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第一章:素敵な出会い、それは狂った妖刀でした
006:古廻流、魂の底から絶叫する
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――古廻流はこの瞬間を一生忘れないだろう。そう言う出会いだった。陳腐な言い方をすれば『運命』と言うべき物との邂逅であり、もう一瞬たりとも目が離せない――。
それは新月の夜を纏ったような、会津塗りの漆を使用した黒色を基調に置き、色あでやかな桜が品よく散り、優美な蒔絵が施された鞘に納刀された刀が静かに佇んでいた。
さらに目線をずらした瞬間、その芸術的な物に目を奪われる――。
柄は青葉を思わせるような艶やかな糸で織り込まれており、鍔は桜の花が模られたデザインが異なる物が十個、円状に対面に彫刻され、素材は黄金と漆黒の金属が絶妙に絡み合い、妙な妖艶さがあった。
流は突如現れた至高の一振りに、文字通り魂を鷲掴みにされる。
それが刀、つまり「無機質の塊」だと頭では理解しているのに、何故かそれが一人の儚げな娘に見えた。
その娘の、あまりの――芸術的と言うありきたりな表現が最初に思いつく。
が、それ以上考える事を放棄して娘に魅入る流は、息を呑み込む事数分がたったかのように感じた頃、やっとの事で一言振り絞るように口を開く。
「……ちなみに、このホンモノの妖刀の由来を聞いても?」
「〆:最初に申したとは言え……うふふ、よく妖刀が本物だとお分かりになりましたね。え~っと、江戸中期頃に高名な刀匠おりまして、その刀匠は鍛刀地には女人禁制は無論、仕上げた刀を女人に見せる事もしなかったそうです」
当時の刀匠の事を思うと、その行動も分かる流は一つ頷き黙って聞き入る。
「〆:ところが何を思ったか、その刀匠は女人の体の神秘にのみ刀を昇華し、至高の一振りに出来る事を突き止めたらしいのです。現在は失伝したため製法は不明ですが、その製法を、自分の娘に一子相伝した結果が功を成しました。そして出来たのがこの刀と言う訳です」
そう〆は淡々と説明を終えると、折紙の両手を広げ朗々と宣言する。
「〆:とても明快で分かりやすい説明でしたね。ささ、どうぞこの『悲恋美琴』お持ちください♪」
「そこにその物騒な名前の由来が無いのだが?」
「〆:チッ、そのまま納得して持っていけばいいものを」
「納得できるか!! って言うか舌打ちするな」
すると本当に面倒くさそうに、渋々続きを〆は話し始める。
「〆:はぁ~、我儘なお人ですね。乙女の秘密を探るとは下種の極み、されど古廻様はその類の方とお見受けし、少々長くなるのでメモ形態でお話します」
「チョット待てい! さり気無く俺をディスるんじゃあない」
そんな流の訴えを無かったかのように、〆はメモ用紙に戻り淡々と語り始める。
「〆:刀匠の娘は『美琴』と言いました。名は体を表すと言うように、美琴は象牙をふんだんに使用した美しい琴を思わせるような透き通る白い肌と、聞けば荒ぶった心までが鎮まるような美声。そして最上質の絹のような手触りの黒髪だったと言います。そんな美琴は幼子なのに大層美しい少女でした」
「スルーかよ……」
「〆:その美琴が不運と言うのも憚られる、地獄へ追い落とされたのは美琴が八歳の頃でした。美琴の父である刀匠は、これまでの弟子を全て破門した後、美琴を鍛冶場へ入れ昼夜問わず倒れるまで秘儀を叩き込んだのです」
現代では考えられない、虐待と言うのも烏滸がましい話に顔をしかめながらも、流は黙って〆の話を聞き続ける。
