名はアズル。
両親を戦争で亡くし、食いぶちが得られるのならと天空騎士団に志願。
しかしながら、その耳のせいで通常のレシーバーが身に着けられず、整備士となった獣人である。
「あれは”ファウヌス”。腕太なんてダサい名前じゃない。あれも”エインハージ”、板材なんかじゃない」
アズルは呟きながら、自分の手で耳を畳んで格納庫を歩く。
彼は整備士だが、実際の戦闘においては少し違う役割を担っている。
レシーバーが装備できない以上、通信を受けながらドッグファイトを繰り広げる通常の艦載機には乗れない。
そう、通常の艦載機には。
「おい、あれ....アズルじゃねーか?」
「まったく....調子に乗りすぎだ、シン様に特別な機体を与えられておきながら。それが温情だと分かりもせんのか」
アズルはあまり歓迎されていなかった。
シンとしては適材適所の配置をしたつもりだったが、この目つきの悪い少年は、獣人の中では華奢な体つきもあって、人望があまりないのだ。
「.........」
「あっ、アズル!」
その時。
吹き抜けを歩いていたアズルは、前からかかった声に意識を向ける。
「.......レンファ、どうした?」
「キミの機体、整備終わったよ」
前から現れたのは、瑠璃色の髪の少女だった。
兎の耳を持ち、真珠のような瞳を持つ彼女も、作業服に身を包んでいるが――――その胸は明らかにサイズがあっておらず、その豊かな体型に服のあちこちが悲鳴を上げていた。
「....ああ、そうか」
アズルは目のやり場に困って、彼女の横をそそくさと通り抜けた。
「頑張ってね」
「もちろんだ」
アズルは特殊格納庫へと入る。
そこにあったのは......
「ああ......やっぱり、いつ見ても綺麗だ」
アズルはその機体を見つめる。
それは、シンから下賜された、CBX-0001 スワロー・エッジ型隠密型戦闘機『ブラックバード』。
その特色は何といっても、隠密に特化した兵装である。
すべての信号と熱エネルギーを遮断した状態で遮蔽し、戦場においてその真っ黒の装甲で宇宙の夜闇に紛れる事が出来るのだ。
「.......」
アズルはしばらく恍惚としていたが、それを打ち破るようにアナウンスが響く。
『旗艦ガレス及び全第五分隊艦隊へ通達。これより戦闘宙域に突入する。全艦第一級戦闘配置、戦闘員は直ちに発進準備を完了せよ。繰り返す、戦闘員は直ちに発進準備を完了せよ。30秒後にワープへ入る。足場が不安定な場所にいるものは直ちに退避せよ』
アナウンスの後、ガレス艦内は一気に騒がしくなる。
アズルはその喧騒に顔をしかめる。
その耳がすべて拾ってしまうからだ。
だからこそ。
「はっ!」
アズルはブラックバードのコックピットに飛び込む。
席の横にあるレバーを倒すと、重いキャノピーが閉じて――――静寂が訪れる。
アズルは少し笑う。
この瞬間が少しだけ気に入っているのだ。
「機関始動」
アズルはコックピットのトグルスイッチを逆側に倒し、システムを起動させる。
それと同時にプリセットの起動パターンが入力され、クアンタムコアワープドライブが唸りを上げる。
人間の可聴域ではない音から始まる起動音を、アズルは気に入っていた。
それが、この役割に志願した理由でもあるからだ。
『ガレス、ワープ軌道に移行。備えよ』
こうして、艦隊は渦中へと飛び込むのだった。
0
あなたにおすすめの小説
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる