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シーズン6-ビージアイナ戦後
124-操り皇女の恋
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『お前は私の跡を継ぐのだ』
『立派な皇女になり、この国を導くのですよ』
妾の耳に残る両親の言葉といえば、これくらいしかない。
だが、妾は二人を憎んでなどいない。
愚かだったのは、妾の方じゃった。
『皇女様、お父様とお母様は、遠い場所へ行かれたのです』
両親は妾を置いて、急逝した。
それからというもの、妾は後継者として促成栽培を受けた。
上に立つ者が不在では、他の国に付け込まれると、よく分かっておったようじゃった。
『ヴィッピス、絵本が読みたいわ』
『ダメです。皇女様はこの帝国を支えるお方、絵本などという幼稚なものより、まずは地理を覚えましょう』
神輿に担ぎ上げられた妾は、最早我儘など許されずに育った。
一刻も早く、妾を完璧な後継者に仕立て上げなければ、国民の信頼を得られぬ。
それ故の焦りからきていたのじゃろう。
『ハッ、このような幼稚な娘が後継者とは...ディートハイネ様がお嘆きになるでしょうな』
そして、幼い妾を見て、大臣は小馬鹿にしたように笑っておった。
それからじゃな。
妾は悔しくなり、人一倍の努力を始めた。
古語を学んで身につけ、知識と、度重なる練習によって完璧へと近づけた立ち振る舞い。
その全てで、妾を舐めてかかる大人たちに君臨した。
思えば、これも大臣の思惑ではなかったかと、妾は思う。
妾が情けないばかりに、そのようなことを言って煽ったところで処罰されないと分かっていたのじゃろう。
『皇女様、このような本に御興味はございませんか?』
そして、ある時。
メイドの一人が、妾に騎士物語を勧めてくれた。
そのメイドは妾に対してのありもしない無礼を働いたという冤罪で処罰され、妾の専属騎士の男の手で処刑された。
思えば、妾を殺したあの男こそ、妾を手に入れるために陰謀を重ねていたのじゃろうな。
そして、妾を支持しない者どもの筆頭でもあった。
皆、女などに忠誠を向けてはいなかった。
妾ではなく、その頭に輝く帝冠を見ていたのじゃ。
『皇女様、そろそろ婚約相手を決める時期でございます。私の息子などではどうでしょうか? 家の格もちょうど良いでしょうし...』
即位から三年もしないうちに、家臣を含めた人間たちは、帝冠でもなく妾でもなく、妾から吐き出された子供に移るようになった。
まだ伴侶はおらず、子供もいないが...もし妾が子を孕めば、それが間違いなくその親である男に、あらゆる富と名声、絶大な権力をもたらしてくれるのじゃ。
悪い話ではない、と。
『お前さえ死ねば、この帝国は終わる!』
そして当然、暗殺も絶えぬ。
後継者はおらず、ひ弱な少女が権力を握っているのじゃから、当然といえば当然ではあるがの。
こういう時に便利なあの専属騎士は、妾のために暗殺者を殺してくれた。
その後ろ背に、憧れの目線を向けたこともあったのう。
じゃが、現実というのは常に冷酷じゃ。
『見ていてください、父さん。私は必ず、あの我儘女と結婚し、この帝国を正しく導いて行きますから』
『おお、楽しみにしておるよ。あのぽっと出の女に疲れたなら、いつでも戻ってきなさい』
偶然、彼とその父親との会話を聞いてしまった妾は、もう何も信じられなくなった。
擦れた性格になり、そして気付いた。
周りの対応が、それでも変わらぬということに。
媚びて。媚びて。媚びて。媚びて。媚びて。
妾の子にしか興味がない、悪魔が。
表面上では妾を心配してはいるが、
『............どうか、お気をつけを(貴方が死ねば、私の息子とくっつけられなくなりますからなぁ)』
という風だ。
なんと汚い。悪魔はどちらか。
じゃが...あの男、シンは違ったのう。
あんなに真っ直ぐな、人との向き合い方は、妾の知らぬものじゃった。
妾を利用した後に捨てるつもりだったと言うが、妾そのものを必要としてくれるというだけで、どれほど嬉しいか...