「そして時は流れ、美琴は十七歳になりました……。実に九年もの歳月を鍛冶場の中だけで生活をした美琴は、外部との接触を一切断たれました。美琴は薄暗い鍛冶場の格子窓から見える、外の景色に強く憧れたと言います。特に小雨の中、一つの傘を二人で仲睦まじく使い歩く若い男女を見て、その羨ましさに血涙を流しながら刀を打ち続けたといいます」
ここまで話すと悲しそうに、〆は眼を伏せるような雰囲気で一端間を置く。
「そこまでして打つとは壮絶すぎるな……」
「〆:やがてその時は来ました。美琴は早くこの地獄から解放されたいがため、その命を削り刀を仕上げたのです。結果、その命の叫び『九年の怨念の結晶』とも言える刀をついに完成させたのです」
流は思う、妖刀と言うのはここまでしないと出来ない物なのかと。
「しかしその完成間際、刀身へ最後の一打ちをした刹那、美琴は盛大に吐血し、あれほど美しかった黒髪が白絹の如き色彩になったのを見て、自分のその命が残り僅かと悟ります。そして散り際に血文字で刀自体に『悲恋』と命名を行い、さらに刀身に傘を書き、傘下の片方に銘として『みこと』と書いて散り果てたそうです……。その結果完成したのが、妖刀――悲恋美琴です」
そう悲しそうに話し終わると、〆は沈んだ雰囲気を払拭するかの如く、ひな人形に折りたたまり話し始める。
「〆:恋に恋した少女の素敵なお話ですね。全女子が感動に魂をふるわせる、ハートフルな逸話でした♪」
「そこの何処にハートフルな要素があるんだ? 言ってみろ!」
「〆:因みに父である刀匠がその刀を持ち、試し切りをした直後に七日七晩大発狂し、最後は盛大に吐血して亡くなったと伝わっています」
「なんだそれ!? 怖すぎだろう!!」
「さあ、お持ちください! 希代の女性刀匠による最後にして、日本の歴史上稀な希少性と、最強にして最高の強度と切れ味を誇る、幻の名刀→妖刀・悲恋美琴を!!!!」
〆は実にいい笑顔のような声で、別のメモ持ちながら宣言する。
さらにメモには悲恋美琴向けて矢印を描き、流へとアピールする。
「そんな物騒な刀! い! る! かああああああああああああああ!! アホカー!! そんなの持ったら呪い死ぬわ!! 大体、名刀の後にさらっと妖刀って書き加えるな! それに強が『狂』になってるぞ!? それにどこがハートフルなんだ!? ただの呪いの刀じゃねーかよ!! 大事な事だからもう一度言わせていただきます。アホカー!!」
それはもう全力で拒否をした、妖刀・ダメ・絶対! と言う勢いでこれでもかと、魂の叫びを吐きつくす。
それは新月の夜を纏ったような、会津塗りの漆を使用した黒色を基調に置き、色あでやかな桜が品よく散り、優美な蒔絵が施された鞘に納刀された刀が静かに佇んでいた。
さらに目線をずらした瞬間、その芸術的な物に目を奪われる――。
柄は青葉を思わせるような艶やかな糸で織り込まれており、鍔は桜の花が模られたデザインが異なる物が十個、円状に対面に彫刻され、素材は黄金と漆黒の金属が絶妙に絡み合い、妙な妖艶さがあった。
流は突如現れた至高の一振りに、文字通り魂を鷲掴みにされる。
それが刀、つまり「無機質の塊」だと頭では理解しているのに、何故かそれが一人の儚げな娘に見えた。
その娘の、あまりの――芸術的と言うありきたりな表現が最初に思いつく。
が、それ以上考える事を放棄して娘に魅入る流は、息を呑み込む事数分がたったかのように感じた頃、やっとの事で一言振り絞るように口を開く。
「……ちなみに、このホンモノの妖刀の由来を聞いても?」
「〆:最初に申したとは言え……うふふ、よく妖刀が本物だとお分かりになりましたね。え~っと、江戸中期頃に高名な刀匠おりまして、その刀匠は鍛刀地には女人禁制は無論、仕上げた刀を女人に見せる事もしなかったそうです」
