日本最狂の妖刀で、誰も見た事がない異世界・骨董無双~狂気の娘を返品したいがもう遅い!!だから神が宿る骨董品達で、俺が世界を改変してやるッ!!

竹本蘭乃

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第一章:素敵な出会い、それは狂った妖刀でした

021:たぬ爺のおすまい

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「……あぁ~そろそろ露天風呂でも行こうかな」
「オイ! 小僧、聞こえているんだろ? こっちを向け!」
「えぇぇ? やっぱり動くのかよ、しかも喋ってるし……」

 右隣を見るとそこには巨大な信楽焼の狸が居た。しかも二つ付いた巨大な金〇は湯舟になっており、なみなみと湯をたたえている。

「お前、ワシを見て見ぬふりしとったろう? 何故だ? 早ようワシの湯にも入らんか! ワシに入れば打身や怪我、疲労回復は無論、最大の効能は絶倫になれるぞ? ワッハッハッハ」
「なぜ焼き物が話をしている? はぁ~、まぁ妖怪屋敷だからなここは」
「小僧、ここは妖怪屋敷じゃないぞ。由緒ある骨董屋さんだ! さぁ、入って来い! ワシの〇袋の中へ!」
「すっごい響きが嫌なので嫌です。ええ、絶対嫌です」
「小僧! 入らず嫌いは一生の恥だぞ?」
「はいはい、そうでしたね。じゃあそう言う訳で露天へ行ってきますんで」

 そう言うと流は、そそくさと退散した。
 背後からは「待て! ちょっとでいいから入って行け!」と叫び声がしたが、多分気のせいだと思う事にして、風呂の中央にあるコロコロ回る石の元まで来る。
 高さは二メートル程で、回転している石の隙間から酒が湧き出ていた。

「フローティング・グラニットボールって言うんだったか? この妖怪風呂なら自然に湧き出てるんだろうな……」
「そうだぞ、小僧。この『楽酒玉らくしゅだま』からは、どんな酒でも湧いて来る。ワシも良く呑んでおるわい」

 そう言うと狸風呂は豪快に笑う。見ると巨大な狸の〇玉風呂は歩けるサイズにまで縮まっていたが、それでもなみなみと湯は入ってた。

「焼き物が酒飲むのかよ」
「ワッハッハ、そう言うな。こいつはな、酒が流れとる所の横に、丸い石が付いてるだろう? そこを触りながら欲しい飲み物を念じれば何にでもなる。海洋深層水でも富士の名水でも湧き出るし、濃縮ジュースは無論どんな珍妙な酒でも、望めば大抵の物は湧いて来おる」
「有名酒蔵も真っ青だなそれは。じゃあ折角の露天に入るし、冷酒がいいな」

 流は適当にオススメの冷酒をと思いながら石を触る。すると一瞬勢いよく石が回り出した後で、目的の酒が湧いて来た。

「凄いな、本当に出たよ」
「そりゃぁ出るわい、数百年の間一度も枯れた事ないからのぅ」

 楽酒玉からは滾々こんこんと酒が湧いて来たので、流は傍にあった檜の升になみなみと注ぐと、露天へ向けて歩き出す。後ろから野太い声で「ワシの所にもそのうち来いよ」と豪快な笑い声が聞こえた。

 風呂を覆う四阿を出ると、そこは違和感の塊だった。すぐそこの浜辺では波の音に蛍が静かに踊り、不思議な光に照らされた桜が舞い散り、紅葉した広葉樹が見頃を迎え、遠くの山には雪が降り積もり、大文字焼がなされていた。

「なんでも詰め込めばいいってもんじゃねーだろうが……」

 露天に入るとじんわりと温かく、何時までも入っていられる適温だった。

「あ~ナニコレ最高すぎる~。これってあれだな、まさに『ここは極楽』ってやつだな」

 と言った瞬間、周りの景色が一変した、極楽浄土に。

「オレ、死んだのかな……湯あたりして……」

 辺りには天女が舞い踊り、甘い香りと不思議で心地よい音色が響き、とても表現不可能な、魅力的な果物をかじっている天女が手招きしていた。

「あ……ぁ……なんか、もう……なんでもいいや……」

 全てがどうでもいい感じに思えて来た頃、〆の声がどこからか聞こえた。

「〆:……様 ……古 ……古廻様!! 気をしっかりとお持ちになってください! そこはあの世の入り口ですよ! さあ、早く『元に戻れ』と言ってください!!」
「は……へ? あの世……ハ!? 体が透けている!! も、も、元に戻れ!!」

 すると極楽浄土は消え失せ、元の四季の風流が詰め込まれた露天になった。

「何だったんだ今のは……。自分の存在が消えていくのを、思いっきり感じたぞ……」
「〆:ふぅ~、ご無事で何よりでした。今まさに古廻様は、あの世へ旅立つ寸前だったのです。あのままもう少しあの場所でお湯に浸かっていたら肉体は消滅し、魂の旅へと行かれたでしょうね」
「おいおい、なんだこの風呂は……」
「〆:ここは願いの露天と言いまして、言葉が現実になる場所なのです。例えば古廻様『花火を上げてくれ』と言ってみてください」
「ふむ、じゃあ花火よ打ち上がれ! デカイのを景気よくな!」

 すると夜空に大輪の花火が連続して上がり始める、しまいにはナイヤガラまで始まった。

「これは凄い……な。でもお前が花火を見たいと言っても大丈夫だったろ?」
「〆:でございましょ? 私が言っても何もならないのは、その存在ゆえですかね……。時に古廻様、先ほどもしかして極楽へ行きたいとか言いました? あ、口になさらず頷くだけで結構です」

 すると流はこくりと頷く。

「〆:やはり……先ほども言いましたがここは言葉が異常に力を持つ場所なので、物騒な事は言わないでくださいましね」
「分かった。危く死にそうになった。あ、これもまずい?」
「〆:いえ、断定的な物言いに近い感じじゃない限りは大丈夫ですが、判定は曖昧なので実際は良く分かりません」
「おいおい、そんな場所を風呂にすんなよ……」
「〆:ふふふ、でもご無事で良かった。しかし異世界二日目で命の危機に何度も遭われながらも生還するとは、運がお強いですね」

 ふと「幸運値:あらすごい」を思い出した。

「そう言えば、俺が魔物を倒したのを知っているな?」
「〆:はい、存じております」
「その時に巻物が出たんだよ、異世界言語理解と同じ奴がさ。その時に壱ってお前みたいなのが居たんだが、〆の知り合いか?」
「〆:えぇ、私の兄ですね。おかしな関西弁を趣味で話す困った愚兄です」
「やっぱりか、血の繋がりを感じたからな」
「〆:失礼な! 私の方が遥かに高尚ですよ」

(自分の事は分かってないんだよなぁ)

 流は他人が聞いたらお前が言うな! と突っ込まれるような事を内心思っていたのだった。

「それでその壱がさ、ステータスを見せてくれたんだが、どれも抽象的すぎて意味が分からないんだわ。特に幸運値? が『あらすごい』だぜ? 意味不明すぎだろ?」
「〆:えっと……? ま、まあ多分それのお陰ですね、何度も命が助かっているのは」
「そう言うものか。まぁいいや」

 そう言うと流は升酒を呑み干す。するとお盆に乗ったおかわりの升がスーっと流れて来た。
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