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第二章:偉大なる称号
034:トエトリーの支配者たち
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――その頃、トエトリーの商業ギルドのマスタールームでは会合が行われていた。
メンバーは五人で立場は様々だった。
一人目は商業ギルドのマスターであるバーツ。
二人目はトエトリー冒険者ギルドのマスター
三人目から五人目は空中に浮かぶ丸い玉に、目玉が付いた通信の魔具からの声だった。
「って言うと、バーツはその子がサムライだとでも本気で思っているワケ?」
見た目は二十代前半ほどで切れ長の鋭い目付きだが、色白で作り物のように整った顔付、そして美しい金髪から見える長い耳と、エメラルド色の目をしたエルフの女が確認するように言う。
「ワシものう~俄かには信じられんのう~ほんにサムライ、いやさ『侍』なのかのう~?」
目玉からの声だけだが、高齢な感じでおっとりとした口調の男性がサムライと侍のニュアンスが違ったのか言いなおし、エルフに同意する。
「ククク、されど持っておったのであろう? あの、カタナ……いや『刀』を。だが物証には足りないのではないか?」
どこが楽しいのか何故か含み笑いを込めた、中年の男の声が魔具から疑問を提起する。
「はあ~、やれやれだね。何時まで同じ話をしてるんだい! アンタらとあろう者が、疑心暗鬼とはね。黒髪・黒目・おまけに『刀』だろ? そして極めつけはここに居る全員が知ってる国名とは違うが『ニホン』の場所の情報。もう十分すぎる程の証拠じゃないかい?」
肝っ玉な感じの口調で、少しとうがたった女性が叱りつけるように他の三人へ魔具から苦言を呈する。
「それにだね、妾達はもう二度と失敗は出来ないんだよ!? 分かってるのかいボンクラ共!」
「まあまあ、ヴァレリア様も落ち着いてくださいな。そしてもう一つ皆さんにお見せしたい物があります。まずはこれを」
バーツは大きなテーブルの上に丁寧に箱を置いた。中から出て来た物に一同は驚愕する。
「ウソ!! それは!?」
「なん……じゃと!?」
「ククク……ッ!!」
「それ見た事か!! これで分かったろボンクラ共……どう見てもこれは……ギアマンじゃないか!!」
一同が驚愕した品、それはクリスタルガラス製のワイングラスだった。
「やはりこの地に町……いや、都市を建設した我らの先祖は正しかったと言う事デスネ。遅くなりました皆様、ご挨拶が遅れ申し訳ないデスネ」
言葉が聞こえた方を見ると入口のドアがスッっと開く。
そこには四十代程の上品が服を着たような紳士然とした、鍛えているのが良く分かる体と品の良い顔立ちがミスマッチな男と、フードを被った人物が入って来た。
「これはクコロー伯爵、それに領主様も我がギルドへようこそ」
「俺も挨拶が遅れたな、すまない。それでバーツ、どうなっている?」
クコロー伯爵はテーブルの上のワイングラスを凝視しているが、フードの男――領主の方は気が付いていないようだった。
「まずは領主様、テーブルの上をご覧ください」
「テーブル? おお!? なんと美しいグラスなのだ! その曲線美と言いボウル下部の細工はどうだ! 素晴らしい、そしてなぜそこまでクリアなのだ!! リムのなんと滑らかな事か、きっと氷の女神と口づけをするかの様な口当たりなのだろうか……ステムは妙齢の婦人が朝露を撫でる小指のようだ、それに――」
フードを着用しているので顔は不明だが、声からすると十代後半か、二十代前半程の男性に思える。
そんなどこかの骨董狂いを思い出しそうな残念な男、それがこの町の領主だった。
「コホン、子爵様。そろそろ落ち着くデスネ」