当時の刀匠の事を思うと、その行動も分かる流は一つ頷き黙って聞き入る。
「〆:ところが何を思ったか、その刀匠は女人の体の神秘にのみ刀を昇華し、至高の一振りに出来る事を突き止めたらしいのです。現在は失伝したため製法は不明ですが、その製法を、自分の娘に一子相伝した結果が功を成しました。そして出来たのがこの刀と言う訳です」
そう〆は淡々と説明を終えると、折紙の両手を広げ朗々と宣言する。
「〆:とても明快で分かりやすい説明でしたね。ささ、どうぞこの『悲恋美琴』お持ちください♪」
「そこにその物騒な名前の由来が無いのだが?」
「〆:チッ、そのまま納得して持っていけばいいものを」
「納得できるか!! って言うか舌打ちするな」
すると本当に面倒くさそうに、渋々続きを〆は話し始める。
「〆:はぁ~、我儘なお人ですね。乙女の秘密を探るとは下種の極み、されど古廻様はその類の方とお見受けし、少々長くなるのでメモ形態でお話します」
「チョット待てい! さり気無く俺をディスるんじゃあない」
そんな流の訴えを無かったかのように、〆はメモ用紙に戻り淡々と語り始める。
「〆:刀匠の娘は『美琴』と言いました。名は体を表すと言うように、美琴は象牙をふんだんに使用した美しい琴を思わせるような透き通る白い肌と、聞けば荒ぶった心までが鎮まるような美声。そして最上質の絹のような手触りの黒髪だったと言います。そんな美琴は幼子なのに大層美しい少女でした」
「スルーかよ……」
「〆:その美琴が不運と言うのも憚られる、地獄へ追い落とされたのは美琴が八歳の頃でした。美琴の父である刀匠は、これまでの弟子を全て破門した後、美琴を鍛冶場へ入れ昼夜問わず倒れるまで秘儀を叩き込んだのです」
現代では考えられない、虐待と言うのも烏滸がましい話に顔をしかめながらも、流は黙って〆の話を聞き続ける。
「そして時は流れ、美琴は十七歳になりました……。実に九年もの歳月を鍛冶場の中だけで生活をした美琴は、外部との接触を一切断たれました。美琴は薄暗い鍛冶場の格子窓から見える、外の景色に強く憧れたと言います。特に小雨の中、一つの傘を二人で仲睦まじく使い歩く若い男女を見て、その羨ましさに血涙を流しながら刀を打ち続けたといいます」
ここまで話すと悲しそうに、〆は眼を伏せるような雰囲気で一端間を置く。
「そこまでして打つとは壮絶すぎるな……」
「〆:やがてその時は来ました。美琴は早くこの地獄から解放されたいがため、その命を削り刀を仕上げたのです。結果、その命の叫び『九年の怨念の結晶』とも言える刀をついに完成させたのです」
流は思う、妖刀と言うのはここまでしないと出来ない物なのかと。
「しかしその完成間際、刀身へ最後の一打ちをした刹那、美琴は盛大に吐血し、あれほど美しかった黒髪が白絹の如き色彩になったのを見て、自分のその命が残り僅かと悟ります。そして散り際に血文字で刀自体に『悲恋』と命名を行い、さらに刀身に傘を書き、傘下の片方に銘として『みこと』と書いて散り果てたそうです……。その結果完成したのが、妖刀――悲恋美琴です」
そう悲しそうに話し終わると、〆は沈んだ雰囲気を払拭するかの如く、ひな人形に折りたたまり話し始める。
「〆:恋に恋した少女の素敵なお話ですね。全女子が感動に魂をふるわせる、ハートフルな逸話でした♪」
「そこの何処にハートフルな要素があるんだ? 言ってみろ!」
「〆:因みに父である刀匠がその刀を持ち、試し切りをした直後に七日七晩大発狂し、最後は盛大に吐血して亡くなったと伝わっています」
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