果てはメイドや使用人にいたるまで、自分や自分の息子を妾に嫁がせようとする始末。
そうでないものは妾を殺して血で帝冠を濯ぐ算段を立てる始末。
妾が皇女と知らなかったのもあるじゃろうが、どうせ利用され捨てられるのであれば、シンの方がはるかにマシじゃ。
騎士物語の騎士のように、あの男の優しさにだけは裏がなかった。
『それに、妾は...もう共犯者じゃ』
帝冠をあの男と共に踏み潰し、妾はあの男と共犯者になった。
最早後戻りはできぬ、一度抱いたこの恋は、世界を共に踏み潰してでも叶えて見せようぞ。
妾は泡の音以外何も聞こえぬ水槽の中で、静かに決意するのじゃった。
『立派な皇女になり、この国を導くのですよ』
妾の耳に残る両親の言葉といえば、これくらいしかない。
だが、妾は二人を憎んでなどいない。
愚かだったのは、妾の方じゃった。
『皇女様、お父様とお母様は、遠い場所へ行かれたのです』
両親は妾を置いて、急逝した。
それからというもの、妾は後継者として促成栽培を受けた。
上に立つ者が不在では、他の国に付け込まれると、よく分かっておったようじゃった。
『ヴィッピス、絵本が読みたいわ』
『ダメです。皇女様はこの帝国を支えるお方、絵本などという幼稚なものより、まずは地理を覚えましょう』
神輿に担ぎ上げられた妾は、最早我儘など許されずに育った。
一刻も早く、妾を完璧な後継者に仕立て上げなければ、国民の信頼を得られぬ。
それ故の焦りからきていたのじゃろう。
『ハッ、このような幼稚な娘が後継者とは...ディートハイネ様がお嘆きになるでしょうな』
そして、幼い妾を見て、大臣は小馬鹿にしたように笑っておった。
それからじゃな。
妾は悔しくなり、人一倍の努力を始めた。
古語を学んで身につけ、知識と、度重なる練習によって完璧へと近づけた立ち振る舞い。
その全てで、妾を舐めてかかる大人たちに君臨した。
思えば、これも大臣の思惑ではなかったかと、妾は思う。
妾が情けないばかりに、そのようなことを言って煽ったところで処罰されないと分かっていたのじゃろう。
『皇女様、このような本に御興味はございませんか?』
そして、ある時。
メイドの一人が、妾に騎士物語を勧めてくれた。
そのメイドは妾に対してのありもしない無礼を働いたという冤罪で処罰され、妾の専属騎士の男の手で処刑された。
思えば、妾を殺したあの男こそ、妾を手に入れるために陰謀を重ねていたのじゃろうな。
そして、妾を支持しない者どもの筆頭でもあった。
皆、女などに忠誠を向けてはいなかった。
妾ではなく、その頭に輝く帝冠を見ていたのじゃ。
『皇女様、そろそろ婚約相手を決める時期でございます。私の息子などではどうでしょうか? 家の格もちょうど良いでしょうし...』
即位から三年もしないうちに、家臣を含めた人間たちは、帝冠でもなく妾でもなく、妾から吐き出された子供に移るようになった。
まだ伴侶はおらず、子供もいないが...もし妾が子を孕めば、それが間違いなくその親である男に、あらゆる富と名声、絶大な権力をもたらしてくれるのじゃ。
悪い話ではない、と。
『お前さえ死ねば、この帝国は終わる!』
そして当然、暗殺も絶えぬ。
後継者はおらず、ひ弱な少女が権力を握っているのじゃから、当然といえば当然ではあるがの。
こういう時に便利なあの専属騎士は、妾のために暗殺者を殺してくれた。
その後ろ背に、憧れの目線を向けたこともあったのう。
じゃが、現実というのは常に冷酷じゃ。
『見ていてください、父さん。私は必ず、あの我儘女と結婚し、この帝国を正しく導いて行きますから』
『おお、楽しみにしておるよ。あのぽっと出の女に疲れたなら、いつでも戻ってきなさい』
偶然、彼とその父親との会話を聞いてしまった妾は、もう何も信じられなくなった。
擦れた性格になり、そして気付いた。
周りの対応が、それでも変わらぬということに。
媚びて。媚びて。媚びて。媚びて。媚びて。
妾の子にしか興味がない、悪魔が。
表面上では妾を心配してはいるが、
『............どうか、お気をつけを(貴方が死ねば、私の息子とくっつけられなくなりますからなぁ)』
という風だ。
なんと汚い。悪魔はどちらか。
じゃが...あの男、シンは違ったのう。
あんなに真っ直ぐな、人との向き合い方は、妾の知らぬものじゃった。
妾を利用した後に捨てるつもりだったと言うが、妾そのものを必要としてくれるというだけで、どれほど嬉しいか...
果てはメイドや使用人にいたるまで、自分や自分の息子を妾に嫁がせようとする始末。
そうでないものは妾を殺して血で帝冠を濯ぐ算段を立てる始末。
妾が皇女と知らなかったのもあるじゃろうが、どうせ利用され捨てられるのであれば、シンの方がはるかにマシじゃ。
騎士物語の騎士のように、あの男の優しさにだけは裏がなかった。
『それに、妾は...もう共犯者じゃ』
帝冠をあの男と共に踏み潰し、妾はあの男と共犯者になった。
最早後戻りはできぬ、一度抱いたこの恋は、世界を共に踏み潰してでも叶えて見せようぞ。
妾は泡の音以外何も聞こえぬ水槽の中で、静かに決意するのじゃった。
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