「ム……これは失礼をした。皆も許せ」
誰も子爵の暴走を止めなかったが、クコロー伯爵がそれをやっと諫める。
「子爵様も相変わらずだねぇ。で、どうです? 妾はこれをギアマンと見ていますが?」
「ああ、ヴァレリア公爵の言う通りだ、間違いない。しかも私達が知っている物より遥かに出来が良い。そうだろう、イグニス教皇?」
「ククク。はい、その通りです子爵様。現在教会がお預かりしている聖杯と同じ物、いやそれ以上の物かと」
「エルフの視点からどう見る、アリエラ?」
エルフの女、アリエラは静かに立ち上がると、ワイングラスに近づき魔力を込める。
「これをご覧ください。聖杯と同じく魔力の流がグラスの中に水を張ったかのように見えます。それにオリジナルより遥かに、魔力の密度が濃く渦巻いています。まず間違いないかと」
一同からは感嘆の溜息が漏れる。
「決まりだ。アダムズ伯爵、王都本部の冒険者の元締めとして、いつでも即応可能な準備を整えておけ」
「承知致しました、子爵様。それにしても長生きはするものですの~、まさかこの目でこんな光景が見れるとはのう~」
「さて、ご一同。これで決まりましたな。今後の彼については以前の轍を踏まぬように、出来るだけ放置と言う事でよろしいでしょうかな?」
そうバーツが言うと全員が同意する。
それを確認したトエトリーの領主が、魂の叫びとも言える決意を表明する。
「それでは皆の者、今度こそあのような失敗を二度と……そう、二度と繰り返してはならぬ! ここからは命を賭けて生き急げ!! 我ら三百年の悲願を叶える時が来た!!!!」
領主が右手を顔の高さまで上げ、その手で空を掴む様な仕草をする。
すると右手の中に、魔力で出来た真っ赤な盃が現れた。
周りの者の手の中にも同様の盃が現れ――。
「サクール」
トエトリーの領主である子爵がそう言うと、手に持った盃を床に勢いよく叩き落とす。
その直後、周りから同様のガラスが割れたような音が聞こえ、叩き割られた盃は粉々になる。
そして赤い砂塵となって消えて行った……。
メンバーは五人で立場は様々だった。
一人目は商業ギルドのマスターであるバーツ。
二人目はトエトリー冒険者ギルドのマスター
三人目から五人目は空中に浮かぶ丸い玉に、目玉が付いた通信の魔具からの声だった。
「って言うと、バーツはその子がサムライだとでも本気で思っているワケ?」
見た目は二十代前半ほどで切れ長の鋭い目付きだが、色白で作り物のように整った顔付、そして美しい金髪から見える長い耳と、エメラルド色の目をしたエルフの女が確認するように言う。
「ワシものう~俄かには信じられんのう~ほんにサムライ、いやさ『侍』なのかのう~?」
目玉からの声だけだが、高齢な感じでおっとりとした口調の男性がサムライと侍のニュアンスが違ったのか言いなおし、エルフに同意する。
「ククク、されど持っておったのであろう? あの、カタナ……いや『刀』を。だが物証には足りないのではないか?」
どこが楽しいのか何故か含み笑いを込めた、中年の男の声が魔具から疑問を提起する。
「はあ~、やれやれだね。何時まで同じ話をしてるんだい! アンタらとあろう者が、疑心暗鬼とはね。黒髪・黒目・おまけに『刀』だろ? そして極めつけはここに居る全員が知ってる国名とは違うが『ニホン』の場所の情報。もう十分すぎる程の証拠じゃないかい?」
肝っ玉な感じの口調で、少しとうがたった女性が叱りつけるように他の三人へ魔具から苦言を呈する。
「それにだね、妾達はもう二度と失敗は出来ないんだよ!? 分かってるのかいボンクラ共!」
「まあまあ、ヴァレリア様も落ち着いてくださいな。そしてもう一つ皆さんにお見せしたい物があります。まずはこれを」
バーツは大きなテーブルの上に丁寧に箱を置いた。中から出て来た物に一同は驚愕する。
