103 / 247
シーズン4-ビージアイナ侵攻編
098-逃避行(前編)
しおりを挟む
そして。
ついに妾が旅立つ日がやって来た。
「現在、Noa-Tunの基地であるこの場所は、主席ノーザン・ライツの帰還のため厳戒態勢となっている。基地の上部に位置するこの部屋から、俺が見つからないようにお前を脱出艇のある場所まで誘導する...いいな?」
「は...はい」
妾は頷く。
別れの時は近い。
「行くぞ」
「はい!」
そして、妾たちは居住区画らしいその場所を駆け抜ける。
扉の前に立つと、シン殿は言った。
「ここから先は、警備兵が彷徨っている。だからこそ、俺が合図したら物陰に隠れるんだ」
「は、はい」
まるで騎士物語の逃避行のようで、妾は命の危機と同時に不思議な高揚感を味わっていた。
扉を抜けた妾たちは、壁伝いに慎重に進む。
足音すら聞き分けているようなシン殿の顔は凛々しく、猛々しさを隠しきれぬ英雄の顔つきであった。
「よし、行こう」
「はいっ」
妾が見惚れているうちに索敵が終わったのか、シン殿は手を差し出してくれる。
急いでいるが、疲れやすい妾を気遣ってくれているのだろう。
『皇族なのですから、この程度で疲れるのはおかしいことです』
そう言い放った騎士を思い出す。
皇族侮辱罪で処刑してやったが、妾にはあらゆる事が出来て当たり前じゃった。
神の正統な血を引き継ぐ、宇宙を治めるに相応しい皇女。
妾はそんな、張子の虎のような役割を求められていた。
「急がなくていい、お前のペースでゆっくりと行こう」
容易い女と思ってもらっても構わぬ。
物心ついてから初めてかけられた、下心なく優しい言葉に騙されて、それの何が悪いのじゃ?
「俺のマントの中へ」
その内、エレベーターホールへと着いた。
流石に中の監視カメラだけは誤魔化せないようで、妾はシン殿のマントの中へ隠れた。
「......」
特に意識しておらんかったが...やはり、マントの中に入るとシン殿の香りが強まるような気がする。
我ながら中々気持ちの悪いことを言っているのじゃが、抑えられぬよ、この気持ちは。
「!」
その時、エレベーターに人が乗って来た。
「ーーーーーーーーーーー」
「ーーーーー」
「ーーーーーー、ーーーー」
妾は、その会話を聞く事が出来ない。
シン殿たちが使う言語は、オルトス語でも、ヴァンデッタ語でもないからだ。
その内、乗って来た男は降りて行った。
そして、次の階でエレベーターが止まる。
「着いたのですか?」
「いいや、まだだ。中央エレベーターが使えない以上、六回はエレベーターを乗り継ぐ必要がある」
そんなにも大きいのかと、妾は驚く。
基地というよりは、最早要塞ではないかと。
「我慢してくれ。これでも連邦の最終防衛ラインなんだ」
「か、構いません」
長い方がシン殿と長くいられる。
見つかって殺される可能性もあるが、そうなれば妾はそこまでだったという事じゃ。
「ここから先は人通りも多い。主要道を避けて移動するぞ」
「わかりました」
妾たちは、外周部に沿って移動し続ける。
それにしても広い基地じゃ...妾は段々と疲れ始めていた。
「少し休むか? 大丈夫だ、俺が索敵する」
「ありがとうございます...」
妾は、シン殿が胸ポケットから出したタブレットを受け取る。
口の中で噛み砕くと、レモン水らしき液体が口内を満たす。
どういう原理かは分からぬが、水を圧縮したタブレットのようじゃった。
それを飲んで暫く休憩をとった。
「もうすぐエレベーターだな」
再び歩き始めた妾たちは、着実に次のエレベーターに近づいていた。
だが、その時。
「隠れろ!」
シン殿がそっと叫ぶ。
それを聞いた妾は、慌ててゴミ箱らしきものの陰に隠れた。
「ーーーー!」
「ーーー、ーーーー?」
「ーーー」
「行ったようだ」
そこで初めて、妾はここが敵地であることを思い出した。
同時に、死は最も近しい場所であるとも。
「向かおう、次の層へ」
「はい!」
そして妾たちは、エレベーターに乗り込むのだった。
ついに妾が旅立つ日がやって来た。
