異世界の宇宙に転移しましたが、お兄ちゃんのいない宇宙には住めないので、お兄ちゃんを探す事にしました！〜男装ブラコン少女の宇宙冒険記〜

シーズン5-ショートバケーション編

147-生か死か、たった一つの賭け

ファイスが加わり、ラビは満身創痍になった。
これで、形勢は逆転――――するわけではなかった。
でも、悪くはない戦いにはなった。

「グルルォア！！」

ファイスが殴りかかり、ラビがその拳を抑える。
そこに私が脇腹に蹴りを入れて、姿勢を崩す。
洗脳状態のラビは私を優先ターゲットに選んで、素早くファイスの拳を躱し私に接近する。

「.......！」
「どこへ行く？」

ファイスがその足を引っ掛けてバランスを崩させて、両手を合わせてその背を叩き、地面へと思い切りぶつける。
敵とはいえ女性相手にこの容赦のなさ、流石はファイス。

「大丈夫ですか、主人」
「大丈夫。それより.....さっきはなぜ無事だった？」
「無事ではありませんが....」

戦いながら話したところ、ファイスが起き上がれたのはシトリンのおかげだったようだ。
ファイスの耳に入る音量で、私が負けそうであれば....という言葉を聞かせたのだ。
音声記憶を残せるシトリンだけが出来る技である。

「狼人として、主が死にたいと望むような状況にしてはなりません。それに.....シトリンの覚悟を、無駄にするのは....憚られます」
「そう、だな！」

本当に零歳児かな？ この立派さ。
私はラビの脚撃を受け流しつつ感心する。
それに――――シトリンの覚悟もそうだ。
機能の大半を喪失し、情報保護に残存電力を使わなければいけない状況で、ファイスを起こすためだけに電力を使用する判断に出たのだから。
戦力外になっても、出来ることはしなければいけないという、機械らしからぬ頑張りがそこにあった。

「ハァ！！」

私はラビの組み付きを返して、ファイスの方に投げ飛ばす。
ファイスは半歩引いて、飛んできたラビの腰あたりを殴り、腕を掴まれる前に跳躍、踵落としを喰らわせてこちらに跳ぶ。

「.....！」
「俺を忘れるなよ！」

私は必死になって向かってくるラビを、肘鉄で撃退する。
思いがけない殴打を受けて、ラビの注意が一瞬私に向く。

「ファイス！」
「ええ！」

ファイスが横から飛び出し、跳び膝蹴りでラビの顔面を容赦なく蹴り飛ばし、溜めの姿勢になってから素早く背後に回り込み、背を殴り飛ばした。

「...カハッ！？」

流石の衝撃に、ラビは肺に溜まった空気を全て吐き出す。
――――この瞬間を待っていた。
この瞬間。
ラビは、動くために必ず時間を要する。
私は腰に手をかけ、そこにあった打破者カルセールを持つ。
引き抜き、右手に持ち替えて構える。
ラビは姿勢を崩した状態で、息が続いていない。
姿勢を戻す、その瞬間。
首の位置が必ずそこにあるその瞬間。

「行けえええええええええっ！！！」

これは私の甘えが招いた窮地。
だからこそ、その甘えは是正されなければならない。
だけど、お兄ちゃんなら――――そんな甘え、笑って許してくれるとも思う。
だから。
この一撃に全てを賭ける。
一人の人間の生死を。

「.........！？」

カルセールは奴隷の首輪の端を貫通し、ラビの首に当たることなく首輪を破壊する。

「ファイスッ！！」
「ハッ！！」

ファイスがその首に掴み掛かり、壊れかけの首輪に全力を掛け、圧壊させる。
無理やり外そうとすれば電流が流れるらしいそれは、機能停止後に外されたために何の影響もなく破断した。

「.........」

ラビはそのまま崩れ落ちる。
私は急いで駆け寄り、高速修復ナノマシンユニットを注射してラビを治癒する。

「宜しかったのですか？」
「多分、ファイスたちと同じ仕組みで操られてたと思うから....」

脳に電極を埋め込み、外部から操作する。
ファイスたちの場合は、それが子供のころから常に行われていただけに過ぎない。

「早く連れ帰って、医療ポッドに入れるぞ」
「しかし、どうやって脱出しますか？」
「脱出？ そんな必要はない」

私はそう言った。
直後、凄まじい衝撃と轟音が襲ってきた。

「来たな」
「何がですか？」

ファイスの声に、私は答えた。

「突入隊だ。そろそろ来る頃合いだったんだ」

星系軍が制圧に来れば、ラビは問答無用で射殺される。
だから私は、通常の銃では破壊できない首輪を、カルセールで一撃で破壊し、尚且つラビの命を救う。
この結果を選んだ。

「どうして、この娘を救おうと？」
「誰かの命を救うと、思いがけない形で利益になって帰ってくる...事もある」

アルゴとかね。
まあ、後でラビが資産を取り戻したら、ゆっくり報酬を搾り取ろう。
私は壊れたニケを拾いながら、同じくボロボロになった装備の修理代について考えていた。