「ウソ!! それは!?」
「なん……じゃと!?」
「ククク……ッ!!」
「それ見た事か!! これで分かったろボンクラ共……どう見てもこれは……ギアマンじゃないか!!」
一同が驚愕した品、それはクリスタルガラス製のワイングラスだった。
「やはりこの地に町……いや、都市を建設した我らの先祖は正しかったと言う事デスネ。遅くなりました皆様、ご挨拶が遅れ申し訳ないデスネ」
言葉が聞こえた方を見ると入口のドアがスッっと開く。
そこには四十代程の上品が服を着たような紳士然とした、鍛えているのが良く分かる体と品の良い顔立ちがミスマッチな男と、フードを被った人物が入って来た。
「これはクコロー伯爵、それに領主様も我がギルドへようこそ」
「俺も挨拶が遅れたな、すまない。それでバーツ、どうなっている?」
クコロー伯爵はテーブルの上のワイングラスを凝視しているが、フードの男――領主の方は気が付いていないようだった。
「まずは領主様、テーブルの上をご覧ください」
「テーブル? おお!? なんと美しいグラスなのだ! その曲線美と言いボウル下部の細工はどうだ! 素晴らしい、そしてなぜそこまでクリアなのだ!! リムのなんと滑らかな事か、きっと氷の女神と口づけをするかの様な口当たりなのだろうか……ステムは妙齢の婦人が朝露を撫でる小指のようだ、それに――」
フードを着用しているので顔は不明だが、声からすると十代後半か、二十代前半程の男性に思える。
そんなどこかの骨董狂いを思い出しそうな残念な男、それがこの町の領主だった。
「コホン、子爵様。そろそろ落ち着くデスネ」
「ム……これは失礼をした。皆も許せ」
誰も子爵の暴走を止めなかったが、クコロー伯爵がそれをやっと諫める。
「子爵様も相変わらずだねぇ。で、どうです? 妾はこれをギアマンと見ていますが?」
「ああ、ヴァレリア公爵の言う通りだ、間違いない。しかも私達が知っている物より遥かに出来が良い。そうだろう、イグニス教皇?」
「ククク。はい、その通りです子爵様。現在教会がお預かりしている聖杯と同じ物、いやそれ以上の物かと」
「エルフの視点からどう見る、アリエラ?」
エルフの女、アリエラは静かに立ち上がると、ワイングラスに近づき魔力を込める。
「これをご覧ください。聖杯と同じく魔力の流がグラスの中に水を張ったかのように見えます。それにオリジナルより遥かに、魔力の密度が濃く渦巻いています。まず間違いないかと」
一同からは感嘆の溜息が漏れる。
「決まりだ。アダムズ伯爵、王都本部の冒険者の元締めとして、いつでも即応可能な準備を整えておけ」
「承知致しました、子爵様。それにしても長生きはするものですの~、まさかこの目でこんな光景が見れるとはのう~」
「さて、ご一同。これで決まりましたな。今後の彼については以前の轍を踏まぬように、出来るだけ放置と言う事でよろしいでしょうかな?」
そうバーツが言うと全員が同意する。
それを確認したトエトリーの領主が、魂の叫びとも言える決意を表明する。
「それでは皆の者、今度こそあのような失敗を二度と……そう、二度と繰り返してはならぬ! ここからは命を賭けて生き急げ!! 我ら三百年の悲願を叶える時が来た!!!!」
領主が右手を顔の高さまで上げ、その手で空を掴む様な仕草をする。
すると右手の中に、魔力で出来た真っ赤な盃が現れた。
周りの者の手の中にも同様の盃が現れ――。
「サクール」
トエトリーの領主である子爵がそう言うと、手に持った盃を床に勢いよく叩き落とす。
その直後、周りから同様のガラスが割れたような音が聞こえ、叩き割られた盃は粉々になる。
そして赤い砂塵となって消えて行った……。
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