「現在、Noa-Tunの基地であるこの場所は、主席ノーザン・ライツの帰還のため厳戒態勢となっている。基地の上部に位置するこの部屋から、俺が見つからないようにお前を脱出艇のある場所まで誘導する...いいな?」
「は...はい」
妾は頷く。
別れの時は近い。
「行くぞ」
「はい!」
そして、妾たちは居住区画らしいその場所を駆け抜ける。
扉の前に立つと、シン殿は言った。
「ここから先は、警備兵が彷徨っている。だからこそ、俺が合図したら物陰に隠れるんだ」
「は、はい」
まるで騎士物語の逃避行のようで、妾は命の危機と同時に不思議な高揚感を味わっていた。
扉を抜けた妾たちは、壁伝いに慎重に進む。
足音すら聞き分けているようなシン殿の顔は凛々しく、猛々しさを隠しきれぬ英雄の顔つきであった。
「よし、行こう」
「はいっ」
妾が見惚れているうちに索敵が終わったのか、シン殿は手を差し出してくれる。
急いでいるが、疲れやすい妾を気遣ってくれているのだろう。
『皇族なのですから、この程度で疲れるのはおかしいことです』
そう言い放った騎士を思い出す。
皇族侮辱罪で処刑してやったが、妾にはあらゆる事が出来て当たり前じゃった。
神の正統な血を引き継ぐ、宇宙を治めるに相応しい皇女。
妾はそんな、張子の虎のような役割を求められていた。
「急がなくていい、お前のペースでゆっくりと行こう」
容易い女と思ってもらっても構わぬ。
物心ついてから初めてかけられた、下心なく優しい言葉に騙されて、それの何が悪いのじゃ?
「俺のマントの中へ」
その内、エレベーターホールへと着いた。
流石に中の監視カメラだけは誤魔化せないようで、妾はシン殿のマントの中へ隠れた。
「......」
特に意識しておらんかったが...やはり、マントの中に入るとシン殿の香りが強まるような気がする。
我ながら中々気持ちの悪いことを言っているのじゃが、抑えられぬよ、この気持ちは。
「!」
その時、エレベーターに人が乗って来た。
「ーーーーーーーーーーー」
「ーーーーー」
「ーーーーーー、ーーーー」
妾は、その会話を聞く事が出来ない。
シン殿たちが使う言語は、オルトス語でも、ヴァンデッタ語でもないからだ。
その内、乗って来た男は降りて行った。
そして、次の階でエレベーターが止まる。
「着いたのですか?」
「いいや、まだだ。中央エレベーターが使えない以上、六回はエレベーターを乗り継ぐ必要がある」
そんなにも大きいのかと、妾は驚く。
基地というよりは、最早要塞ではないかと。
「我慢してくれ。これでも連邦の最終防衛ラインなんだ」
「か、構いません」
長い方がシン殿と長くいられる。
見つかって殺される可能性もあるが、そうなれば妾はそこまでだったという事じゃ。
「ここから先は人通りも多い。主要道を避けて移動するぞ」
「わかりました」
妾たちは、外周部に沿って移動し続ける。
それにしても広い基地じゃ...妾は段々と疲れ始めていた。
「少し休むか? 大丈夫だ、俺が索敵する」
「ありがとうございます...」
妾は、シン殿が胸ポケットから出したタブレットを受け取る。
口の中で噛み砕くと、レモン水らしき液体が口内を満たす。
どういう原理かは分からぬが、水を圧縮したタブレットのようじゃった。
それを飲んで暫く休憩をとった。
「もうすぐエレベーターだな」
再び歩き始めた妾たちは、着実に次のエレベーターに近づいていた。
だが、その時。
「隠れろ!」
シン殿がそっと叫ぶ。
それを聞いた妾は、慌ててゴミ箱らしきものの陰に隠れた。
「ーーーー!」
「ーーー、ーーーー?」
「ーーー」
「行ったようだ」
そこで初めて、妾はここが敵地であることを思い出した。
同時に、死は最も近しい場所であるとも。
「向かおう、次の層へ」
「はい!」
そして妾たちは、エレベーターに乗り込むのだった。
0
あなたにおすすめの小説
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる